たんなるエスノグラファーの日記
エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために
 



 狩猟キャンプ、深夜、私は眠っていた。
油ヤシのプランテーションの猟に行ったハンターたちが戻ってきたようだった。
プナン語で、カーン・モレム(kaan merem)、「夜の動物」という言葉が聞こえた。
寝ぼけまなこで、蚊帳から出て見ると、そこには、二頭の美しい動物が横たえられていた。
淡い黄色の毛並みに、全身にわたって太い縞模様が付いている。
夜の動物というのは、その動物の名前を直接的に言ってはいけないというプナンの習慣によって用いられたものであった。
プナンは、その動物に、これまた優しげな響きで、なぜか二文字のパナン・アルット(panang alut)という名を付けていた。
それは、ジャコウネコ科の食肉類、
タイガーシベット(Hemigalus derbyanus)であった。
プナンは、タイガーシベットは、夜に森のなかを歩いているのだと言った、だから、夜の動物なのである。
調べてみると、「国際自然保護連合」のレッドリストで、それは、「絶滅危惧II類」になっていた。
 


 

 プナン語でララック(Larak)と呼ばれる ボルネオヤマアラシ (Hystrix crassispinis)。
商業的な森林伐採後に植えられた油ヤシの木になる実を食べにやってくる動物は、イノシシとこのヤマアラシである。
夜の狩猟でイノシシ猟をしているとき、夜の闇のなかからふいに、ヤマアラシが近くまでやってきたことがあって、驚いたことがあった。
プナン曰く、ヤマアラシは、強い動物である。
なぜなら、それは、背中に捕食者に対する攻撃のための針を備えているからである。
後ろ向きになって、針を発射すると、それは、動物の身体に突き刺さるという。
森のなかを歩いていて、ヤマアラシの針が地面に落ちているのに出くわしたことがある。
プナンは私に、その針を指さして、ほら、戦い(喧嘩)があったようだと呟いたことがある。
写真は、油ヤシの実を食べに来て、捕獲されたメスの身重だったヤマアラシ。
ヤマアラシの肉は、けっこうイケル、うん、私は好きだ。


↑ プナン語で、バナナリス(Callosciurus notatus)はプアン(Puan)と呼ばれる。
リスは、プナンにとっては、セクシュアルな動物である。
動物学の文献を幾つか調べてみても、よく分からないのだが、とにかく、プナンがいうには、リスは森のなかで交尾ばかりしているという。
あっちに行っては交わり、こっちに行っては交わり、木の枝でも、地面の上でも、と彼らは言う。
ちなみに、YouTube に「リス、交尾」と入れて検索してみるとたくさん出てくるので、リスの交尾は目撃されやすいということかも。



↑ 偶蹄目のホエジカMuntiacus muntjak)は、テラウ(telau)と呼ばれている。
英語ではBarking Deer、メーティングや危険時に吼えるからその名がついたらしい。
猟では、ホエジカをおびき寄せるために、プナンは、草笛を使う場合がある。
それは、吼え声を真似ているというが、もっと物悲しい響きがする。

肉の味は、シカよりもコクがあって臭いがきつい。



↑ プナン語では、サウォ(sawe)と呼ばれるミズオオトカゲVaranus salvator)。
一般には、爬虫類に分類されるが、プナンの分類では、上の動物たちと同じカアン(kaan:動物)の仲間。
川のなかを泳いだり、ときには、木の上にも登る。
プナンは川に網を張って魚を獲るが、ミズオオトカゲは、網にかかった魚を食べに来る。
網がぼろぼろにされることもあるが、プナンは、ミズオオトカゲが
魚を食べに来るところを、槍で、場合によっては素手で捕まえる。
日々、川の内外で、人を含めた、生存のための戦いが繰り広げられている。
 

 ビントロングあるいはクマネコArctictis binturong)。
プナン語では、パスイ(pasui)と呼んでいる。
ネコ目(食肉目)ジャコウネコ科のビントロング属。
小さなクマといった見かけである。
プナンは、夜行性の動物であると言っている。
たしかに、夜に捕まえられることが多かった。



 プナンは、スリアット(seliat)と呼んでいた。
ジャワジャコウネコviverra tangalunga)だと思われるが、図鑑とはちょっと違うが、その一種なのだろうか。
夜、油ヤシのプランテーションの猟から狩猟キャンプに戻るときに、見かけたので、撃ち殺された。
夜に行動する動物だと、彼らは言っていた。
動物の右下に落ちているのが、弾丸がいっぱい詰まった散弾。



↑ ナミヘビ科のマングローブヘビBoiga dendrophila)。
夜に水浴びに行ったプナンが、樹上にいるところを捕まえた。
ヘビを捕まえるときには、彼らは、ふつうは、頭を叩いて脳震盪を起こしたり、頭を叩き切ったりする。
黒に黄色い帯があり、写真では、歯から毒を出すということを説明している。
料理して、翌朝食べた。

 ヒメヘビcalamaria sp.) の一種だろうか、同定できていない。
油ヤシのプランテーションを歩いているとき、前方を横ぎろうとしたとき、プナンは、刀の背で頭を叩き潰した。
毒があると言っていたし、食用とせず、そのまま放置した。



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