ー許されざる者ー
2013年 日本 135分
監督=李相日 キャスト=渡辺謙(釜田十兵衛)柄本明(馬場金吾)柳楽優弥(沢田五郎)忽那汐里(なつめ)小池栄子(お梶)近藤芳正(秋山喜八)國村隼(北大路正春)滝藤賢一(姫路弥三郎)小澤征悦(堀田佐之助)三浦貴大(堀田卯之助)佐藤浩市(大石一蔵)
【解説】
クリント・イーストウッドが監督と主演を務め、アカデミー賞作品賞などに輝いた西部劇をリメイク。江戸幕府最強の刺客として恐れられた男が、やむを得ぬ事情から一度は捨てた刀を手にしたことから壮絶な戦いに身を投じていく姿を描く。メガホンを取るのは、『フラガール』『悪人』の李相日。ハリウッドでも活躍が目覚ましい渡辺謙をはじめ、、柄本明、佐藤浩市らキャストには実力派が結集。彼らの妙演に加え、開拓時代の西部から明治初期の北海道への舞台移行などの改変点にも注目。
【あらすじ】
1880年、開拓が進む江戸幕府崩壊後の北海道。人里離れた土地で子どもたちとひっそりと暮らす釜田十兵衛(渡辺謙)だが、その正体は徳川幕府の命を受けて志士たちを惨殺して回った刺客であった。幕末の京都で人斬(き)りとして名をとどろかせるも、幕府崩壊を機に各地を転々と流れ歩くようになり、五稜郭を舞台にした箱館戦争終結を境に新政府の追手をかわして失踪。それから10年あまり、十兵衛に刀を捨てさせる決意をさせた妻には先立たれ、経済的に困窮する日々を送っていた。そこから抜け出そうと、再び刀を手にする彼だが……。(シネマトゥデイ)
【感想】
この作品は1992年のアメリカ映画「許されざる者」(監督・主演クリント・イーストウッド、1992年度のアカデミー賞作品賞受賞)です。
そんな名作を「フラガール」「悪人」の李相日監督がリメイク。
時代は幕末、舞台は北海道です。
私はこの作品を見終わった後、オリジナルよりもテーマがより明確に観客に届いたと感じました。
人間と暴力、これも永遠のテーマですね。
暴力が理性を伴っているときは、まだ正当性もあるのでしょうが、暴力が理性から離れ、一人歩きをしたとき、怒りと恐怖に支配されて、非情で残酷な許されざる行為となるのでしょう。
かつては人斬りと恐れられた釜田十兵衛(渡辺謙)も、元をただせば幕府側の刺客であった。
明治政府に幕府が破れ、ただのお尋ね者となり、北海道へ逃げ延びて、追っ手を惨殺していたが、ある時アイヌの妻をめとり穏やかな生活を知った。
しかし、その妻も亡くして、今は子供二人と密かに荒れた農地しがみついて暮していた。
貧しく、希望も失われそうだった。
そこへ、昔の仲間の金吾(柄本明)が現れ、賞金稼ぎに誘う。
亡き妻に「人殺しはしない」と誓った十兵衛だったが、賞金につられて金吾の話に乗った。
途中、沢田五郎(柳楽優弥)が噂を聞きつけついてきた。
賞金は、宿場の女郎たちがお金を出し合ってかけていた。
事件の発端はこうだ。
開拓民の左之介(小澤征悦)卯之介(三浦貴大)兄弟が、女郎のなつめ(忽那汐里)とのいざこざで、なつめの顔に深い傷を負わせた。
兄弟はつかまり、警察所長の大石(佐藤浩市)がやってきて、宿屋の主人(近藤芳正)に馬6頭の賠償で折り合いを付けた。
がまんのならないのは女郎たち。
自分たちが傷つけられたのに、なんの罰もないというのに腹を立てた年増女郎のお梶(小池栄子)が仲間を集めて賞金をかけたのだった。
噂は大きくなり、金吾の耳には女郎を切り刻んだ大悪党として名前が届いた。
☆ネタバレ
宿場までの道中、新政府軍がアイヌの村で虐待したり、賞金稼ぎが宿場に来たときには、大石が正義を振りかざして暴力で追い払ったりという、暴力にまつわるエピソードがいくつも重なって描かれて行きます。
十兵衛の葛藤も描かれて行くのですが、結局、武器を持っていない卯之介を殺してしまったところから、金吾は脱落した。
五郎も、左之介を殺したのが生涯初の人殺しで、大きなショックを受けてしまった。
十兵衛は女郎から賞金を受け取って帰ろうとするが、なつめから「金吾が大石から折檻を受けたあげく、何も言わずに亡くなった」ということを聞き、自分一人で大石のところに殴り込みをかけるー。
考えてみればこの大石も、権力の中で暴力を使う、いけ好かない奴だけど、町の平和を守という職務を全うしているに過ぎない。
十兵衛は金吾の敵討ちのためだけに、最後の殺戮を繰り広げたのだろうか?
私は違うと思った。
十兵衛の中にあった非情な暴力、それは、妻に会うまでに十兵衛の体の中に兵隊としての訓練で叩き込まれたものが解き放たれたのではないかなと思いました。
そういうふうに訓練された人は、暴力が自分の業となって、スイッチが入ってしまうと殺人マシーンのようになってしまうんじゃないだろうか?
許されざる者とは、十兵衛のような、理性を通さず冷静に人を殺せる、つまりは殺人のために訓練された人なのではないでしょうか?
だから、十兵衛は子供たちの元に帰れないんだと思いました。
この辺がオリジナルとは違って、すごくストレートな暴力への反省という感じで、私には判りやすいなあと思われたところでした。
そして、五郎となつめが十兵衛の子供たちとともに、土と一緒に生きていこうと決心するところが、暴力の否定、答えなんだと思いました。
五郎を演じた柳楽優弥君。
立派な青年になりましたね。
これからの活躍が楽しみです。