<サイバー・ウォーフェア>
・1996年には、MI6がフランスの高度な原子力潜水艦追跡技術を盗んだことが、1998年には過去10年以上にわたり、ドイツ連邦銀行の幹部をスパイとして運用し、コードネーム「ジェットストリーム」という工作で、ドイツの金融政策から欧州経済の動向を探っていたことが表面化した。
身辺調査などをする場合でも、平均すると少なくとも2~4ヵ月、長いと2年もかかってしまうこともあるという。
<ハニートラップ>
・GCHQ(政府通信本部)の関連組織はMI6とも協力しながら、インターネットのデート系サイトなどを駆使してターゲットと「性的な接触」をし、その後にゆすりや脅しをかけていたという。または「性的な接触」をチラつかせながら、ターゲットの男性を陥れるというケースが多く使われている。いわゆる、「ハニートラップ」である。
・ハニートラップとは、女性のスパイなどが色仕掛けで諜報や工作活動を行うことを指す。有名なところでは、イスラエルが進めていた核兵器開発について1986年にイギリスの新聞に暴露した、核技術者のモルデハイ・バヌヌのケースがある。バヌヌは、イギリスでモサド(イスラエル諜報特務庁)の女性工作員によるハニートラップに引っかかり、イタリアのローマで逢瀬するという女性の誘いに乗り、同地で拉致された。まさかその女性がモサドの工作員だったとは思いもよらなかったことだろう。結局、イスラエルに送られ、裁判の末に反逆罪で有罪となって独房に投獄された。
おそらく、いまだに判明していないだけで、日本でもイギリスでも数多くのハニートラップのケースがあると考えられる。事実、ライバル国のハニートラップに引っかかり、今もその国に好意的な発言を繰り返している日本人の要人も存在している。
MI6も、そうした色仕掛けの工作は行っている。
<親友の非業の死>
・ここまで、MI6の実態を見てきたが、彼らの業務内容は人を相手にした諜報活動であり、いわゆる「ヒューミント」である。
<退職後の待遇と誘惑>
・「CIAなら、辞めた翌日から民間企業で働くことができる。局に報告さえすれば自分が勤めていたことも公にもできるし、履歴書にも自信をもって書くことが可能だ。だがMI6ではそういうわけにはいかない。もちろん履歴書にも、諜報機関にいたことは書いてはいけないことになっている」
<実在する「Q」>
・「Q」は、技術テクノロジー部門のトップのことで、「007」にもよく登場する。このトップは、実際にQと呼ばれているという。
・世界には多くの諜報機関が存在する。ほぼすべての国が、国外の脅威から自国を守るために、諜報機関を保持している。
<CIAの力と脆さ>
<年間800億ドルを費やす>
・「朝の5時に目を覚ました大統領が新聞・テレビで流れる重要な情報を知らされていないということがないように、と意識しながら情報をまとめている」
・アメリカには、CIAをはじめ17のインテリジェンス機関が存在する。これらの機関が少なくとも年間800億ドルの予算で、国内外で情報活動を行い、大統領などの政策決定に判断材料を提供する。
<隠された予算と巨大利権>
・CIAの予算額や職員の数は、機密事項として公開されてはいない。ただ、元CIAの職員だった内部告発者のスノーデンは、2013年当時のCIAの予算を機密文書から明らかにしている。それによれば、年間の予算は約150億ドルで、職員数は約2万1500人だ。
<国民の監視が暴走を防ぐ>
・「一度この世界に入ったら、けっして後戻りはできない極秘の世界であり、非常に閉鎖された世界だ。そして、一度足を踏み入れたら、まったく違う視点で世界を見ることになる」
・CIAのようなスパイ機関は、情報を集め工作を実施するのが任務である。それゆえに、その能力は諸刃の剣でもあり、自国内で「暴走」しかねない。民主主義システムは、その暴走を止める役割を担っているとする。
<本当の敵は内部監査という矛盾>
・「閉鎖された秘密主義の世界での活動とはいえ、欧米の情報機関では、すべてはルールと規制によって管理されている」
・「私にとっては敵との闘いではなかったですね。それよりも、内部監査とのやりとりが大変でした。いつも監査部とはやりあっていたのでね。彼らはいろいろと守るべきチェック項目などをこちらに求めてくる」
