片山修のずだぶくろ Ⅰ

経済ジャーナリスト 片山修のオフィシャルブログ。2009年5月~2014年6月

写真家・瀬戸正人さんと語る_最終回

2011-11-11 18:00:51 | インポート

最終回 新しいメディアと共に

片山 いま、デジタルとフィルムがあって、写真の世界に迷いはないんですか。
僕なんかは、フィルムの方が、あるいはモノクロの方が、デジタルのカラー写真より、何か喚起されるものがあるんだけど、かといって、モノクロフィルムの写真がすべてを物語るかというと、そうでもない。
でもね、やっぱり、モノクロ写真を見るとほっとするところもあるわけよ。
なぜかホッとする。


瀬戸 技術の進歩で、これまで見えなかったものが見えるようになったりしていますよね。暗いところで写真が撮れたり、自動補正がついたり。
フィルムの時代は、技術がそこまでいたっていなかった。
ただ、現実問題、人間の目ってそんなにきれいに見えるのか。
闇は、闇としてあっていいじゃないかというのも、あると思うんです。


片山 ボーッとしたところがあっていいと。

瀬戸 そう。ボーッとしたり、ぼけていていい。それを含めて写真なので。
シャープならいいというわけじゃない。


片山 話は写真からそれますが、いま、スカイツリーの取材をしているんだけど、照明、ライティングなんかもそうですね。
昭和30年代に建てられた東京タワーのライティングは、すべてを照らし出すじゃないですか。あれが、本当にいいのか。
すべてを照らし出すのは、高度成長時代の照明ですね。あの時代は、蛍光灯の下で、何もかも見えるようにする照明だった。
でも、現代のスカイツリーのライティングは、全体が均一に光るわけではない。ぼんぼりですよ。


瀬戸 そう、あれくらいでいい。おもしろいですよね。ムードがあるよね。

片山 ああいう、ほのかな光のなかにこそ、真実があるんじゃないかと思いましたね。
だから、俺、思うけど、写真はやっぱり心ですよ。


瀬戸 そう、心。だから、メディアなんてなんでもいいんですよ。フィルムでも、デジタルでも、携帯でも、関係ない。僕らはそれを使う立場であって、フィルムがなくなったって「写真」を撮り続けるわけだから。

片山 技術は進歩するものだからな。だから、いろんな写真があっていいんだね。

瀬戸 まあ、フィルムがなくなったら、世界中の写真家に呼びかけて、フィルムを僕らでつくっちゃおうという話もありますけど。

片山 いま、本の世界にもデジタルが入ってきて、電子書籍化が進んでいる。でも、やっぱり紙の本は、絶対、残るでしょうね。フィルムが残るように。

瀬戸 写真って、電子書籍化にぴったりなんですよ。写真の場合、デジタル化して宣伝して、プリントを買ってもらうのが最終目的になる。
印刷した写真集が見たい人はもちろんいて、買ってくれればいいけれど、写真集の世界は印刷が何千部というごく限られた数だったりします。すると、見てくれる人が限られる。デジタルなら、もっと広く、世界中の人に見てもらうことができます。それを見て、印刷した写真集をほしいと思ってくれればいい。


片山 それは、美術でもそうですね。ルーブル美術館でモナリザを見るのと、デジタルでモナリザを見るのは違うからな。

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瀬戸 最終的には、本物を見にいかないといけないんですよ。

片山 自分の目で見て、自分の心に刻むと。

瀬戸 そうですね。
まあ、デジタルとアナログは、どっちがいいという話ではない。
両方いる。両方必要だということだと思います。


片山 おもしろい時代ですね。混沌としているから。いいじゃないですか。
写真も変わっていくでしょうね。インターネットもありますし。


瀬戸 そうですね。僕は、電子書籍は、一つ新しいメディアができたと思って喜んでるんですよ。

片山 長い時間、どうもありがとうございました。

瀬戸 こちらこそ、ありがとうございました。

瀬戸正人:1953年 タイ国ウドーンタニ市生まれ。1961年に父の故郷である福島県に移住。森山大道に師事し、1996年、写真展「Living Room, Tokyo 1989-1994」「Silent Mode」で第21回木村伊兵衛写真賞、第8回写真の会賞、2008年日本写真協会年度賞など受賞歴多数。ほかに1999年『トオイと正人』(朝日新聞社刊)で第12回新潮学芸賞受賞など。日本を代表する写真家の一人。最近では、『東日本大震災――写真家17人の視点』(アサヒカメラ特別編集、朝日新聞出版)に、写真を掲載。