ぶどうをもらった。タネなしもあった。世の中にこれほどおいしい果物があるかと思うぐらい、おいしく頂いた。
僕にそのぶどうをくれた女性は、僕の気を引こうとしてとくに上等のぶどうをくれたようだ。
痛ましくもあり切ない努力であるが、僕はそういう目でその人を見たことはない。たぶん、今後も無い。
ぶどうだけ頂いて彼女の心を頂かないのは失礼な気がする。その気がないならぶどうをもらったりするな、という声が聞こえる。
今の時代、そんな神のような、あるいは山口判事のような人間がどこにいる。彼女の顔をつぶして悪かったが、僕が彼女をお持ち帰りしなかっただけでも、僕は上等な人間に属することが出来るというものだ。
いやー、じつにモテる男はモテない男よりつらい。しかし、あまんじて甘受すべき苦しみでもある。
僕ほどの広い教養、巧みな話術、ポイントで話を盛り上げるが笑いをちりばめ聞き手が飽きることは決してない。そして、もっとも重要な点だが、彼女が自らの知識と教養が高まった実感を持ち、さらに少しでも自分の知識と教養を高める努力をすべきだと自覚することだ。
ぶどう2房では安いものだ。
家で内縁の娘にこの話をすると、そのぶどうの2/3を食べていた。
娘は、女の敵はあたしが征伐するといった。つづけて、僕の首を絞めた。