<虚々実々の駆け引き>
・「表向き、メディアなどでは、アメリカとイギリスはいい関係で、ファイブ・アイズで情報をいつも交換していて仲がいい、と言われている。だが、実態を明かせば、それは完全に嘘だ。諜報機関にはルールがある。非常にシンプルなルールだ」
・「それでも基本的にCIAなどにこちらの大事な機密情報を与えることはなかった。CIAももちろん、私たちに対して同じことをしている。情報は共有しない」
<MI6の痛恨事>
・そこでイギリスが送り込んだのが、MI6のエースで「目もくらむばかりの功績を上げて勲章ももらった情報活動の英雄」のフィルビーというわけだが、その彼がソ連の二重スパイだったのである。アメリカ側のMI6に対する不信感が高まったのは当然だ。
・アメリカとイギリスの間ですら、こうした微妙な関係性が横たわる世界のインテリジェンス・コミュニティの中で、日本がどんな位置付けにあるのか。
「ギブ・アンド・テイク」が常識であるインテリジェンスの世界で、日本のようにこちらから提供できる情報が少ない国には、国外の諜報機関からはいったいどんな有益な情報が提供されるのか、はなはだ疑問ではある。
<暗躍する恐るべき国際スパイ――モサドそして中露へ>
<強くなる以外選択肢がなかった>
・「モサドは、軍事的なインテリジェンスが得意だ。現場からのインテリジェンスを入手するのが非常にうまい。現場に強い。ベストな諜報組織のひとつと認めてもいいだろう」
・「強くなる以外、私たちには選択肢がなかった。それに尽きる。壁際に追い詰められ、何らかの対処をしなければならない。そういう状況下では、クリエイティブになって、解決策を見つける必要がある」
モサドという組織は、わかりやすいほどに目的がはっきりしており、自国の利害のために妥協なく活動してきたスパイ集団だと言える。
<影響力を強めるモサド>
・そして、モサドにはモットーとしている聖書の一節がある。
「賢明な方向性がないなら、人は倒れる。だが助言者たちがいればそこには安全がある」
国家としてどのように国民を導くのか、また、どのように国民の生命と財産を守るのか。政策を立案したり、国家の方向性を決定するには、物事の本質を知るためのインテリジェンスが欠かせないのである。それが世界の常識である。
<徴兵制とリクルート>
・イスラエル軍の人事部門は、すべての若者を入隊前にスクリ―ニングして、チェックする。その際に、秀でた才能のある人材は青田買いをして、軍が学費を負担して専門的な分野で学ばせる。徴兵の時期を変更するようなケースもある。
そんなかたちで毎年1000人ほどの高校生が選抜されて、軍に入る前に軍の意向で大学などに送られている。
<徹底した秘密主義>
・「モサドを裏切って二重スパイになるという話はあまり聞かない。MI6やCIAなどではそういう事件もあるのだが、モサドのエージェントは忠誠心が強いということだろう」
<他者の評価は気にしない>
・当然ながら、他の機関と同様に、スパイであることはモサドの職員も他言できない。ただ少し前から、モサドOBは、自分が元スパイだったことを話しても許されるようになってきているようだ。
<サイバーインテリジェンスをリードする中国>
・現在、国際的スパイ活動も過渡期にある。デジタル技術の普及により、従来のスパイ工作もかたちを変えつつあるからだ。リスクを伴う尾行といった手段も、サイバー攻撃やハッキングなら相手にばれることなくできてしまう。
・中国のMSSは、イギリスで言うなら、国外担当のMI6と、国内担当のMI5、そしてシギント相当のGCHQが一つになった組織である。アメリカなら、CIAと国内を担当するFBI、シギントを担当するNSAとが一緒になったようなものである。
<手玉に取られるトランプ>
・習近平国家主席は、2015年に国家安全法を制定し、国内の統制を強めたが、そこで実働部隊となるのがこのMSSといった機関ということになっている。政府の機関はすべてMSSに協力することが求められている。
<世界に浸透する中国スパイ>
・さらにここ最近も、中国のスパイ工作が世界中で取り沙汰されている。2018年にはMSSのスパイが、ベルギーで米航空会社から機密情報を盗もうとして逮捕され、アメリカに送致されて起訴されている。
