モノ・語り

現代のクラフトの作り手と作品を主役とするライフストーリーを綴ります。

日本的りべらりずむⅥ 京極派の和歌(4)その特徴と主な歌人たち:

2021年12月17日 | 日本的りべらりずむ

為兼、伏見院亡き後、京極派は伏見院を後継した花園院、光厳院が指導者的な立場に立って、その活動が引き継がれていきます。

そのあいだ永福門院は健在で、出家の身にあって一族の境涯を見守りつつ激動の時代(皇統が南北朝に二分して争い合う)を生き抜きます。

今回は、多数の歌人の作品の中から京極派和歌の特徴がよく出ているものをいくつか紹介しておきましょう。

(特徴として3項挙げて、それぞれについて代表的な作品を2首づつとりあげました。
代表的な作例を挙げるとすればやはり為兼、伏見院、永福門院の歌ということになりますが、ここでは、他の主だった歌人の紹介も兼ねる意味で、上記三者以外の歌から選んでいます。)


A.自然界に絶えず起こっている微細な変化(移ろい)を適確に描写して、その時空の美を表現する。
  山のはにいり日うつろふ紅のうす花ざくら色ぞことなる    亀山院(玉葉)

   [作者]第90代天皇(在位1260-74年)
    為兼より5歳年長。亀山天皇の代に皇統が二分して、亀山天皇が大覚寺統の初代になります。
   歌は繊細な歌いぶりが特徴です。

  めにちかき庭の桜の一木のみ霞みのこれる夕暮の色     九条左大臣女(玉葉)
   [作者]家系的にいえば為兼のいとこになる。為兼より3歳ほど年長と推測される。
    源氏物語などの古典文学に通じていて、詠いぶりはシャープな感性を感じさせる。

B.旧来の歌題や歌語にとらわれぬ自由な発想と表現法
  更けぬなり星合の空に月は入りて秋風うごく庭のともし火    光厳院(風雅)

   “星合”は七夕の意味。
  [作者]伏見院の孫で北朝初代天皇(在位1331-33年) 
   後期京極派の主要な歌人の一人。『風雅和歌集』の選者



しぐれつる空は雪げにさえなりてはげしくかはるよもの木がらし 永陽門院少将(玉葉)
   [作者]伏見院、およびその妹永陽門院に仕えていた女性。    
    伝統和歌には見られない特異な語句の使用率が高い。

C.「自分の心をもう一人の自分が見る」如き態度で心理分析的に詠出する恋歌、
  思ひ絶てまたぬもかなし待もくるし忘れつつある夕暮もがな     花園院(風雅)

   [作者]第95代天皇(在位1308-18年) 
    後期京極派の指導者 『風雅和歌集』の企画監修者

  我が心うらみにむきて恨みはてよあはれになれば忍びがたきを  従二位為子(風雅)
   [作者]為兼の姉。伏見院、永福門院に仕える。
    玉葉集、風雅集にわたって多彩な歌いぶりを示している。

全体の印象として、なんとなく親しみ感が持てませんか? 

そのように感じられるとしたら、それだけ“近代的な表現”(写実表現とか心理描写とか)に通じるものがあるからと思われます。

室町期文芸の世界がここから開けていくと私は考えています。
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