※捏造未来話です。何だかんだ言ってオールキャラ登場してます。(苦笑)
いつからだろうか。
彼と私の間に明確な線引きが見えはじめたのは…。
昼休みで騒がしい教室の一角で、京子は親友の花といつものように机をくっつけてお弁当箱を開けていた。
「…京子、京子っ!」
どこかぼうっとしていた京子は突然目の前で親友に呼ばれビクリと驚いてしまう。
「へ…、えっ、何?花?」
「何?じゃないよ!さっきから何度も呼んでんのにさぁ~」
「あっ…ごめんっ!ちょっとぼうっとしてて…」
「まったく、そんなに気になんの?沢田達の事」
直球で来る花に京子は目を丸くしてしまう。
「えっ…どうして…」
どうしてわかったのかと京子が親友を凝視すると花が盛大に溜め息を付いた。
「あんた、バレないと思ってんの?ここ最近ずっとどこかぼやけながら沢田の席ばっかり見てんじゃん」
「うん…。そう、なんだけど…」
「どうせサボりでしょ?ダメツナの事だから」
そう言いつつも花自身それは違う、と理解していた。
数日前、京子のお兄さんが夜家にいなくなって、心配だから一緒に捜してと電話があり、捜した挙句、学校で妙な連中と戦う京子のお兄さんを見つけた。
その場には今教室にいない3人も居て、一体何をしているのか分からなかったが花は京子のように京子の兄の下手な言い訳を信じてはいなかったのでまずこれは自分の理解を超えている、と考える事を放棄したのだ。
だからこそ京子に下手に巻き込まれたくはない、と思ってしまうのだ。
そしてそれは京子のお兄さんや沢田達も同意見のはずである。
でなければあれほど下手な言い訳を言ってまで京子を遠ざけようとはしまい。
「あいつらなら大丈夫だって!それよりも帰り京子が行きたいって言ってた雑貨屋さん行こうよ。付き合ってあげるし」
無理やり話題を変えるように花は残ってるお弁当の攻略に掛かる。
「あっ…、うん。行こうね、花」
京子もその言葉にどうにか思考を中断して同じくお弁当に箸をつけ始めた。
大丈夫…だよね?
何か酷く胸騒ぎがする。
ツナ君が遠いところに行ってしまいそうな……。
小さな不安が京子の胸の中に落ちる。
……けれど。
この時の幼い京子には、自らその不安を覗く勇気が持てずにいたのだった。
―――――数年後、その胸騒ぎが現実の物となり、その時既に追いすがろうとも何もかも手遅れになろうとは、今の幼い京子には分かろう筈もなかった・・・・。
「ツナ君、さようなら」
騒音が激しい飛行場の搭乗口で、数年前より背の伸びた少年に向かい、別れの言葉を口にする。
「ありがとう。京子ちゃん」
目前の彼はどこか照れたように笑う。
「しっかし、ダメツナがイタリアか~、とんだ出世したもんだよね」
「ひっどいなぁ、黒川。まぁ確かに親戚の稼業を継ぐだけなんだけどさぁ~」
「その親戚も思い切ったもんだよね~」
「…まったく」
どこか飄々と自分と話す彼は本当にあのダメツナかと花は少し目を見張る。
同じ高校に進学してもあまり京子の付き合い程度にしか関わっていないせいかもしれないが…。
「ツナさぁ~ん!!」
「あぁ~、もぅ何回泣いてるんだよハル~」
「だってだってツナさん~!!」
「いい加減にしろよな~、どうせ後からハルもこっち来るんだろ」
「「えっ…」」
計らず、京子も花もつい声をあげてしまう。
それを見た綱吉はあれ、とハルを見返す。
「言ってなかったのか、ハル?」
「はひぃ~、そういえばツナさんとのお別れに気を取られて…」
照れたように誤魔化すハルに綱吉は呆れたように溜め息を零す。
「えっ…じゃあハルちゃんもイタリアに行っちゃうの?」
「うん、ハルが来るって聞かなくて…。もう根負け」
苦笑いしながらも何処か嬉しそうな綱吉に、京子は何とも言えない気持ちになる。
花も、京子を介して多少仲がよいハルが綱吉の事を好きなのは知っていたが、そこまでするかと驚きを隠せない。
「えへへっ…ツナさん達に無理言って頼み込んだんです」
「…達?」
花が鋭く指摘すると後方から声が聞こえた。
「全く、あんまりしつこいからね」
「クフフ…、綱吉さんもつい折れてしまいましたね」