・2010年ごろから、中国いるCIAの協力者たちが次々と拘束または処刑されていることが問題視されつつある。その背景には、中国側に機密情報を渡していた元CIAの職員がいたことや、CIAが協力者たちとの連絡に使っていた通信システムがハッキングされた件があるという。これにより、CIAの中国における諜報活動が大打撃を受けたとされる。
<大手メーカーの家電に盗聴器が内蔵>
・MSSには外部の協力者も多数いると見られ、その規模など、実態は判明していない。
MSSはさらに、中国の大手企業とも密な関係を持っているとされる。そんなことから、中国が誇る国際企業を、アメリカ政府は次々と「ブラックリスト」に加えてアメリカや同盟国とビジネスをできないように動いている。その背景にあるのも、中国が民間企業を使ってスパイ行為をしているとの懸念だ。
<米中スパイ戦争が本格化>
・2015年までに、中国のサイバー分野を中心的に担っていた人民解放軍のサイバー部門で、組織の再編がはじまった。政府は人民解放軍戦略支援部隊(SSF)を創設し、サイバースパイ工作から対外プロパガンダ、破壊工作まで、中国のサイバー戦略を包括的に取りまとめることになっている。その組織の規模は数百万人に及ぶともされる。当然、MSSなどとも密に関与していると見られている。
とてつもなく大きな組織を構築し、中国はさらに機能的に諜報活動やサイバー工作を繰り広げている。しして、そのレベルはMI6やCIAすらも凌駕するものになる懸念がある。
<日本を襲うデジタル時代のサイバーインテリジェンス>
<天気予報アプリで機密情報を送信>
・ライクルは、週に一度、CIAに情報を送信していたという。驚くのは、その送信方法だった。
このスパイは、自分のパソコンに暗号化できるプログラムをわからないように入れていた。そして天気予報のアプリを起動し、ニューヨークの天候を検索すると、その暗号化プログラムが起動して、データを送信できるようになっていたという。その対価として、2年間で数回オーストリアに赴いて9万5000ドルの現金を受け取っていた。
<すべての生活情報がデータ化>
・「すべての諜報機関がインターネットを駆使し、サイバー攻撃などを自在に扱いながら、情報活動を行っている。情報収集には非常に効果的な道具だ。情報を集めたり、ターゲットとして監視したり、行動を妨害するなど、すべてがサイバー空間でできる時代になっているからだ」
<ウェラブルデバイスの罠>
・だが、すべてが接続される便利な世界には、当然のように危険性もついてくる。そうしたデータが悪用されるリスクだ。強盗も、空き巣をするよりも、デジタルデバイスにハッキングしたり、サイバー攻撃を仕掛けるほうがリスクは低いし、効率がいいということになる。タンスよりも、スマホにカネはある。
そしてそうした情報を使いたいのは、犯罪者だけではない。諜報機関も同じだ。
・世界がデジタル化・ネットワーク化されることで、スパイの活動の幅が広がっている。以前よりスパイ活動が摘発されるリスクは減るが、一方で、デジタルツールで監視される危険が増している。つまり、スパイ活動は新たな次元に入っているのである。
<標的はアメリカ、日本、台湾>
・「諜報機関にとって、サイバー工作やサイバー攻撃は、ターゲットに対する情報収集やスパイ行為、監視など、最高度に重要な要素となりつつある。
とくに中国はここ3年で、日本の当局の動きや、国の政策などに非常に興味を持って動いている。それだけではない。交通やエネルギー、テクノロジー、工場など、そうしたインフラの情報を手にしようと激しい諜報活動を仕掛けている。ビジネスや金融、通商情報をも手に入れようとしており、ローカルな地方の中小零細企業にもその手を伸ばしている。日本企業は中国から常に狙われている。この認識は、欧米の諜報機関はみな共有していることだ」
・情報機関がサイバースパイ勢力として最注目しているのは、中国のスパイ活動だ。そのサイバー攻撃で中心的な役割を担っているのが、人民解放軍戦略支援部隊(SSF)に属するサイバー・コー(サイバー攻撃部隊)である。彼らは、国家安全部(MSS)ともつながっている。
・「日本は今、中国からの攻撃では、世界でもトップに入るターゲット国です。非常にリスクの高い国と見ています。しっかりとそれを認識しておく必要がありますね」
