この本、すごく面白かった。
表紙の絵は誰もが知っているだろう。
「オフィーリア」
この絵は、真冬にほとんど暖房のない部屋で、モデルの女性を水を張ったバスタブに浮かせて描かれたもので、女性は危うく死ぬところだった。
ルーブル美術館から「モナリザ」を盗んだイタリア人青年は、フランスに盗まれた「モナリザ」をイタリアへ取り返した英雄となった。
もともと一枚の絵に描かれていた恋人ショパンとジョルジュ・サンドは、切り取られて別々の肖像画にされてしまった。
リアルな死体を描くために、処刑された人間の遺体をもらい受け、死体が散乱するアトリエで描き続けた画家。
亡くなった妻の遺体が変色し腐敗していく様子を冷静に観察し描き取ろうとした画家。
名画といえば贋作がつきもの、そして真贋論争。
美術館や画廊に展示された自身の真作を贋作だと告発し、その罪で有罪判決を受けた画家。
にっくき美術評論家に復讐するため、科学的検査をもすり抜けるほど完璧な贋作を作って評論家の鼻を明かした天才贋作者。
ここまでくると、真作より贋作の方が価値があるんじゃないかとさえ思える。
そして私の大好きなレンブラントの「夜警」にも驚くべき裏話があった。
私はこの絵を実際にオランダの美術館で見たけれど、自警団を描いたものということくらいしか知らなかった。
この絵が描かれた頃のオランダでは集団肖像画が流行っていた。
描かれている自警団員は実在の人物で、それぞれこの絵のために高額なお金を払ったらしい。
ところがこの絵は大きすぎて当初予定していた場所に収まらず、アムステルダムの市庁舎に運び込まれたものの、そこでも収まらず、なんと一部が切断されてしまった。
右端がほんの少し、上部が少し、そして左端が大きくばっさりと切り落とされてしまった。
そのため二人の人物が消えてしまった・・・お金払ったのに。
そしてもう一つ驚くべき事実が・・・
この絵の正式な題名は、「バニング・コック隊長の率いる市民の自警団」だが、広く「夜警」という名で知られている。
確かに夜のように見えるけれど、誰も明かりをもっていない。
実は塗り重ねられたワニスが時間とともに薄黒くなって夜のような雰囲気になってしまったのであって、実際は白昼の情景だった。
知らなかったわー。
美しい絵にまつわる人間臭いストーリーが面白い。
猟奇的な話には、芸術のためにはここまでするのかと怖くなるし、大きな絵の置き場所に困り果てた人たちを想像するとちょっと笑える。