ツイてない日。

2009-11-07 01:48:22 | 管理人の生存確認日記(2012年まで)
腹ごしらえをしないとな、と思った。空腹のままで外に出ると、余計な物まで買って来てしまうからである。そう、これはお買い物に出る際の鉄則。たまに外出するならさに非ずであるが、毎日の事ともなれば、そんなの無駄もいいところである。

お隣の町のスーパーで「5%割引券」なる物を先日何故か貰ったので、買い出しに行くんである。何故に「お隣の町」なのかといえば、運動不足解消も兼ねて隣町のスーパーまで歩く事にしているからである。因みに本日限定の券である。

という訳で、腹ごしらえにパンを食べることにした。調理しないですぐに食せるものが他に見つからなかったからである。早速袋を開けてみれば、昨日購入した食パンは既にやや硬くなっている。ところが、我が家のオーブンレンジは少し前から壊れていてオープン機能が使えない。よって、フライパンで焼くことにした。パンがふわふわ柔らかくなって、実は結構好きなんである。

早速ガスコンロにフライパンをセットし、食パンにバターを塗って弱火で焼き、思いついて母にtelした。せっかくの割引券なので、どうせお使いに出るんなら入用な物はご一緒にどうぞ、という訳である。「じゃあ、そっちに寄るね」との返事だったので、出かける用意をして待つことにした。

しかし、待てど暮らせど中々来ない。近所であるにもかかわらず、である。こうなると半端に空いた時間が手持無沙汰である。そして私には、出がけになると、様々な用事を最大限片付けてしまおうという多忙な会社員時代に身に付いたセコい癖があったりする。因みにその大抵は、せっせと掃除をする羽目になるのだが。
珈琲を淹れて焼いたパンをかじりつつ、私は掃除機を取り出した。ガーガー床に掃除機をかけつつ、私は上目づかいで算段する。せっかくだから、調味料とか買っとくか。どうせいつかは使う物だし、生ものでなけりゃ買い溜めきくし──。

どんどんどん! と扉を叩く音がした。
掃除機を即行放り出し、慌てて出れば母である。
「何度呼んでも出ないんだもん!」
いたくご立腹の様子である。
「呼び鈴押したし、携帯にもかけたのに!」
どうやら掃除機の音が大きくてチャイムが聞こえなかったものらしい。言い訳しつつも慌てて戸締りして外に出た。

世間話をしながらも隣町スーパーへてくてく向かう。どんなにたくさん怒っていてもネチネチ言わない小ざっぱりした性格が、私の母の良いところである。「あ」と母は思いつく。
「ハーブの種、欲しいのよね」
なんでもテレビでやっていたのだそうで、母はすっかりその気の模様。けっこう簡単なみたいなのー。そーゆーの、家にあったら便利でしょ? 
な~るほど。
しかし、そういう植木の類なら、少し先のホームセンターの受け持ちである。ならば買い物して手が塞がってしまう前に、先にそっちを見に行くか。
母と私は目的のスーパーの前を通り過ぎた。又、世間話をしながらてくてく歩く。目的地は大型ホームセンター。苗やら種やら、かなり種類が揃っていた筈──。「あ?」と私は思いつく。

ガスの火、消したっけ?

たぶん消したと思ったが……?
確かに消したという覚えがない。いや、なんとなくうっすら自信はある。でも、もしも万一点いてたら?
ひっそりとした無人の家で、空のフライパンをじりじり焦がすガス台の光景が思い浮かんだ。
何かの拍子に気になり出すと頭の中はそれ一色。慌てて家をおん出て来たから、元栓を閉めた覚えがない。いや、でも、いくらなんでも火は消したろー? 私はぼそりと呟いた。
「……ガスの火、消したっけ」
母はすぐに頷いた。
「見てくればー?」
返事が上の空だったらしい。
「んじゃ、スーパーで待ち合わせってことで」
私はそそくさ取って返した。
引き返しつつも気が気じゃない。目いっぱい早足で歩く内にも、頭の中は「消したっけ?」「いや消したよな?」でいっぱい。だが、思い出そうとすればするほど、それらはぐるぐる空回り、決定的な場面が思い出せない。いや、8割方は大丈夫だろうと自信はあるのだ。だが裏を返せば、後の2割は自信がないということで──。

なにせ我が家は集合住宅。火でも出したらコトである。我が家のみならず周囲のお宅にも被害が及ぶ。
冗談ではない、と青くなった。
今のところ、どこからも消防車の音は聞こえてこないが……。のんびり歩く通行人を後目に、私はますますスピードを上げてダッシュで歩く。
一所懸命歩く内、ようやくマンションが見えてきた。ブルーグレーのタイルの外観、道路沿いの植栽の赤い木の実、我が家である。周囲に野次馬の姿は見受けられない。

エントランスで鍵を開け、外廊下を小走りして、我が家のドアも続いて解錠。家の中はシーンと薄暗く異常なし。とりあえず、ほっとしつつも靴を脱いでキッチンへ。
火はシーンと消えていた。五徳に載ったままのフライパンには、出がけに焼いた食パンの四角い跡がついている……。
それをしっかと確認し、ようやく、ほーっ、と胸をなでおろした。寒風の中をせかせか早足で歩いてきたので、耳の上の付け根が痛い。
脱力しつつもガスの元栓を今更ながら硬く閉め、絶対に閉めたと自信のある各部屋の戸締りを執拗に殊更に見て回る。そして、ぐったりしつつも待ち合わせのスーパーへと引き返した。

この時とばかりに「5%割引券」なるもので買い溜めし、スーパーのビニール袋を両手にぶら下げ、母と共に帰途に就く。外は既に暗くなり秋の物寂しい夕間暮れ。
「なかったのよねー、ハーブ」
思い出したように母が言う。
「……へー、そー」
私はなにせ隣駅までの距離を二往復したことになる訳で、心身共にへとへとである。しかも片道分は顔引きつらせたダッシュだし。
これというのも皆「5%割引券」の為である。が、なんか割りが悪いような気がしてならない。だってなんか、くたくただ。色々気張って、値引き率最大のお値打ち商品を真剣に見極め、「また後日」がきかない為に何度も道を行ったり来たり。みんな己のせいではあるが。 
5%の割引ってそんなにありがたい代物だったろうか、とそんな話になったので、頭の中は疲労で崩壊してたが、たらたら歩きつつ母に言った。
「あー、3,000円の5%だから~150円お得ってことか~。……ん? いや15円か~? なんだー、たいしたことないじゃんねえー」
日頃数字に強い母ではあるが、勝手に計算を始められ「……そーおー?」と首を捻っている。出遅れた母が計算しているらしき間にも、すっかり気の抜けてしまった私は、ツラツラ講釈がましく喋くり続ける。
「あー、だってほら5%てことは3,000円の一割が300円で、その半分てことでしょー? だからほらね、150円……あれ?」

だめじゃん自分。



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