・「2020年の東京五輪は、中国にとっても重要なイベントとなるでしょう。そこでもおそらく、日本の失態を促すような動きをする可能性が高いと見ていいです。国としての日本の信用度を落とすまたとない機会ですから」
・「中国はハッキングさせるためのインフラをかなり十分に、国に仕えるハッカーらに与えている。人も育成している。だからこそ、彼らのサイバー攻撃能力は高くなっており、サイバー空間での情報戦をよく理解している。私から見れば、中国は今、世界でもトップクラスのサイバー・ウォーフェア(戦争)能力を持つ国だ。彼らはアメリカとも渡り歩いている」
<韓国系アプリの罠>
・実は、韓国も同様の攻撃を日本に仕掛けていることはあまり知られていない。日韓関係が今のように悪化する前から、韓国系ハッカーらによる、日本企業を狙ったサイバー工作は起きていた。
・「韓国がらみのハッカーが日本の化粧品会社をターゲットにしている。日本の化粧品はアジアを中心に高い人気を誇っており、その製造方法などを盗みだすなどして模倣し、安価に別ブランドにして売るのだ。これは未確認だが、中国のハッカーも日本の美容業界をターゲットにしているとの話も聞く」
・もうひとつ不穏な動きは、韓国政府や、韓国の情報機関である国家情報院の関係者たちが、スマートフォンで使われる韓国系アプリなどを使っている日本人や企業の情報をかなりつかんでいるとうそぶいていることだ。
<キャッシュレス決済に潜む謀略>
・最近あまりにメッセージングアプリなどが普及し、私たちの生活に深く入り込んでいるために、そこを狙う人がいるのは想像に難くない。
・日本ではコンビニ最大手セブンーイレブンが、モバイル決済サービスを開始してすぐにサイバー攻撃を受け、あっという間に撤退を発表することになったが、こうした金融取引に絡んだ個人情報が集まるサービスは、どうしてもサイバー工作の対象になりやすいと欧米では見られている。
・事実、日本のキャッシュレス決済サービスのアプリなどが、中国系のハッカーに狙われているとの情報も筆者には入っている。しかもそれは、犯罪者がカネや商品を騙し取ろうとする行為ではなく、日本のキャッシュレス決済の信用度に傷をつけるためのスパイ工作だというのである。
<東京五輪を狙っているのはどの国か>
・さらに注視すべき国がもう一つある。北朝鮮だ。国連によれば、北朝鮮のハッカーたちはここ3年間で最大20億ドルを、世界各地の金融機関や仮想通貨交換所から違法に盗み出している。
・北朝鮮のスパイ工作は金銭的な動機が背景にあることが多い。前出の英語圏の元ハッカーは、北朝鮮の次の大きなターゲットのひとつに東京五輪があると指摘する。東京五輪を狙っているのは中国だけではないということだ。
・あろうことか、とあるクレジットカードのサービスなどを提供する日本企業では、サービスに使われるプログラムのソースコードが北朝鮮系ハッカーにまるまる盗まれてしまっていることも指摘されている。このように、サイバー空間では、スパイ工作から破壊工作、産業スパイ行為などが繰り広げられているのである。
・東京五輪といえば、こんな懸念もある。ロシアの諜報機関であるSVRやGRUが世界でサイバースパイ工作を繰り広げているのはすでに説明した。彼らはスポーツの国際的なイベントでもサイバー工作を実施していることが確認されており、2018年の韓国・平昌冬季五輪ではロシアはドーピング問題で国として出場できなかったことの報復として、五輪の公式サイトやアプリにサイバー工作を実施し、チケット発給やWi-Fi設備などに不具合を起こした。また、五輪でITシステムを担当した企業にも、大会前からサイバー工作が行われていたという。
・ロシアのスパイ機関が報復として東京五輪に対する工作を実施する可能性は高くなっている。いや、攻撃されることを前提に警戒すべきところまで事態はひっ迫しているのである。
<消防車を持たない消防庁>
・日本には対外情報機関がないばかりか、国内外で情報活動をできるサイバー工作組織も存在しない。今、日本では、内閣官房の内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)がサイバーセキュリティ対策を仕切っている。ただこの組織には実働部隊がなく、省庁間や業界団体にサイバーセキュリティ関連の情報を提供することが主な業務であり、専門家の中には、「消防車を持たない消防庁」と揶揄する向きもある。