その声に振り返れば黒いスーツに身を纏ったかつて並盛を恐怖で支配していた雲雀恭弥と黒曜を同じく支配し、一時期並盛にまで勢力を伸ばした六道骸が。
「ヒバリさん、骸!」
驚いたような綱吉の声が聞こえたが、花と京子はそれ以上に驚いていた。
接点はあるようでない…、あるならば同じ学校だと言うだけの、骸に至っては学校も違う彼らがなぜ綱吉と、と戸惑うばかりだ。
「テメェら!俺に荷物を押しつけていくんじゃねぇ!!」
「軟弱だな!獄寺!!」
「お兄ちゃんっ!?」
今度こそ京子は心底驚いた声をあげる。
高校を卒業してから直ぐに武者修行と称して海外に行っていたはずの兄がいるのだ。
驚くなと言う方がおかしい。
しかも卒業前に渡伊していたはずの獄寺まで…。
「京子……」
「お兄ちゃん」
久々に再会して嬉しいはずの兄がなぜだか遠い。
「京子、俺は沢田と共にイタリアに行く。もう日本には戻らない筈だ。…すまん」
「お兄ちゃん…」
突然の兄の決別に京子は喉が張り付いたように何も言えない。
「ごめん、京子ちゃん。お兄さんを巻き込んで…。でも、もう既に了平さんは俺にとってなくてはならない人なんだ」
だから許して欲しい、と綱吉は京子の目の前で深々と頭を下げる。
沈黙する京子に花は戸惑ったように何と声を掛けて良いか分からない。
そんな花の前で京子はゆっくりと口角をあげる。
「お兄ちゃん、どうしても行くの…?」
「…すまない」
了平の決意は一度決まると固いことを、京子は誰よりも知っていた。
沈黙が零れる。
それを破ったのは静かな京子の微笑だった。
「お兄ちゃん、ツナ君をお願いね。…私が言うべき事じゃないのは十分理解してる。でも、最後にこれぐらい我が儘言わせて…」
その言葉に綱吉は下げていたままの頭をあげ、京子を驚いたような目で見詰める。
兄を見ていた瞳を一瞬綱吉に這わせ、京子は悲しげに微笑する。
「お兄ちゃんはずるい。私になんの相談もしないで勝手に決めちゃって…。私の大切な人を連れてっちゃうんだから…」
「京子…」
「本当は分かってるの。私は逃げてばかりだったから、ハルちゃんみたいに頑張れなかったから。…自業自得なの。でも、こんな私の分もお願い、ツナ君を守って。幸せにして…」
毅然と前を向き涙を堪えながら兄の瞳を貫きながら言い放つ。
「…分かっている。任せろ!京子」
「あたり前だ!十代目は俺達が命を懸けてでも守ってみせる!!」
「綱吉を幸せにするのは僕の役目だよ」
「世迷い言を…。綱吉さんを守るのは僕の仕事ですよ」
「ツナさんはちゃんと私が幸せにしてみせますっ!!」
次々にあがる声に、京子は綱吉が既に昔のように一人で居た彼ではないのだと改めて突きつけられる。
「みんな…」
何処か感傷的になる自分を戒め、改めて綱吉の前に立つ。
「ツナ君…」
「京子ちゃん」
京子はツナの目前まで来て視線をしっかり合わせる。
「ごめんなさい。きっと私ずっとツナ君から逃げてた。甘えてたの…、ツナ君の優しさに」
「京子…」
戸惑ったような花の声が聞こえるが今の京子には目の前の綱吉しか見ていなかった。
「だから最後に言わせて、お願い」
「うん」
綱吉の了承にふわりと京子が嬉しそうに笑う。
「ツナ君、私はあなたが好きでした。…でも私は弱くて卑怯だからずっと傍に居てくれると信じていたかったの。…だからツナ君の事何も分かってなかった。そんな私に告白する資格何て無いかもしれないけど、お返事くれませんか?」
「…ありがとう。京子ちゃん。本当に嬉しいよ、…そしてごめんなさい」
「はい」
「ちょっ…!沢田っ、あんただって京子の事好きだったんじゃないの!?」
つい抗議してしまいそうになる花をハルがその前に片手で制す。
「花さん、これは2人の問題なんです」
「……!!」
どこか冷徹な仕草と口調にこれは本当に自分が知っているハルかと花はつい疑ってしまう。
綱吉はそんな花を見て、また視線を京子に戻す。
「確かに…黒川の言う通り俺の初恋は京子ちゃんだったよ。…でも今の俺には他にやるべき事、大切な人達がいるから。…それを捨ててまで京子ちゃんと生きて行く事は出来ない。…ごめんね、本当にありがとう。それだけで本当に嬉しかったよ」
本当に嬉しそうに笑う綱吉に京子もつられて笑みを浮かべる。
