行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

【2019古都取材ツアー③】どん底からの復活

2019-05-05 05:47:10 | 日記
前回紹介した「城南宮・曲水の宴」の映像作品には、最後に二つの団体に対する感謝が明記してある。



交通費から宿泊費、各取材費までを支援してくれた笹川平和財団と、映画が撮影できるほどの優れた機材を提供してくれたソニー汕頭支社である。この二団体の支援がなければ、私たちの取材ツアーも順調にはいかなかった。ソニーの協力は、学部同僚で、日本留学の経験がある写真家、凌学敏先生が仲立ちをしてくれた。学生にとって大きな励みになった。出発直前にわざわざソニーの担当者が大学に来て、講習会まで開いてくれた。









賛助に関しては、生涯忘れ得ない経緯がる。中国には「家丑不可外扬」と言って、身内の恥は外に漏らさないということわざがあるが、あえて打ち明けなければ感謝の重みも伝えられない。一時期は取材ツアー自体を断念せざるを得ない状況に追い込まれたのである。

汕頭大学新聞学院の日本取材ツアーは私が赴任した翌年の2017年から始まり、18年も継続し、今年が3回目だ。すでにシリーズとして認知され、応募学生は年々、質量ともに高まっている。今回は春節休みに入る全学期末の1月初めに公募を開始した。書類審査を経て2月下旬、今学期の始業前に面接を行い、8人のメンバーを確定した。その後は頻繁に会議を開き、事前学習や取材テーマの選定を急いだ。天皇の代替わりを現場で経験するため、4月から5月にかけての日程を組んでいたので、時間的制約の中、集中的に精力を注いだ。

ところが3月に入り、これまでと同じようにあてにしていた学内の海外関連予算が、わずかしか配分されないことが判明した。日本取材ツアー以外の事業が相次ぎ中止を余儀なくされるなか、私は、すでに力を注いできた学生たちの期待を裏切るわけにはいかず、自腹を切ってでも行う覚悟をした。だが、個人色が強くなるのは好ましくない。学部内の見解も、できるだけ外部の賛助を集めて行うのが望ましい、とのことだった。

そこで途方に暮れた。これまでお金集めはしたことがない。学生の真剣な顔を思い浮かべながら、心当たりの知り合いに相談をしたが、色よい返事は返ってこない。学生たちにも真相をありのまま伝え、自分たちに何ができるかを相談した。熱意しか伝えられないとしたら、それをどう形にするか。メディアを学ぶ新聞学院の優位を生かすことはできないか。彼女たちの結論は、メンバーの写真を使ったポスターを作り、顔の見えるメッセージにして伝えようとのことだった。こうして徹夜で仕上げたのが、チーム「新緑」2019のメンバー紹介ポスターだった。



早朝、チャットで完成作品が送られてきたのを見たとき、涙があふれてくるのを止められなかった。その前日には、面識のあった笹川平和財団の日中交流事業担当者に協賛のお願いをしていた。早速、ポスターを添えて、念押しのお願いをした。以下がメールの文面である。

「朝から失礼します。何度もしつこく申し訳ございません。経費の問題を知った学生たちが、自分たちにできることは何かと考えた末、今朝、ウィーチャットで送られてきたのが添付のポスターです。彼女たちの気持ちです。私はこんな学生に囲まていることを誇りに思い、そして彼女たちのためであれば何でもしてあげたいと思っています。どうぞよろしくお願い申し上げます。」

そしてすぐに、「加藤先生と教え子さんたちの情熱に心が打たれています。学生さんたちに有意義な楽しい取材旅行の機会を作りましょう。」と快諾の返事が送られてきた。私は以下のお礼を送信した。

「こんなに早くご快諾のお返事をいただけるとは想像もしませんでした。夢のようです。ありがとうございます!学生たちも飛び上がらんばかりに喜んでいます。なんとお礼を申し上げてよいのかわかりません。いずれ学生たちにも感謝のお礼状を書かせます。ご存知のように中国には『家丑不外扬』という言葉があります。今回はその恥を忍んで、学生のためにすべてをかけました。思いが通じたことに歓喜しております。」

一時は暗礁に乗り上げた9人乗りの船が、思わぬ波に救われ、大海を進み始めた。以降、私だけでなく学生たちも、学内で事情を知る教師や事務員に会うたび、「あなたたちは大したものだ(不容易)」と驚嘆の声をかけられた。

笹川平和財団には、日中友好基金事業室の早乙女尚さんが、取材日程の前後、東京から京都まで来られ、取材活動への同行だけでなく、関西国際空港から宿泊先までの送迎、さらには歓迎会や歓送迎会まで開いていただいた。私や学生の手が回らないときには、通訳や交通の手配など、取材の手伝いまでしてくださった。

手元にある何枚かの記念写真には、遠慮がちな早乙女さんの姿が写っている。





学生たちはそのきめ細かい配慮や思いやりに感動し、チームの一員のように接していたのが印象的だった。最後、関空でのお別れでは「5月25日、大学での報告会でお待ちしています」と何度も繰り返していた。縁を大切に、との思いを実感できたことが、お金には代えられない収穫だった。

(続)

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1 コメント

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すばらしき縁 (Unknown)
2019-05-07 10:35:52
 まさに、”Where there’s a will, there’s a way.” 、「渡る世間に鬼はなし」ですね。
         神戸の読者

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