・結局、民間企業や個人は自分たちで、中国のように巧妙な国家的サイバー攻撃を仕掛けてくる国家に、対応しなければいけないという状況にある。警察当局はといえば、サイバー攻撃を受ければ捜査はしてくれるが、守ってはくれない。
・日本の在日米空軍横田基地で働いていたスノーデンが、日本のインフラにマルウェア(悪意ある不正プログラム)を埋め込んだと暴露しているように、アメリカは日本相手でも、有事に備えてサイバー攻撃の準備をしているのである。
・これからの国際諜報戦におけるサイバー工作の重要度は、世界中でさらに増していくことだろう。中国のMSSにつながるSSF、アメリカのCIAと凄腕ハッカーを抱えるNSA、イギリスのMI6とGCHQ、イスラエルのモサドと軍の8200部隊、そしてロシアのSVRとFSB、GRU、こうした組織が、世界の裏側で暗躍し、諜報工作やサイバー攻撃を繰り広げている。
・選挙だろうがテロだろうが、世界的なスポーツイベントだろうが、各国はサイバー工作を駆使しながら、自分たちの利害を追求している。それこそが、現在の、もう一つの世界情勢の姿である。
対外情報機関も、国境を越えて動けるサイバー部隊も持たない日本は、これからの時代に本当に世界と伍していけるのだろうか。一刻も早く、その問いについて真剣に検討し、何をすべきかを議論すべきなのである。性善説は通用しない。
・「MI6の職員が共有する、ゼロトラストという考え方がある。つまり、すべて疑ってかかり、誰も信用しないということだ。それが国際情勢の裏にある世界の常識なのだ」
『核拡散時代に日本が生き延びる道』
独自の核抑止力の必要性
元陸将補 矢野義昭 勉誠出版 2020/3/31
<日米などが配備しているMD(ミサイル防衛)システムも万全ではなくなってきている>
核保有は最も安く確実な抑止力
反日中朝の核脅威は高まり、米国の核の傘は破れ傘になった。
祈りや願いだけでは独裁国に屈するしかない。独裁に屈すれば、悲惨なウイグルの二の舞になる。日本には核保有能力が十分ある。核に代替手段はなく、米国も黙認するだろう。
護るか、屈するか、決めるのは国民だ!
・最終的に日本独自の核抑止力の必要性と可能性、その保有のあり方について論じている。
<核恫喝の脅威>
<核恫喝は何度も使われてきた>
・国際司法裁判所は、1996年に「核兵器による威嚇または使用の合法性に関する勧告的意見」において、「核兵器の威嚇または使用は武力紛争に適用される国際法の規則(中略)に一般的には違反するであろう」としながらも、「国家の存亡そのものが危険にさらされるような、自衛の極端な状況における、核兵器の威嚇または使用が合法であるか違法であるかについて裁判所は最終的な結論を下すことができない」としている。
・しかし現実には、以下のような、核恫喝が使用されてきた歴史的な事例がある。その意味では、核兵器は使い道のない兵器ではない。相手国にギリギリの対決の場で、政治的要求を受け入れさせるための効果的な手段として活用されてきたことは、史実が立証している。
① 米国のトルーマン大統領は朝鮮戦争中に記者会見で、「何か特別な物を注意深く扱う」と表明し、核使用を示唆して恫喝を加えている。
② 米国は1954年、ベトナムのディエンビエンフーでの戦いで敗れた仏軍の撤退を掩護するため、ベトミン軍に対し、核恫喝を加えようとした。
③ 米国のアイゼンハワー大統領とダレス国務長官は、1955年の台湾海峡危機に際して、金門・馬祖を奪取するために上陸作戦を準備していた中国に対し警告するため、戦術核兵器の使用について議論し、「言葉の上でのあいまいな威嚇を加える」ことを決定した。
④ ソ連は、1969年の中ソ国境紛争時、中国に休戦交渉を強要するために、核恫喝を加えた。この時には、中ソの核戦争を恐れ、米国が仲介に動いた。
⑤ イスラエルは、1973年の第4次中東戦争時に、エジプト軍によるイスラエル国内への奇襲侵攻を許し、国家存亡の危機に直面した。その際に、イスラエル国防相は、進出したエジプト軍により国家の存続が危うくなることがあれば、いつでも指定された目標に核兵器を使用できるように、核爆弾を搭載した戦闘機と核弾頭を搭載したジェリコ・ミサイルを準備せよとの命令を発したと、外国の報道機関により報じられている。ただし、イスラエルは公式には、核兵器を保有しているとも、保有していないとも表明しない、あいまいな戦略をとっている。
