行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

「なぜ日本のメディアは中国を悪く報じるのか?」という問いに対して

2016-04-07 09:54:16 | 日記
上海でベクトルチャイナが主催したリスク管理セミナー、北京で日本人学術交流会が主催した勉強会でそれぞれ講演し、いずれの場でも現地で暮らす日本人から聞かれた質問がある。

「日本のメディアはどうして中国の悪いことばかり報じるのか」

この問いは、日本でしばしば「中国共産党はいつ崩壊するのか」「習近平に2期目はあるのか」と聞かれる質問と呼応している。後者もまた日本に伝えられる中国のマイナス報道を反映しているからだ。現地駐在員は、日本での報道を信じ込む本社に振り回され、本来の仕事にあてるべき時間の多くを本社とのやり取りに削られる。たまったものではないという気持ちもよく理解できる。

尖閣諸島をめぐる問題で日中関係が緊張化した2012年以降、同様の質問を何度受けたかわからない。私の答えは以下のようなものである。

まず最初に「ではメディアが変わったら世論が変わるのか、そうではない」と前置きをする。報道の受け手である大衆もまた、ある先入観、偏見を持ってニュースを見る傾向がある。失われた20年、東日本大震災、景気の低迷で自信を失う日本の横で、大国化をひた走る中国がいる。中国がGDPで日本を抜いたのは2010年だが、その4年後には日本の倍になっている。国際情勢の変動による現状の変化を受け入れる心の準備ができていないため、「やっぱりそうだよな」「だから中国はだめなんだ」とステラおタイプの認識に逃げ込んで安心したい気持ちがある。いわゆる内向き志向である。

だが、こうした大衆の感情に迎合しているメディアにも大きな責任がある。日本の新聞業界は部数の減少を食い止めることに精いっぱいだ。全体のパイが減る中、競争の市場原理によるクオリティーの上昇が図られるのではなく、他社のパイを奪い合う共食いの発想が先行している。沈みかかった巨大艦船の中で、せめて自分は他者よりも長く生き延びようしているに過ぎない。情報化時代の変化に応じたビジネスモデルを構築できておらず、そのビジョンもない。守りの経営方針は、守りの編集方針につながり、極度に失敗を恐れる体質が蔓延している。こうして誤った潮流をとどめるのではなく、安易に世論に迎合する体質がはびこる結果を招いている。

また現場の記者と東京の受け手デスクの力量にも問題がある。中国が大国化し、その動静が国際社会に大きな影響を与えるようになった。北京の特派員は連日、各種記者会見や中国メディアの報道、東京本社からの原稿発注に追われ、じっくり現場を歩き、勉強をする時間がない。平均3~4年の任期がくれば交代となるので、せっかくの経験も生かされず、新たな記者がまた同じ記事を繰り返すという愚を招く。新人記者は過去記事をお手本にして、それをなぞるように原稿を書いているケースが多い。これには東京の不慣れなデスクも同様で、過去記事にこだわる傾向が強い。前例踏襲が一番安全な方法だからである。記者は自分で考えず、東京の指示に忠実なモルモットと化す。こうしてステレオタイプの記事が量産されることになる。

上海のセミナーでは、地元テレビの若い中国人ディレクターと一緒に講演をした。彼が中国メディアの対日報道について、かつては悪い日本(歴史問題、領土問題など)とよい日本(アニメ、ドラマなど)の「二極化」から「全面かつ客観的」に変化してきているという指摘があった。是々非々で日本を見ることができるようになり、それが訪日観光の急増にも表れているというのである。


(3月23日、上海リスク管理セミナーで)

確かにそうかも知れない。だとすると日本の対中報道の方が、かつての余裕を失い、二極化どころか一極化に向かっているのではないかと危惧せざるを得ない。日本人の世界、隣国である中国への関心がどんどん薄まり、狭まり、訪中客や留学生も減っている。中国にビザなしで15日間、滞在できるのは日本とシンガポール、ブルネイだけである。このままではその特典もいつの日か見直されるに違いない。そうならないよう、多くの人々を巻き込んで地道な情報発信を続けるしかない。


(4月3日、北京日本人学術交流会で)

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1 コメント

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Unknown (tony)
2018-09-19 00:35:49
こんなに中国を悪魔化と宣伝するようになったマスコミは勿論政府の許しがあってそう報道してるでしょう。何でもかんでも中国が悪いとの報道は山ほどあります。中国の良い面を報道しなきゃいけない時にも、絶対に悪くも表現する。負け組が勝ち組に嫉妬と中傷話をするしか思わない。 どんどん発展しに行く中国にとっては何も損がないが、日本人にとっては世界の無知者になるのは損ばかりだと思います。 
そもそも、一般人が最初の中国に印象悪いのもマスコミと政府の悪宣伝であるから、これから素の中国の情報を日本人に知らせないとずっと騙される日本人は可哀想だと思う。だから世界に愚民政策をされてると言われてるんだ
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