「同志国・友好国との間で同じレベルの法制度をちゃんと整備していること。そういう環境を一刻も早くつくらなければならない」(2月27日 高市経済安全保障担当相の会見)
また出たよ。他の国はみんなやってるから日本もやる、という「説得」。この種の説明の仕方について、以前にも書いた外国の状況をまた書きます(情報源は、「モーニングショー」と「ばら色ダンディー」)。だいぶ忘れてしまいましたが。
・ 憲法改正
確かに、ドイツは憲法を何十ヵ所も改正している。だが、東西ドイツの統一によるものだ(全部かどうかは忘れた)。「西ドイツは」という文言を「ドイツは」と変えた箇所が大部分、というイメージ。それをもって「だから日本も」という主張、そんなの相手にする必要はない。
・ 年金基金の株式投資での運用
私が覚えている「他の国」はアメリカ。日本とは違って、年金基金のうち一部の制度分だけを株式投資で運用していた。でも当時の第2次安倍政権の説明ではその辺が抜けていた。
・ マイナンバーによる個人情報管理
スウェーデンは、他人のマイナンバーも知ることができてそれをもとに他人の納税額も適法に調べられる。で、「あの人の納税額は生活水準と比べて低すぎる。脱税しているのでは」と通報されたりする。つまり、すさまじい透明性と併存しているのだ(なお、こんなであれば「個人情報を集めて詐欺の標的を探す」犯罪は成立しないのかな? スウェーデンの防犯事情はどんななんでしょう)。
アメリカでは、マイナンバー(社会保障番号)は極秘。本人さえも、もし忘れてしまったら教えてもらうのには手間がとてもかかる(苫米地英人氏によれば、外国にいても教えてくれる窓口に実際に行かなければならない。しかも、窓口の人が本人に耳打ちするのを慌ててメモしなければならない)。身分証明書や保険証として持ち歩いて活用しよう・・・という日本とはまるで違う。
こんな制度は始めなければ良かった、と言っている国もある(どこかは知らない)。
「他の国」と内容が違うのを言わないで「他の国もやっている制度だ。日本が遅れているのだ」と主張する政府。セキュリティ・クリアランス制度についても同じ進め方だ。
こういう進め方はもうやめないと。筋が通らない。つけを払わされる。どうせ政治家も行政も責任を取らない。そんなこと、もう十分思い知らされてきた。
仮に、外国がみんな同一内容の制度でやっていたとする(そんなことはないが)。そして、日本も全く同一の制度にする。・・・という説明であればどうか?
それでも、「それならいいだろう」と判断するのはまだ早い。
だって、その他の制度が違うから。
例えば、今だ進展のない裏金事件への対応を考えてみても。規制(「規正」はなんだかなあ)法の内容はもちろん、政府や行政の仕組みが違う。
今アメリカのニュースを見ると、複数の事件で被告となっているトランプ氏が大統領選に立候補できそうであることに驚かずにはいられない。大統領時代に自分に好意的な裁判官を任命できた成果だろう。一方、検事は選挙で選ばれる。
また、日本では最高裁が憲法について判断することはあまりない。憲法を専門に扱う裁判所を設置している国もあるのに。
他にも、連邦制なので地方自治体と中央政府の関係が日本とは違ったり。公文書の扱いが違ったり。日本には政権交代がほぼなかったり。
・・・といろいろ違えば。全く同一のセキュリティ・クリアランス制度を導入しても、運用は国によって別物になるはずだ。
なのに、「同じレベルの法制度をちゃんと整備」と言われても納得はできない。よそはよそ、うちはうち。そう言いたい。
よそはよそ、うちはうち。
高市大臣の言う「同志国・友好国」とは、G7諸国を意味するのだろうか。とすると、社会の前提が違うなあ、と感じる。
イギリスは階級社会(ウィリアム皇子とキャサリン妃の結婚で、「労働者階級」といった区分がまだ続いていることに驚かされた)だし、アメリカには人種による階層が残っている。同じ人種間でも「不法移民とアメリカ生まれの自分は違う」もある。フランスには政治家ならあの学校、という難関大学があった記憶が。イタリア・ドイツ・カナダはどうだろう? 何かありそうだけどな。
そんなふうに、住民や国民を種類分けすることに馴染んでいる。
日本にもそういう面はあるけど、程度が違うのでは? それを区分けすることで失うものはないだろうか。
プラス、COVID-19でも明らかな、日本社会の人目を気にする傾向の強さとか相互監視とか。
こういう違いを無視して西欧諸国と同じに、というのはなかなか。社会的な負荷というか消耗が大きそうだけどな。うろ覚えだけど、幸福度とか自己肯定感などの国際比較での日本人の低さ。それに拍車がかかりそう。大丈夫か?