⑥ 中国は、1995~96年の台湾海峡危機時に、96年の中華民国総統選挙での李登輝選出阻止のために、台湾と与那国島の近海に弾道ミサイルを打込み、軍事的威嚇を加えた。
⑦ パキスタンは、1999年の印パ間のカーギルでの紛争時に、インド軍の侵攻を阻止するために、パキスタン陸軍のパルヴェーズ・ムシャラフ陸軍参謀総長兼統合参謀本部議長がシビリアンの指導者にほとんど知らせることもなく、核兵器使用の計画を進めていた。
⑧ ロシアは、ジョージアとの紛争、クリミア半島併合やウクライナ危機時にNATO軍を牽制するために、長射程の空対艦核巡航ミサイルを搭載可能な爆撃機や地対地弾道ミサイルの活動を活発化させ、あるいは近傍に進出させるなど、核威嚇を加えている。
・以上の史実から見ても、今後も核恫喝が行われる可能性は高い。恫喝に屈することなく国益を守り抜くためには、信頼のできる核抑止力を保持しておかなければならないことは明らかである。
日本の場合は、自ら相手国に侵攻することは考えられないので、敵対的な核保有国による恫喝を受ける可能性が高い。特に核大国となった中国の挑発や攻撃的行動には注意が必要である。また今後は、北朝鮮や統一朝鮮から核恫喝を受ける可能性にも備えておかねばならないであろう。
その場合、日米安保体制下では、米国の本格的な軍事介入前に、日本に対して、すでに達成された侵略目的を既成事実として受け入れさせ、日本に対する政治的要求を強要するために、核恫喝が使用される可能性が高い。
<核恫喝に屈すればどうなるか?――チベットの事例>
・核恫喝に屈すれば、相手国の政治的要求(戦争目的)をそのまま受け入れざるを得なくなる。恫喝を加える側から見れば、まさに、『孫子』の言う「戦わずして人の兵を屈するは、善の善なるものなり」を地で行くように、最も効率良く、無傷で勝利を得ることになる。
中国共産党の恫喝に屈して戦争目的あるいは政治目的を達成されるとどうなるかについては、例えば、いまチベット、新疆ウイグル、香港などで起きている事例から推察できる。
・結局、約120万人のチベット人が虐殺されたことを、国際司法裁判所は認めており、中国も反論していない。
<核恫喝に屈すればどうなるか? ――ウィグルの事例>
・ウイグルでは、ウイグル人の実数は約2千万人と見積もられるが、中国は2015年には1130万人と発表していた。しかし、3年後の2018年には6~7百万人と発表している。その減少した人口4百万人のうち3百万人は強制収容されたとみられる。
<日本が核恫喝に屈すればどうなるか?>
・ひとたび、主権と独立を失い、独裁に屈すれば、警察権さらには軍事権まで失われることになる。
・力で反抗を抑圧されれば、結局は、孫子に至るまで主権も独立も民主主義も取り戻すことはできなくなる。固有の文化や伝統、一般住民の権利も失われ、数世代経つと民族としてのアイデンティティは亡くなり同化されるであろう。それが歴史と現在の世界の情勢が示している教訓である。
・核を保有した独裁体制の隣国による核恫喝に屈しないためには、確実な核抑止力の保持が必要不可欠である。
<迫られる日本の自力防衛>
・この間、日本は自ら独力で地上戦を数カ月、最小限1カ月半程度は戦い抜かねばならないことになる。このような状況下で、中朝から核恫喝を受けた場合に、上記の米国の核の傘の信頼性低下を踏まえるならば、日本は自らの核抑止力を持たなければ、恫喝に屈するしかなくなる。
また、核恫喝に屈することが無くても、数カ月に及ぶ長期の国土の地上戦を戦わねばならないとすれば、それに耐えられるマンパワーと装備、それを支える予備役制度が必要不可欠なことも明白である。
そのためには、早期に憲法を改正し、国民に防衛協力義務を課し、世界標準並みの防衛費を配分して、長期持久戦に耐える国防体制を構築しなければならない。それとともに、日本自らの核抑止力保有が必要不可欠になる。
核抑止力と自力で日本有事を戦い抜く戦力、特に残存力と継戦能力のいずれがなくても、日本の防衛は全うできない。
