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[SF] 書架の探偵

2017-09-12 23:05:28 | SF

『書架の探偵』 ジーン・ウルフ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

最初に「本が探偵の推理物」と聞いて興味をそそられた。しかも、著者はジーン・ウルフだと言うではないか。これはと思って期待して読み始めた。

細かく言うと、本が探偵ではなく、作家の複製体(リクローン)の主人公が探偵役。著作物だけではなく、作家本人に文化的価値を認めて、それをどうにかして保存しようというのは非常に良いことだと思うのだけれど、保存の仕方が大問題。

複製体がどのようなモノなのかは説明はされないのだけれど、見た目はヒトと区別がつかず、自我も感情もあり、スキャンされた時点での著者の記憶も持っている。しかし、あくまで彼らはモノでしかなく、図書館の狭い書架に押し込められて生活し、その生活さえも展示物としてプライバシーなく公開される。

なおかつ、図書館の蔵書ならぬ蔵者であるため、閲覧や貸し出し実績が無ければ、いずれ焼却処分にされるという。

「もし本が人間だったら」というifに、電子書籍に押されて行き場の無くなった紙の本の悲哀を込めているのだろうが、蔵者である彼らはその運命に反抗するのではなく、静かに受け入れ、ただひたすらに利用者に貸し出されることだけを願う。

そんな蔵者であるE・A・スミス(E・E・スミス! C・A・スミス!)の前に、謎とともに現れた女性コレットが彼を借り出したところから、ミステリーの王道である殺人事件の謎解きが始まる。

さて、ジーン・ウルフと言えば、“信用できない語り手”がよく登場する。この物語も、当然ながら、そう。

最後に殺人事件は解決したかに見えるのだが、その結末からも、コレットが“信用できない語り手”であることは明らかだ。

さらに、この物語の語り手であるスミスは作家の複製体である。しかも、『火星の殺人』なんてタイトルの作品を書くような人物の複製体である。彼は、図書館において、複製体が文章を書くことを許されていないことに憤りを感じている。そんな人物が隠れて書いた文章が、すべて脚色無しのノンフィクションであると考える方がどうかしている。

そう考えると、「鍵のかかったドア」の向こうの世界なんかは、実は書かれたようなそのままの場所では無いのではないかとか、いろいろと想像が膨らむ。

実際、記述の中には矛盾もあるし、主人公自身がそれに言及しているシーンさえある。それが、どこまでが著者(ジーン・ウルフ)のミスで、どこまでが計算なのかは知る由も無いわけだが、それでもやっぱり、隠された真実があるような気がして、もう一度最初から読み返してみたくなるのである。

 



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