『エロイカより愛を込めて』では。ベルリンの壁崩壊後のエーベルバッハ少佐が牛の搾乳機に関するスパイ行為を追っている、という逸話があった覚えがある。結構広い範囲の人がセキュリティー・クリアランスの調査対象になるかもしれません。
セキュリティー・クリアランス制度を導入すれば海外の研究やビジネスへのアクセスがだいぶ改善される、ということだが。
メリットとデメリットの両方が必ずある。デメリットに関する検討と対応をお忘れなく。
特に、今は。日本の国会議員は「同志国・友好国との間で同じレベル」に達していないんじゃないの・・・という疑惑の渦中だ。
大多数の国民は、セキュリティー・クリアランスとは何かとか外国の状況はどうかとか、知らないし調べたり考えたりしない。仕事(家事なども含む)とか学校とか、日々の生活がある。国会議員と違って、「自分の仕事」ではないのだ。政治家を代理に立てて担当してもらっている。
もしみんなが政治家並みに政治に時間や労力を注ぎ込んでいたら、社会も経済も生活も回らない(かなりまめにブログを書いている最近の私。健康と掃除が犠牲になっている・・・改めねば)。
だから政治家が信頼できないとつらい。
そんな中で、法案。
第11条の定めでは、行政機関の長・国務大臣・内閣官房副長官・内閣総理大臣補佐官・副大臣・大臣政務官は、調査対象外。高市担当相は「内閣の一員として任命される段階で必要な考慮がされるということで適正評価の対象外」と説明した。
調査項目として挙げられているのは、
・ 家族らの氏名・国籍・住所など
・ 犯罪または懲戒歴
・ 情報取扱の違法行為に関する経歴(*)
・ 薬物の濫用や影響
・ 精神疾患
・ 飲酒の節度
・ 借金など経済的な状況
・・・以上、3月12日の「大下容子ワイド!スクランブル」に依ります。
一例を挙げるだけでも。大下アナウンサーが言ったように、旧統一教会という外国のカルト団体から選挙応援を受けた大臣がいる政権なのだ。なのに、こんな案・こんな説明なのか。どういう構造の脳みそなのだろう。
やっぱり、今の政府には資格・能力の問題があると思うけどなあ。
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(*)
「情報取扱の違法行為に関する経歴」? アメリカの調査項目は?
日本は7だがアメリカは13項目ある。そのうちの「保護情報の取り扱い」が該当するだろう。やっぱりアメリカの制度にもあるんだ・・・ バイデン大統領とトランプ前大統領は? アウトじゃないの? なんで? アメリカはどうなってるんだろう。
2人にはアメリカ政府の機密書類を自宅に保管していた問題があるけど、それでも彼らのセキュリティー・クリアランス調査は「合格」なのか? 日本で法が成立したら「大統領は外せ」と主張できるのかね? 上に書いたように、日本の法案では政務3役は調査されない。アメリカの制度でも大統領などは対象外なのだろうか。
第2次安倍政権以降、敢えて議事録を作らなかったり、公文書が廃棄されたりしている。それでも調査対象でないから項目をクリアしてなくても良い、のか?
法案そのものにも運用にも、わからない部分が多い制度だ。私だけ?