<外国人による日本核保有賛成論>
・北朝鮮は国際制裁や米軍の軍事圧力にもかかわらず、核ミサイルの開発を続けている。
・もともと核の傘など存在しないとみるリアリストは、欧米には広く存在する。「自国を守るため以外に、核ミサイルの応酬を決断する指導者はいない」、まして、核戦力バランスが不利な場合は、同盟国のために核報復をすることはありえないと、彼らはみている。
<日本核保有賛成論――アーサー・ウォロドロンの主張>
・日韓の核保有については、欧米の識者からも賛成論が日本国内で報道されるようになった。
オバマ政権時代から、米国内では日本の核保有については、その是非を巡り議論が出ていた。
日本の核武装に拒否反応を見せるのは、CSIS(米戦略国際問題研究所)のジェナ・サントロ氏らが主張する「日韓は速やかに核武装する科学的能力を持つ。日韓両国が核武装した場合は同盟を破棄すべき」との強硬論である。もとよりこのような主張は米民主党に多い。
・一方、米国では伝統的に、日本の核武装を「奨励」する声も少なくない。ジョン・ボルトン元国連大使や国際政治学者のケネス・ウォリツ氏らは、「国際秩序安定のために日本は核武装すべきだ」と説く。
・米国の最も古い同盟国であり、米国を最もよく知る英国とフランスもこうした考え方を共有している。いずれも核攻撃を受けた際に米国が守ってくれるとは考えていない。
・その問題に対する答えは困難だが、極めて明確だ。中国は脅威であり、米国が抑止力を提供するというのは神話で、ミサイル防衛システムだけでは十分でない。日本が安全を守りたいのであれば、英国やフランス、その他の国が保有するような最小限の核抑止力を含む包括的かつ独立した軍事力を開発すべきだ。
・以上が、ウォルドロンの主張である。その要点は、中朝の核戦力が高まり、米国が核報復を受ける恐れがあるときに、米国が他国のために核兵器を使うという約束は当てにできないという点にある。
すでに述べた、現実の核戦力バランスの変化を踏まえるならば、このウォルドロンの主張は、合理的な判断に基づく、日本の立場に立った誠実な勧告ととるべきだろう。
<日本核保有賛成論――パット・ブキャナンの主張>
・「日本と韓国は北朝鮮に対する核抑止力を確保するため、独自に核武装をすることを検討すべきだと主張した」と報じている。
・交渉の結果、在韓米軍が削減されるような事態となった場合に備え、日本と韓国は北朝鮮の短・中距離ミサイルの脅威に各自で対抗するため「自前の核抑止力(の整備)を検討すべきだ」と語っている。
<日本核保有賛成論――エマニュエル・トッドの主張>
・「日本は核を持つべきだ」との論文。
「米国はエリートとトランプを支持している大衆に分断され、その影響力は低下している。米朝は互いを信用しておらず交渉は茶番劇であり、米国の核の傘は存在しない」。
「東アジアでも、南シナ海にみられるように米国の影響力は後退している。核の不均衡はそれ自体が国際関係の不安定化を招く」。
「このままいけば、東アジアにおいて、既存の核保有国である中国に加えて、北朝鮮までが核保有国になってしまう。これはあまりにもおかしい」。
「日本の核は東アジア世界に、均衡と平和と安定をもたらすのではないか」。
「こう考えると、もはや日本が核保有を検討しないと言うことはあり得ない」。
「核とは戦争の終わりであり、戦争を不可能にするものなのであり、日本を鎖国時代のあり方に近づける」。
・このように、トッドは欧州の立場から、米国の国益を離れて客観的に日本が核保有すべき理由を示している。特に「核は例外的な兵器で、これを使用する場合のリスクは極大」であり、ゆえに、「自国防衛以外の目的で使うことはあり得ない。中国や北朝鮮に米国本土を攻撃する能力があるかぎりは、米国が、自国の核を使って日本を護ることは絶対にあり得ない」と断言している点は注目される。
・その主張の要点は、核は使用のリスクがあまりに高いため、自国の自衛にしか使えない、核の傘には実体はなく、独自の核抑止力を持つべきだという点にある。
言い換えれば、生存という死活的国益を守り抜くために、能力があるのなら、どのような国も核保有を目指そうとするのは当然であるという立場を、率直に表明したものと言える。現在の核不拡散を建前とするNPT体制そのものを核保有国の識者自らが否定した発言ともいえる。
