碓井広義ブログ

<上智大学教授のメディア時評> 見たり、読んだり、書いたり、話したり、時々考えてみたり・・・

大河ドラマ『いだてん』は、史実を基にしたフィクション!?

2019年01月07日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


大河ドラマ
『いだてん~東京オリムピック噺~』は、
史実を基にしたフィクション!?


さて、始まりましたね。新しいNHK大河ドラマ。そう、『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』です。

ファーストインプレッションということで、印象が薄れないうちに、第1回について記録しておこうと思います。

始まりはキョンキョン!?

一番の興味は、脚本の宮藤官九郎さんが、この物語をどんなふうに始めるのか。そして、初回の、まさにファーストカットを、演出の井上剛さんがどんなふうに撮ったのかも楽しみにしていました。

すると最初の映像は、予想もつかない、穴の中から空を見上げるような視点。工事の人が地面をスコップで掘っているんですね。しかも、その穴をさっと飛び越えていく人影。

画面が地上に切り替わると、そこは昭和34年(1959)の東京。ランニングシャツにマラソン足袋で駆けていく青年の後ろ姿が見えました。

都電が走る日本橋風景の俯瞰が素晴らしい。このドラマの美術は、オープンセットも含めて、なかなか豪華で見応えがあります。

工事中の道路は渋滞で、タクシーに乗っているのが古今亭志ん生師匠(ビートたけし)と娘の美津子(小泉今日子)でした。

出ましたね、キョンキョン。朝ドラ『あまちゃん』の初回で、娘のアキ(当時の能年玲奈)を連れて北三陸駅に降り立った、天野春子を思い出します。物語の始まりはキョンキョンから、ってことで(笑)。

タクシーの傍らを先ほどのマラソン青年がすり抜けていきますが、師匠は寄席の高座に上がり、落語「富久」を一席。画面には「火事が起きて、浅草から芝まで走り回る、たいこ持ちの噺」と解説文が入りました。

一方、都庁の一室には、昭和39年(1964)の東京オリンピック開催を目指す面々がいます。主人公の1人である、日本オリンピック委員会の田畑政治(阿部サダヲ)。東京都知事の東龍太郎(松重豊)。JOC常任理事の岩田幸彰(松坂桃李)などです。

また、室内に置かれた白黒のテレビ受像機に映っているのは、柔道の加納治五郎を看取ったというジャーリスト、平沢和重(星野源)でした。こうして昭和ブロックを眺めると、なかなか豪華な顔ぶれです。

すると画面は一転、明治の浅草に。クドカン脚本、今回もまた軽快にして自在です。後に古今亭志ん生となる、若き日の美濃部孝蔵(森山未來)が語りかけてきました。そう、ヤング志ん生はこのドラマの「語り手」でもあるんですね。

そんな構造に感心する間もなく、再び昭和34年にジャンプ。ミュンヘンのIOCでプレゼンする平沢。そして、東京でのオリンピック開催が決定します。

交差する2つの時代

そして、ここでタイトル。題字は、おお、横尾忠則さんではないか。こういう所も、プロデューサーの訓覇圭さんは、しっかり押さえてくる。それにしても贅沢だなあ。

ファンファーレ風のトランペットが聞こえ、次にマーチ風の軽快なテーマ曲が流れます。音楽担当は大友良英さん。時代劇の大河とは、いい意味で別物であることが、耳からも伝わってきました。

タイトル開けからは、もう一気呵成。昭和35年(1960、もう1年たった!)の志ん生師匠(たけし)と、明治42年(1909)の加納治五郎(役所広司)による日本初のオリンピック参加、つまりストックホルム大会出場に向けての活動が交互に描かれていきます。

明治ブロックには、オリンピック参加は時期尚早と主張する東京高等師範学校教授の永井道明(杉本哲太)。日本選手団監督となる大森兵蔵(竹野内豊)。三島家の当主、三島弥太郎(小澤征悦)。その弟でスポーツマンの三島弥彦(生田斗真)。弥彦の仲間である吉岡真敬(満島真之介)などの姿が見えます。

また遊女の小梅が橋本愛さん、三島家のお手伝いさん・シマは杉咲花さん、女性記者の本庄に山本美月さん。これら女優陣も含め、明治ブロックのキャストも、昭和ブロックに負けない布陣ではないでしょうか。

それから、明治期、昭和期ともに、随所に当時のフィルム映像や写真が出てきます。たとえば明治41年(1908)のロンドンオリンピックでのエピソードなども、この記録フィルムを使って説明されていました。ドキュメンタリードラマの手法の一つですが、史実を伝える上で有効だと思います。

ユーモア精神と遊びごころ

そして第1回のクライマックスは、ストックホルム五輪の予選会というべき、羽田運動場での陸上競技大会でした。

続々と脱落者が出るマラソンで真っ先にゴールしたのが、中村勘九郎演じる金栗四三(かなくりしそう)です。第1話を、ドラマの主人公の「幼少期」から始めなかっただけでなく、最後の最後で、ようやく本人を登場させるという仕掛けが心憎い。来週の第2話から舞台を熊本に移し、四三の少年時代が始まるようです。

あと第1回で印象に残ったのが、あちこちに見られた“ユーモア精神”と“遊びごころ”でした。

予選会が始まる前、「東京鳥瞰絵図」なるイラスト地図が出てきました。で、会場である羽田運動場を示す印を見ると、これが「グーグルマップ」の位置マークそっくりで、笑ってしまいました。

また、マラソンでふらふらになった四三の顔が真っ赤で、一瞬、ケガでもして血だらけなのかと思いました。でも、よく見ると、まるで歌舞伎の「隈取(くまどり)」のような形になっているのです。

これは、四三がかぶっていた赤い帽子の着色料が雨で流れたものと説明されましたが、歌舞伎役者である中村勘九郎さんに対する、制作陣からのユーモアあふれる激励だったのではないかと思います。

史実を基にしたフィクション

とにもかくにも、第1回は無事終了。いつもの「時代劇大河」とは、また違った楽しみ方が出来そうな、「近現代劇大河」の船出と言えるでしょう。

脚本・宮藤官九郎、音楽・大友良英、演出・井上剛、制作統括・訓覇圭という「チームあまちゃん」のカラーが、初回からしっかり出ていたことは確かです。それはキャストも同様で、小泉今日子、杉本哲太、橋本愛といった「あまちゃんメンバー」が、この“クドカン大河”を大事なところで支えてくれそうな予感がします。

第1回のタイトルは「夜明け前」でした。そして来週の第2回は「坊ちゃん」。このまま近代文学の名作を並べていくのでしょうか。クドカンをはじめ制作陣の、「もの語ること」へのリスペクトと遊びごころかもしれません。

今回の大河でも実在の人物たちを描くわけですが、史実や事実にしばられ過ぎると、モデルやモチーフの呪縛に陥った実録路線の「朝ドラ」みたいになってしまいます。どの朝ドラとは言いませんが(笑)。

番組の終わりに、「このドラマは、史実を基にしたフィクションです」の一文をわざわざ置いたのは、堂々の「虚実皮膜宣言」だと解釈します。

『あまちゃん』は、朝ドラの歴史において、いい意味での「異色作」でした。この『いだてん~東京オリムピック噺』も、近現代劇であることだけでなく、2人の主人公と2つの時代という設定などで、すでに大河における異色作であり野心作です。

むしろ異色作・野心作であることを逆手にとって、「ドラマって、こんなことも出来るんだぜ」とばかりに、思い切り暴れて欲しいと期待しています。
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