ー秘密と嘘ーSECRETS & LIES
1996年 イギリス 142分
マイク・リー監督・脚本 ブレンダ・ブレシン(シンシア)ティモシー・スポール(モーリス)フィリス・ローガン クレア・ラッシュブルック マリアンヌ・ジャン=バプティスト(ホーテンス) エリザベス・バーリントン リー・ロス
【解説】
96年度のカンヌ、パルムドール大賞を受賞したヒューマン・ドラマ。教養もなくひたすら陽気なだけが取り柄のような中年女シンシア。だがしかし、彼女にはどこか暗い陰りがあった。私生児の娘ロクサンヌと二人暮らしの彼女は、若い時分のふしだらさを年頃の娘に非難されてばかりいたのだ。子供のいない写真館を営む弟のモーリスは姪っこ可愛さに、姉を経済的に援助している。人生の成功者である彼も、浪費家の妻と共にどこか救われない悲しさを抱えている……。(allcinema ONLAINE)
【感想】
また、素敵な作品を発掘しました。
これは、これは!
マイク・リー監督はわりと最近に「家族の庭」を見ました。
ずいぶん突き放した描き方でちょっと冷たい感じがしましたが、この作品は、突き放した描き方は変わりませんが、見終わった後、温かい涙がこぼれました。
モーリス(ティモシー・スポール)は写真館を営んでいる。
妻と二人の裕福な暮らし、1年前に家を新築した。
子供がないので、姉シンシア(ブレンダ・ブレシン)の娘ロクサンヌをかわいがっている。
でも、ロクサンヌも思春期からは疎遠になってしまった。
そんな夫の気持ちを察して、妻はロクサンヌの21歳の誕生日を我が家で開こうと提案する。
そんな優しい妻なのに、ときどき腹痛やいらいらに悩まされて、体調が悪そうだ。
ぜいたくだけがはけ口になっている。
一方、シンシアはおんぼろの実家で、母亡き後、父と弟のモーリスの世話をして来た。
ロクサンヌができた後は、工場で働きながら暮しているシングルマザー。
モーリスの援助も少し受けている様子。
一人娘のロクサンヌは市役所で路上のゴミ掃除を担当している。
ボーイフレンドとくっついたり別れたり、母が父親もわからない自分を産んだことを暗に非難していて、親子の関係は悪い。
ホーテンス(マリアンヌ・ジャン=バプティス)は、検眼士をしている独身女性。
最近母親を亡くした。
7歳のときに両親から自分は養女であることを打ち明けられていた。
母が亡くなったことを機に、実の親を捜し始めた。
法律が変わって、出生届が開示されたのだ。
自分の母親が白人のシンシアだと言うことを知る。
そう、ホーテンスの肌の色は黒だった。
☆ネタバレ
ホーテンスから連絡を受けたシンシアはびっくりするが、二人は会うこととなった。
当時16歳だったシンシアは、自分の産んだ赤ん坊も見ずに養子に出してしまっていた。
まさか黒人の子供とも思っていなかった。
男か女かも知らなかったのだ。
しかし、ホーテンスには動揺する母を受け入れる器があった。
シンシアとホーテンスはしばしば会うようになった。
本来陽気で情に厚いシンシアは、ホーテンスも実の子として愛するようになる。
そして、モーリスの家でのロクサンヌの誕生会にもホーテンスを招待した。
☆ネタバレのネタバレ
家族が持ち寄った「秘密と嘘」。
ここで、シンシアの考えのなさからホーテンスがロクサンヌの姉だということを明かされる。
何も知らされていなくて、傷ついたロクサンヌは家を飛び出すが、モーリスに諭され戻ってくる。
この家族の話し合いが、この作品の真骨頂。
モーリスの妻の不妊の苦しみも語られ、シンシアは心から同情する。
そして、モーリスはここまでのホーテンスの忍耐を賞賛するのだった。
ここですよね。
母に捨てられて、しかも黒人であるホーテンス、一番傷ついているはずのホーテンスをモーリスが賞賛するシーン、ティモシー・スポールの演技が素晴らしいです。
「ハリポタ」シリーズの鼠男ですけどね。
ホーテンスは何があっても冷静ですが、それは実の親を捜そうと決心したときに、何があっても受け入れようと、覚悟を決めたからなのでしょう。
ホーテンスの真実に立ち向かう勇気が、秘密と嘘に塗り固められた家族に幸せの扉を開けたのでしょう。
ラストは日の当たるシンシアの家の庭で、二人の娘に囲まれてお茶を飲んでいます。
「人生っていいわね」とシンシアが言う。
あなたが言うか?と突っ込みそうになりますが、ほんと、そうかもしれませんね。
モーリスの妻のように、夫も家もあってぜいたくできても、絶対に手に入らないものもある。
何が自分にとって大切かという話ですが。
シンシアも辛い人生でしたが、結果がよければすべてよしなのでしょう。
子供が財産、家族が財産。
私も実感だなあ。
若い人には、家族を作る努力をして欲しいというのが、おばちゃんとしての私の願いです。
若い人たちに幸あれ。