「ううん、ちゃんと返事を返してくれただけでも嬉しい」
京子は本当に嬉しそうに笑う。
「おい、京子にはワリィが、もう搭乗時間だツナ」
「リボーン、分かったよ」
この数年で成長したリボーンがいつの間にか綱吉の傍に来て、釘をさす。
それをきっかけに綱吉と京子の視線は外れる。
搭乗入口に彼らしか居ない事に果たして京子と花は気付いているのだろうか。
ただひたすら綱吉を見続ける京子に、綱吉は彼女に精一杯の誠意を見せたいと思う。
ちらりと傍らの家庭教師に視線を送ると、好きにしろとにべもなく撥ね付けられる。
それに苦笑しながら皆に視線を這わせていくと、皆呆れたような、苦笑したような瞳で好きにしろと答えてくれた。
「京子ちゃん」
「なに、ツナ君?」
「黒川にも、…本当は何も言わないつもりだったんだけど。やっぱり知っておいて欲しいんだ」
「ツナ君…?」
「沢田…?」
改まった口調の綱吉に戸惑う2人に、ふわりと微笑し。
そうして綱吉は今まで見せた事のないような厳しい表情を作る。
「隼人」
「恭弥」
「骸」
「了平」
「ハル」
厳しい声で呼び捨てると呼ばれた誰もが綱吉に忠誠を誓うように膝を折る。
それを何事かと2人は目を見張り、ここに至ってようやく自分達の周りに誰もいないと言う異常事態に気が付く。
「彼らは…ハルを除くと全員俺の守護者なんだ。…武とランボは後で集合するけどね」
空港に静かな綱吉の声が響く。
「守護者…?」
聞きなれぬ言葉に、恐る恐る問い掛ける京子を綱吉は一瞬表情を崩して問いに答える。
「そう。俺の…イタリア最大のマフィア、ボンゴレ10代目のね」
《そこ》にいるのは京子が、花が知っている『沢田綱吉』ではなかった。
まるで別人のようなその気迫に2人は立ち尽くし、何も言えなくなる。
そんな2人に苦笑を零し、パチンっと指で音を鳴らすと最敬礼を行っていた彼らが姿勢を解いた。
「マフィア…?皆、お兄ちゃんやツナ君…ハルちゃんも?」
何か御伽噺を聞いているような面持ちで聞き返してしまう。
「そうだよ。皆…ここにいるのはボンゴレのボスと幹部達だ」
居並ぶのは知っている人が殆どで・・・、了平に至っては実の兄だと言うのに、どこか別世界の人間に聞こえる。
「…恐い?」
「突然過ぎて…分からない」
偽を許さぬ声で聞くと、心底戸惑ったような京子の思考が纏まっていないような返答が返ってくる。
それに少なくとも嫌悪が含まれていない事に綱吉は安堵する。
「俺にはそれだけで十分だよ」
そう言うと今度こそ本当にお別れだ、と告げる。
「ツナ君」
「京子ちゃん、…幸せになってね」
ゲートに吸い込まれて行く彼を必死に記憶に留めながら叫ぶ。
「ツナ君っ!ツナ君も絶対に幸せになってね!?…約束だからねっ!!」
最後まで彼に京子の叫びが聞こえたのか分からなかったが最後に綺麗な微笑を残してその日、沢田綱吉は京子の前から永遠に姿を消したのだった。
そして、数か月後友人のハルが渡伊し、更にはメジャーに行った筈のクラスメイトがそれを追いかけるようにいなくなり。
ブドウが好きだった子供までいなくなったのだと聞かされる頃には既に京子も花も大人になっていた。
あれからも2人の仲は変わらず、今では同じ大学に通っていた。
よく仲が良いね、と言われるのだがそれはきっとお互い内緒の秘密を共有しているからかもしれない、と思う。
懐かしい彼ら。
思い出せるのは互いの前だけだから。
町中の雑踏をいつの間にか穿き慣れたピンヒールで友人と歩く。
他愛ない話をして変わらない日常を過ごす。
友人と笑いながら、ふと京子は雑踏の中に淡い茶色の髪を流した青年を見つけたような気がした。
今まで友人と話していた事も忘れ、思い切り振り返ってしまう。
「…京子?」
友人の声も聞かず辺りを探すがやはり誰も見つからない。
「京子?」
再度問い掛けられる訝しげな声に、京子はかろうじて答える。
「ううん、なんでもないの」
心配しないで、と告げながらふと京子は彼は幸せになって、との自分が一方的に交した約束を果たしに来てくれたのではないかと自惚れてしまう。
だって自分が彼を間違うはずは無いのだから…。
雑踏の中で京子は思わず頭上の大空を見上げた。
(ツナ君、…幸せですか?)
