ー鉈切り丸ー
演出=いのうえひでのり 脚本=青木豪 音楽=岩代太郎
キャスト
源範頼=森田剛 巴御前=成海璃子 源頼朝=生瀬勝久 北条政子=若村麻由美 源義経=須賀健太 梶原景時=渡辺いっけい 和田義盛=木村了 比企の尼=宮地雅子 建礼門院=麻美れい イト=秋山菜津子
【あらすじ】
時は平安末期、源範頼(森田剛)は、嵐の中木曾義仲を追っていた。
範頼は兄源頼朝(生瀬勝久)の弟に当たり、義経(須賀健太)の兄であった。
その姿は、せむしでびっこ、顔には醜い痣もあった。
実母は女郎で、生まれたときにへその緒を鉈で切ったところから、幼名を「鉈切り丸」と名付けられた。
権力を得た兄には従順なところを見せていたが、胸の奥にはどす黒い欲望が渦巻いていた。
【感想】
劇団☆新感線の作品だとばかり思っていましたが、これはいのうえシェィクスピアのシリーズなのですね。
いのうえさんはよほど「リチャード三世」がお好きなようで、ご自身も3作目だとおっしゃっています。
「朧の森に棲む鬼」も「リチャード三世」が下敷きに作られた作品だそうですし、そのものずばり、古田新太主演の「リチャード三世」もありました。
今回は、平安末期の乱世、存在さえ知らなかった源範頼をリチャード三世に重ねています。
範頼にはV6の森田剛。
鬼気迫るような役作りで、圧倒されました。
範頼には、最高権力者になってからのビジョンなどはなく、ただただ、権力を手に入れたいという上昇志向だけで動いている人物。
母親からも命を狙われ、たったひとかけらしかなかった愛情も、歪んだ形で終末を迎え、愛する女性とお腹にいた自分の子まで惨殺してしまいます。
最終的には、歴史からも名を消され、壮絶なる最後を迎えます。
本当に、森田剛の熱演でした。
頼朝と北条政子の夫婦は、本当にこうだったんじゃないかなあと思わせるくらいのイキの良さで、笑わせてもらいました。
建礼門院の生霊、麻美れいもすごいオーラで圧倒されました。
平安末期と言えば、終末思想に貴族たちは怯え、都は混沌としていた時代です。
地方は武士の台頭によって混乱し、政治形態も、庶民の生活もがらりと変わろうとしていた時代。
そして、新興宗教や、彫刻や建物など、新しい息吹も感じられる時代。
そんな流動的な時代に、このお話の背景を持って来たことが、この作品の成功のひとつではないかなと思いました。
範頼のキャラクターが実にしっくりハマる感じがしました。
「歴史は勝者が書き換える」
北条政子のセリフも面白かった。
歴史は、確かに勝者の歴史なんだなあ。
それは今も変わらないですよね。