碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

デイリー新潮で、「いだてん」について解説

2019年01月21日 | メディアでのコメント・論評


大河「いだてん」が早くもピンチ
 “近現代”と“オリジナル脚本”はコケる
のジンクス

1月6日にスタートした平成最後のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」は初回こそ15.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)で、昨年の『西郷どん』(主演:鈴木亮平)の初回視聴率15.4%をかろうじて上回ったが、第2話(13日)は12.0%まで急降下。

これを受けてフリーアナウンサーの久米宏は、1月19日放送の「久米宏 ラジオなんですけど」(TBSラジオ)で以下のように語った。

「(昨年)暮れから大キャンペーンをずっと張っていて、その挙げ句が15.5%。『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)にかなり負けている。(中略)さらに2話は『ポツンと一軒家』(テレビ朝日系)の制作費7万円くらいの番組にまで負けて……NHKはショックだろうね。(中略)下手すると、明日は1ケタになるんじゃないか?」

同業者にここまで言われたら、NHKもさぞやショックだろう。

それにしても、朝ドラ「あまちゃん」で実績のあるクドカンこと宮藤官九郎を脚本に抜擢して、なぜここまで視聴率は伸びないのか。

1963年、井伊直弼を描いた「花の生涯」(主演:尾上松緑[二代目])に始まり、今年で58作目となる大河ドラマが「いだてん」だ。これまでの人気作品を見てみよう。

意外なことに「NHK紅白歌合戦」とは違って、古ければ古いほどみんなが見ていたわけではない。1960年代からは2本、70年代からはなく、80年代から6本がランクインしている。90年代に2本あり、2000年以降、ベスト10に入る作品はない。

作品の時代背景を見ると、戦国時代を含む作品が5本、これに安土桃山時代も含めると10本中7本に、日本人の好きな織田信長、豊臣秀吉、徳川家康が出演していることに。
さらに、日本人が大好きな「赤穂浪士」と暴れん坊将軍の「徳川吉宗」は江戸中期の物語であり、9本が近世を描いたものになる。

唯一の例外が「いのち」であり、時代は昭和で、主人公が架空の人物であるばかりか、歴史上の人物が全く登場しない唯一の大河作品である。

「後にNHK会長となる川口幹夫さんが放送総局長だった頃に、戦国時代と幕末ばかりになってしまった大河ドラマの路線転換を図ったんです。“近代大河”と名付け、山崎豊子さんの『二つの祖国』をもとに日系アメリカ人2世を主人公にした『山河燃ゆ』(1984年、主演:松本幸四郎、西田敏行)に始まり、翌年には日本人女優・第1号の川上貞奴を描いた『春の波濤』(主演:松坂慶子)を放送したのですが、どちらも不人気でした。そのため、大河『おんな太閤記』や朝ドラ『おしん』(1983~84年)で実績にある橋田壽賀子さんにテコ入れをお願いし、視聴率を回復させたのが86年の『いのち』です。実際、その翌年の『独眼竜政宗』以降3年連続でベスト10入りしているのは、視聴者の揺り戻しでしょう。NHKも相当懲りたと見えて、以来、大河で近現代を扱うことはなかったのですが、『いのち』から33年ぶりの近現代大河となったのが『いだてん』というわけです」(当時を知るテレビマン)


わかっていたはずの低視聴率

では、逆にこれまでの大河ドラマワーストを見てみよう。

上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)は感慨深げに言う。

「原作のないオリジナル脚本が、ワーストのほうに目立つのが気になります。NHKとしては、オリジナル脚本にすることで、ストーリーをいじれると思っているのだと思います。しかし、ガッチリした原作があってこそ、背骨がしっかりしているからこそ、遊びもできるんですけどね。だからこそ、大作家の原作の大河は面白く、人気もあったわけです。でも、やっぱり日本人は、戦国時代と幕末が好きなんですよ。日曜夜8時には、信長・秀吉・家康が出てくる戦国時代の面白いところ、本能寺の変があって、秀吉が天下を取って、その後、家康が幕府を開くという、心地よく刷り込まれた歴史物語なら、繰り返しでも見るんです。それを、手を変え品を変えて見せるのが大河です。一方で視聴者は、知らない時代の知らない人は見たくない。同じ戦国時代であっても、『おんな城主 直虎』は知らないし、平安時代も室町時代も興味がない。ましてや明治以降の話は、まだ評価が定まっていないところもありますからね。『西郷どん』だって幕末の頃は面白くても、征韓論や西南戦争など最後のほうは、いまだに評価が定まっていないところもあります。明治以降の人物は、遺族だって生きている場合がありますし、生々しさがある。そういった話なら、大河でなくてもいいんですよ。『山河燃ゆ』だって、ほかの枠で見たかったと思いましたしね」


どうやら、大河にとって“オリジナル脚本”と“近現代”は鬼門のようだ。特に“近現代”については、すでに33年前に結論が出ていたのである。

“近代大河”を指揮したNHKの川口元会長は当時を振り返り、新聞のインタビューにこう答えていた。

〈時代劇は歴史のロマンを感じさせるかが、近現代はまだ生々しさが残る現実なんですね。でも、思い切って冒険をした意味はあったと思う。日曜夜の定時枠で求められているものは何か、改めて確認できたからです。現場が「時代劇に戻したい」とも意思出て、了承しました。〉(読売新聞:05年12月16日付)

にもかかわらず、近現代大河「いだてん」をスタートさせて、この惨状である。

前出の碓井教授は、それでも見続けるという。

「さすがにNHKだって、結果はなんとなくわかっていたと思いますよ。でも、来年の東京五輪という国策にも、お付き合いしないといけないのでしょう。ひょっとするとワースト大河の1位になるかもしれませんけど、それでも見ようと思うのは、たとえ失敗しても面白がらせてくれるのが、クドカンの作品だからです。でも、従来の大河ファンの方には、来年まで待ってもらうしかないかもしれませんね」


来年の大河ドラマ「麒麟が来る」の主人公は、ご存知!明智光秀だ。クライマックスは「敵は本能寺にあり!」である。「いだてん」は見ないという方、今しばらくお待ちください。【週刊新潮WEB取材班】

(デイリー新潮 2019年1月20日)



<2019年2月15日発売>

ドラマへの遺言
倉本聰、碓井広義
新潮社



この記事についてブログを書く
« 【気まぐれ写真館】 今月も... | トップ | <ときどき記念写真> 秋学... »
最新の画像もっと見る

メディアでのコメント・論評」カテゴリの最新記事