<日本核保有賛成論者の共通点と日本への教訓>
・以上の日本核保有賛成論に共通しているのは、以下の諸点である。①米国の力が低下しており、日本に提供しているとされてきた核の傘の信頼性がなくなってきていること、②他方で米国は、北朝鮮や中国の核戦力の向上に対し力により放棄させたり阻止することができなくなっており、交渉では日本に対する北朝鮮や中国の核脅威は解消できないこと、③そうであれば、日本は中朝の核脅威に対し独立を守り地域の安定化をもたらすために、独自の核抑止力を持つべきであるとする、戦略的に合理的な対応策を提唱している点である。
日本の核保有については、日本人だけの問題ではなく、東アジア引いては世界全体の安定化のためにも、必要とされる状況になっている。日本は既存のNPTの枠組みにとらわれて思考停止するのではなく、どのような核保有のあり方が望ましいかを真剣に考えるべき時に来ている。
<日本の核保有は可能か?>
<『成功していた日本の原爆実験』の出版>
・その内容の概要は、以下の通りである。
・日本は第2次大戦末の1945年8月12日に、北朝鮮の興南沖合の小島において、原爆実験に成功していた。
・米国のジャーナリスト、ロバート・K・ウイルコックスが40年間追求した成果であり、2006年以降、米政府内の機密文書が元CIAや元空軍の分析官によりウイルコックスにもたらされた。
・関係者へのインタビュー、日本軍機密暗号電報解読文書など米政府の機密情報に基づき検証した史実を、1次資料の情報源とともに実証的に記述している。
・理化学研究所の仁科芳雄を中心とする日本陸軍のニ計画の成果は、京都帝国大学の荒勝文策を中心とする日本海軍のF計画に継承され終戦まで継続された。
・大陸を含め約1億円の資金が投入され、海軍は大和級戦艦2隻分の資材を投入した。
・北朝鮮と満州には豊富なウラン鉱石と電力源があった。北朝鮮の興南には野口遵の大規模な産業基盤が戦前から所在し、核爆弾製造に必要なインフラは終戦直前の興南にはあった。
・日本は濃縮ウラン製造用熱拡散分離塔、遠心分離機などの製造に成功していた。
(細部については、ロバート・K・ウィルコックス著、矢野義昭訳『成功していた日本の原爆実験』勉誠出版、2019年を参照)
・上記のウイルコックスの書に記された、1945年8月12日の北朝鮮興南沖合の小島で日本が原爆実験に成功していたという事実の信ぴょう性は、本書で立証されているように、極めて高い。もし日本が原爆実験に成功していたのであれば、NPT(核兵器不拡散条約)の規定に基づき、日本は同条約で規定する「核兵器国」としての資格を有することになる。
すなわち、日本は「1967年1月1日以前に核兵器その他の核爆発装置を製造しかつ爆発させた国」となり、日本は核保有をしても、NPT違反を理由とする国際非難や制裁を受ける国際法上の根拠はなくなるということを意味している。
・また、以下の事実も機密資料に基づき立証されている。
ソ連は大戦末に日本の興南を占領し、日本の各インフラと科学者を奪い核開発を早めた。また、中共の朝鮮戦争介入の目的も興南の核インフラ奪取にあった。北朝鮮の核インフラも人材を含め日本が戦時中に基盤を創った。蒋介石は1946年から日本人科学者を雇い秘密裏に核開発を始めていた。
特に史実であることを裏付ける決定的事実は、米軍が朝鮮戦争中、興南に数週間留まっていたことである。米軍はその間に、徹底した現地調査を行い、日本が核爆弾を最終的に組み立てたとする興南の北の山中、古土里の洞窟とその周辺施設を確認している。その調査結果は、本書に記されている。
その調査の間に、米国は興南沖合の小島とされる爆心地の残留放射能などの確実な核実験の証拠を直接確認できたはずである。その米政府のCIA、米軍の秘密資料に基づき検証された結論が、この書に明記されている。
例えば、日本の原爆がトリウムとプルトニウムの「混合殻」を使った可能性に言及している。このような、戦後も長らく機密とされてきた特殊な核爆弾の構造にまで言及しているということは、何らかの確証を米側が持っていることを示唆している。
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