碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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雑で緻密なクドカン脚本「監獄のお姫さま」 

2017年11月27日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


週刊テレビ評
「監獄のお姫さま」 
雑で緻密なクドカン脚本


この秋、最も楽しみにしていたドラマが宮藤官九郎脚本「監獄のお姫さま」(TBS系、火曜午後10時)だ。脚本家として、すっかり巨匠となったクドカンだが、変わらないヤンチャぶりとマイペースがうれしい。

6年前、女子刑務所で知り合った4人の受刑者(小泉今日子、森下愛子、菅野美穂、坂井真紀)と1人の刑務官(満島ひかり)。出所した彼女たちが、ある事件にからんだ復讐(ふくしゅう)を果たそうとするのが、このドラマである。

初回で、ターゲットとなる会社社長、板橋(伊勢谷友介)を拉致してしまう。彼の婚約者を巡る殺人事件で逮捕された、「爆笑ヨーグルト姫」こと先代社長の娘(夏帆)の冤罪(えんざい)を晴らすのが目的だ。

第2話以降、刑務所での様子も描かれてきた。小泉の罪は夫に対する殺人未遂だが、他のメンバーの罪状や事情も徐々にわかってくる。そして物語の軸となる「姫」が、獄中で板橋の子を出産した経緯も明かされた。

クドカンドラマの特色は、登場人物たちのキャラクターが物語を生むことだ。どんな人物なのか。これまでどう生きてきたのか。それがそのままストーリーにつながっていく。

「冷静に!」が口癖の馬場カヨを演じるのは、「あまちゃん」(NHK、2013年)の小泉。満島、坂井、そして森下たちは、「ごめんね青春!」(TBS系、14年)のメンバーだ。

クドカンドラマのツボを熟知している彼女たちの会話、いや、おばちゃんたちの「わちゃわちゃ」したダベリを聞いているだけでおかしいのに、朝・昼・晩の食事ごとに流れる「ごはんの歌」みたいな、おちゃめな仕掛けもたくさんあって、つい笑ってしまう。

別世界のようでいて、どこか世間と地続きでもある女子刑務所。クドカンは、この密度の高い閉鎖空間を生かしながら、物語にマニアックな笑いをちりばめ、個性派女優たちが快演や怪演でそれに応えているのだ。

このドラマでは、17年12月の「現在」と、刑務所時代などの「過去」を頻繁に行き来することになる。時間のジャンプや連続ワープみたいなものだが、時間軸が錯綜(さくそう)するので、一見分かりづらいかもしれない。

しかし、時間を操ることは、ドラマという「劇的空間」ならではの醍醐味(だいごみ)。見る側が鼻面を引き回される、もしくは終始翻弄(ほんろう)されるのもまた、クドカンドラマの快感だ。

そういえば、拉致されている板橋社長が、彼女たちの「企て」と「行動」について、こんな感想を口にしていた。「雑なのか緻密なのか、わからない」と。言い得て妙というだけでなく、このドラマの面白さも見事に表現している。

(毎日新聞 2017年11月24日 東京夕刊)

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