たんなるエスノグラファーの日記
エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために
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東南アジアの熱帯雨林とその周辺地域に住む人びとを対象に調査研究を進めてきた文化人類学者。
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『ドリームボックス』
人間と動物
/
2010年11月02日 08時10分21秒
小林照幸『ドリームボックス:殺されゆくペットたち』毎日新聞社
、2006年(2010-37)
このフィクションを読むと、やりきれない気持ちとともに、現代日本社会に生きていることを無性に悲しく感じる。ペットに注がれる愛情は、希薄化した人と人とのかかわりの代替であると言われることもある。それは、ある意味では、人の情緒の安定を保つ上で、必ずしも悪いことではないと言えるのかもしれないが、ヒト中心主義的な考えであることはけっして否めない。ペットに対する態度が、ペットの臓器移植やペット葬にいたるまでの「溺愛」から、死のうが生きようが関知しないという態度へと大きく歪んでしまうというのは、あまりにも極端なことであるし、その表(溺愛)と裏(不用品扱い)が、動物を愛玩化するという行為という同じ根から生じているという事実は、そうとう重いと感じる。
動物愛護センターが相次いで開設される高度成長期には、年間百万匹の犬猫が殺処分されていた。現在の倍以上の数だという。野良犬・野良猫の繁殖率が高く、家庭で飼われる犬猫の不妊・去勢手術が一般化していなかった時代のことである。殺処分を課された動物愛護センターでは、一頭ずつバットで殴り殺され、焼却炉に放り込まれていた。その後、金属バットによる撲殺に切り替えられたが、木製バットのほうが即死させやすかったともいう。その後、犬猫の苦痛を少しでも和らげて、眠るがごとく殺処分するために、「ドリームボックス」と名づけられた装置が登場した。犬猫は、獣医のボタン操作によって、前進させられ、やがて、鉄製の箱、通称ドリームボックスのなかに閉じ込められる。そこに、炭酸ガスが注入され、犬猫たちは殺処分される。
殺処分という、近年よく耳にする言葉。それは、国語辞典には収載されないらしい。それは、犬猫や動物をやむなく殺し、処分せざるを得ない行政職でのみ使われる専門用語なのか。動物愛護センターで殺処分された犬猫は、その後、焼却炉で焼却される。週に900リットル使われるのだとすれば、年間、どれだけ多くの灯油が使われるのだろうか。資源の無駄使い?
動物愛護センターに連れて来られた犬は、抑留犬日報に掲載され、ホームページで公開される。抑留犬日報に記載された日から一週間後に、犬たちは殺処分される。ホームページを見たという女の子からの電話。「返還にお金はかかりますか?」「・・・返還手数料が三千円、餌代は六日分の六百円、予防注射手数料の二千四百五十円で、合計六千五百円です」”えっ、なんで、そんなに高いのよ?県の施設でしょ””親子の会話が受話器越しにまた聞こえてくる。しばらく間を置いてから、「明日行きます」と女児が返事した。・・・思わず、「お母さんに代わって!」と言おうとした途端、電話が切れた。・・・「あの電話、”ああだ、こうだ”と指示を出しているのって、おそらく親だろうね、かつての愛犬を捨てたはいいが、センターに収容されたのが後ろめたくて、子供に電話させたんだよ」・・・
ホームページを見てやってきた若い夫婦は、雑種を返還してもらうために抑留室に向かう。赤いマニュキュアをした女はいう。「どうせなら、あれをもらおうよ。あたし、ダルメシアンを一度、飼ってみたかったんだ。大きさもあんまり変わんないしさあ」。男「そうだな、あれがいいな。」「あのさ、あれもらえる?」職員「あのダルメシアンですか?」男「そう、あれ。そっちの雑種はいいから」・・・「雑種のワンちゃんは、このまま返還に至らなければ、あさっての早朝には処分されますよ。いいのですか?」・・・・「数字の上では、どっちが殺されても同じじゃない。あんたさあ、難しく考えてない?」「そういうものじゃないですよ。返還というのはですね・・・」五分後、夫婦は憮然として、バカヤロー!ザケンナ!と口々に言って事務室を通り抜け、エンジンを大きくふかし、センターを後にしていった。
この本には、こうした抑留犬をめぐる元飼い主と職員のやり取りだけでなく、モリを腹に打ち込まれた、虐待にあった猫と、助けられたモリ猫をめぐる市民の関心の高まり、殺処分される予定の犬猫を救うため、不妊・去勢手術を施して市民に譲渡するために行われる会の様子など、ペットをめぐる人間の態度、活動が描き出される。ペットは、人間の社会の映し鏡である。わたしたちは、どのように、ペットを可愛がってペットと共存しながら、その状況を肥大化させた社会をつくり上げたのだろうか。こうした行き過ぎを、補正する手立てはないのだろうか。なんともやりきれない。人と動物の関わりについて、その根源に立ち返って、考えてみなければならない。
「動物愛護」の一端は、YouTubeでも紹介されている。
http://www.youtube.com/watch?v=FuAluci0Dhs
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