前ページで紹介したランダウ、リフシッツの「時間の遅れはお互い様」という説明を詳細に展開された記事がありましたので、以下、参考までに紹介いたします。
それで理論物理学のサイト "J Simplicity(ジェイシンプリシティ)" : http://www.jsimplicity.com/index.html : より「Report 相対性理論 JS0.5」の「Chapter3 特殊相対性理論の世界」・「3.2 時間の遅れ」: https://archive.ph/xoT9k#Section3_2 :を参照します。
そこでは「時間の遅れはお互い様」についてランダウ、リフシッツの主張・説明をベースとして図解を挟んで具体的に計算が行われています。
さて「Figure3.7: 時間の遅れ3」では静止系Mに対して運動系M’を想定し、静止系Mに設置された2つの時計と運動系M’にある一つの時計が示されています。
そうして運動系M’は速度Vで右方向に移動しています。
ここまでの舞台設定はまさに「ランダウ、リフシッツの教科書にある通りのもの」です。(注1)
そうしてそれに続いて諸式展開が続き、最終的には
Δt’=Δt*sqrt(1-β^2)<Δt
を得ます。
ここでΔt’は運動系M’での時間の経過、Δtは静止系Mでの時間の経過、βはいつもの β=V/C です。
そうであれば運動系M’の時間は静止系Mよりも遅れる、となります。
まあ、ここまでは何時もの話ですね。
さてそれで著者はここで「Figure3.8: 時間の遅れ4」としてMN図を登場させます。
ちなみにMN図はミンコフスキー図と読みます。
そうしてこれはランダウ、リフシッツにはない、著者のオリジナルな説明の為の工夫ですね。
次に著者は『特殊相対性原理より, M(ct,x) と M'(ct',x') は完全に同等のはずです.
M(ct,x) に対して, M'(ct',x') が等速直線運動しているということは, M'(ct',x') を基準にして, M(ct,x) が逆方向に等速直線運動していると考えることもできますね.
この場合,時間が遅れるのは M(ct,x) の方になってしまいます.
これは,明らかに時間が遅れるのは M'(ct',x') の方であるという,上記の主張と矛盾しているように思えます.
この矛盾を時間のparadoxといいます.
しかし,両方とも正しいのです.
立場によって,主張は異なるのは,慣性系が完全に同等であることを意味します.』と完全にランダウ、リフシッツ持ちの主張を展開されます。
そうしてその主張を裏付ける計算が続きます。
それでまずは今回の計算の舞台設定ですが、それは「Figure3.9: 時間の遅れ5」に示されています。
今度はM’系が静止系となり、運動系がMとなります。
従って運動系Mは左側に速度Vで動いていると静止系M’に立つ観測者から認識されます。
さてそれで、この舞台設定で諸式展開をしますと最終的に
ΔT=ΔT’*sqrt(1-β^2)<ΔT’
を得ます。
ここでΔTは運動系Mの時間経過、ΔT’は静止系M’の時間経過を示します。
そうして著者は次のように宣言するのでした。
『事象 A,B と C,D は違いますので,主張の相違があっても問題はありません.
Section 前半の議論で出てきた不等式と比較するため,ΔT'=Δt' としてみましょう.このとき,
ΔT< ΔT'= Δ t'< Δt
が成立し,矛盾していません.』
ちなみにここでダッシュ(’)が付いているのがM’系の時間の経過を示し、ダッシュ(’)ナシがM系の時間の経過をしめしています。
そうしますとこの記事の著者は「M’系の時間経過を同一にするとM系の時間経過は観察者の立つ位置(=M系に立つのかM’系に立つのか)によって2つの値にわかれるのだが、それで矛盾はない」と宣言している事になります。
さて皆様方はこの著者の説明でご納得いただけたでありましょうか?
まあしかしながら以上が伝統的な特殊相対論の解釈である「時間のおくれはお互い様」という主張に対する、従来から行われている説明である、とみてほぼ間違いはないと思われます。
注1:ただしこの著者の場合ちょっと違うのは静止系Mと運動系M’にそれぞれ観測者を立てている事です。
しかしながら時間遅れの観測を行う観測者は常に静止系に立つ観測者を指定しています。
追伸:ちなみに申し添えますれば、この記事を書かれたJ Simplicity氏は特殊相対論に相当詳しい方の様です。
といいますのも、特殊相対論についての記述が
Chapter1 特殊相対性原理と光速不変の原理
Chapter2 ローレンツ変換とミンコフスキー時空
Chapter3 特殊相対性理論の世界
Chapter4 ローレンツ不変性とローレンツ共変性
Chapter5 特殊相対論的電磁気学
Chapter6 特殊相対論的力学
とChapter4~Chapter6まで及んでいる事から、その力量が知れるというものであります。
そうしてまた氏の態度『本サイトでは,制作者の理解している理論物理学をそのまま公開し,思考と同期させて更新しています.』あるいは『そして,Groupには合計8個のReportが含まれていて,段階的に,できるだけ丁寧に説明しています.』に見られるような宣言をされておられる事からもその状況がわかります。
そうであれば本記事を書くことによってそのようなJ Simplicity氏個人について批判する、と言う様な意図はどこにもない事をまずは明らかにしておく必要があります。
そのうえで特殊相対論についての従来の理解の仕方・解釈について「その解釈は誤りである」というのならその相手は「アインシュタインでありミンコフスキーでありランダウ、リフシッツである」という事になりますので、その点につきましてはくれぐれもお間違いの無いようにお願いいたします。
PS:相対論の事など 記事一覧