碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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新春ドラマ放談 (2)

2016年01月05日 | メディアでのコメント・論評



オリコンが発行するエンタメ専門誌「コンフィデンス」。

その新年特別号に、「新春ドラマ放談」のタイトルで座談会が掲載されました。

この座談会で、産経新聞記者の三品貴志さん、ライターの吉田潮さんとご一緒しています。

以下はそのパート2で、4月期と7月期のドラマが対象。





新春ドラマ放談
15年注目ドラマ振り返り&16年の期待の若手
ヒットドラマ・俳優ブレイクのカギを探る!
<パート2>


朝ドラより朝ドラらしいヒロイン
大河より大河らしい日曜劇場


――4月期では、全員一致としては『64』が挙がっています。

三品氏 実はそこまで手放しで絶賛というわけではないのですが、ピエール瀧の存在感と、井上剛の演出の力を改めて感じました。

碓井氏 ギリギリと雑巾を絞るような、非常に緊迫感のある演出でしたね。ゴロンと横になって眺めることができない。あまちゃんのピエール瀧とは違う迫力が見事で、大画面テレビを縦に埋めちゃう存在感は、『帝都物語』での嶋田久作のインパクトを継ぐものだったと思います(笑)。

吉田氏 硬派というと軽く聞こえるかもしれませんが、あの昭和の時代感、空気感がきちんと表現できていて、素晴らしいと思います。段田安則さんの演技、特に子どもを誘拐され、震える手で10円玉を公衆電話に投入するシーンとか、目がクギづけでした。ピエール瀧の汗とか、ああこれきっと本物の汗だと思わせる。そういう細部へのこだわりにも惹かれました。

――本来なら『天皇の料理番』はこのクールの代表作だと思うのですが。

碓井氏 それはもちろん、ちゃんと作ってありましたね。さすがTBSだな、日曜劇場だな、と。優等生的な作品。

三品氏 それこそ、TBSのドラマ制作力の高さを改めて世間が認識したという意義は大きかったかもしれません。佐藤健も、意外に愛嬌のある一面を見せてくれて。

吉田氏 ただ、あえて私たちが褒めなくても、もう十分に評価されていますから(笑)。この期では個人的に『REPLAY&DESTROY』が印象的でした。もうね、セリフの展開についていけなくて、自分が歳をとったというのを痛感させられた。おばさんついていけない(苦笑)。小林涼子など若手の実力派も出ていて、興味深く観ていました。

――続いて7月期。『表参道高校合唱部!』『民王』『恋仲』といった話題作がありました。

碓井氏 この夏はリアルな政治でも総理が話題になることが多かったし、そういう意味でも『民王』でしたね。おかしかった。そりゃ、そんなに深く考えてやってるわけではないんでしょうけど、俗物総理とバカ息子の中身が入れ替わるようなドタバタコメディを放映すること自体が、うまく社会批評にもなっているという。

吉田氏 実は『表参道高校合唱部!』にはさっぱり反応できなかったんです、残念ながら。あー慈英さん歌うまいんだ、堀内敬子さんも声がきれいとか、神田沙也加さんも城田優さんも歌うまいなーとか。そういう反応のみ。個人的に合唱という文化がちょっと苦手だということが大きかったかもしれない。

碓井氏 逆に、昔ながらの合唱をドラマの軸に据えたところが挑戦だったように思います。たとえどんなにヘタでも、合唱そのものは人の気持ちを打つ。彼らが肉体で声を出して歌うだけで、おじさんちょっと泣けてくるという(笑)。芳根京子さんも、久々に良い意味で田舎っぽい子が出てきたなと思います。実際は東京の方だそうですが、うまくこういう子が伸びていけばいいなと。

三品氏 比較するのもおかしな話ですが、時期が一部重なっていた『まれ』よりもヒロイン像が朝ドラっぽくて、朝ドラよりも朝ドラらしい、しっかりしたドラマでした。ちょうど同じ頃に『天皇の料理番』が『花燃ゆ』より大河ドラマ的だという評判もよく耳にしましたが、これらは2015年の皮肉でしょうね。

碓井氏 『恋仲』については、セリフや恋愛模様が既視感ありまくりであらゆる原稿で斬りましたね(笑)。でも、若者たちにとってはそこが新鮮だったという声も聞きます。

三品氏 若い世代に受けたという事実はきちんと捉えておかなければ、と思いますね。SNSでの話題性が突出していて、リアルタイム視聴に若者が戻ったとされています。序盤では、あだち充作品との類似なんかも指摘されていましたが、そういうベタなネタが一周まわって新しいということなのでしょうか。

吉田氏 うーん。若い子にとっては、本当にドラマそのものを楽しんでいたというより、むしろネタ消費に近かったのではないかという感触があります。ドラマのシーンを真似て動画サイトに投稿するとか。ちょうど、“壁ドン”や“あごクイ”などがネタになるのと同じような感覚ですね。


【3人が注目した作品/15年4月期】

碓井氏
『アイムホーム』(EX系)
『64』(NHK)
『不便な便利屋』(TX系)

三品氏
『天皇の料理番』(TBS系)
『64』(NHK)
『LOVE理論』(TX系)
吉田氏
『64』(NHK)
『REPLAY&DESTROY』(TBS系)
『天使と悪魔』(EX系)


【3人が注目した作品/15年7月期】

碓井氏
『表参道高校合唱部!』(TBS系)
『民王』(EX系)
『初森ベマーズ』(TX系)

三品氏
『表参道高校合唱部!』(TBS系)
『恋仲』(CX系)
『初森ベマーズ』(TX系)
吉田氏
『探偵の探偵』(CX系)
『民王』(EX系)
『エイジハラスメント』(EX系)


・・・続く・・・

(オリコン「コンフィデンス」2016新年特別号)