問い掛けは、蒼い大空に溶けて消えた。
何時までも天空に、彼の人を思い浮かべながら―――――。
コメント:一度やってみたかった京子ちゃんの手遅れ(笑)シーン。彼女は何度やってもイタリアまで行きません。行けません。
置いてかれてしまう子だなぁ・・・と思います。
対極がハルですね。ハルは何年も前からこつこつ準備していたに違いありません。(笑)
だって雲雀さんと骸さんが根負けしたぐらいですから!
因みに山本さんは一度メジャーに行って貰いました(笑)その後やっぱりツナの元に・・・て感じでしょうか?
皆を跪ずかせる綱吉が書きたかっ・・・(死)
いつからだろうか。
彼と私の間に明確な線引きが見えはじめたのは…。
昼休みで騒がしい教室の一角で、京子は親友の花といつものように机をくっつけてお弁当箱を開けていた。
「…京子、京子っ!」
どこかぼうっとしていた京子は突然目の前で親友に呼ばれビクリと驚いてしまう。
「へ…、えっ、何?花?」
「何?じゃないよ!さっきから何度も呼んでんのにさぁ~」
「あっ…ごめんっ!ちょっとぼうっとしてて…」
「まったく、そんなに気になんの?沢田達の事」
直球で来る花に京子は目を丸くしてしまう。
「えっ…どうして…」
どうしてわかったのかと京子が親友を凝視すると花が盛大に溜め息を付いた。
「あんた、バレないと思ってんの?ここ最近ずっとどこかぼやけながら沢田の席ばっかり見てんじゃん」
「うん…。そう、なんだけど…」
「どうせサボりでしょ?ダメツナの事だから」
そう言いつつも花自身それは違う、と理解していた。
数日前、京子のお兄さんが夜家にいなくなって、心配だから一緒に捜してと電話があり、捜した挙句、学校で妙な連中と戦う京子のお兄さんを見つけた。
その場には今教室にいない3人も居て、一体何をしているのか分からなかったが花は京子のように京子の兄の下手な言い訳を信じてはいなかったのでまずこれは自分の理解を超えている、と考える事を放棄したのだ。
だからこそ京子に下手に巻き込まれたくはない、と思ってしまうのだ。
そしてそれは京子のお兄さんや沢田達も同意見のはずである。
でなければあれほど下手な言い訳を言ってまで京子を遠ざけようとはしまい。
「あいつらなら大丈夫だって!それよりも帰り京子が行きたいって言ってた雑貨屋さん行こうよ。付き合ってあげるし」
無理やり話題を変えるように花は残ってるお弁当の攻略に掛かる。
「あっ…、うん。行こうね、花」
京子もその言葉にどうにか思考を中断して同じくお弁当に箸をつけ始めた。
大丈夫…だよね?
何か酷く胸騒ぎがする。
ツナ君が遠いところに行ってしまいそうな……。
小さな不安が京子の胸の中に落ちる。
……けれど。
この時の幼い京子には、自らその不安を覗く勇気が持てずにいたのだった。
―――――数年後、その胸騒ぎが現実の物となり、その時既に追いすがろうとも何もかも手遅れになろうとは、今の幼い京子には分かろう筈もなかった・・・・。
「ツナ君、さようなら」
騒音が激しい飛行場の搭乗口で、数年前より背の伸びた少年に向かい、別れの言葉を口にする。
「ありがとう。京子ちゃん」
目前の彼はどこか照れたように笑う。
「しっかし、ダメツナがイタリアか~、とんだ出世したもんだよね」
「ひっどいなぁ、黒川。まぁ確かに親戚の稼業を継ぐだけなんだけどさぁ~」
「その親戚も思い切ったもんだよね~」
「…まったく」
どこか飄々と自分と話す彼は本当にあのダメツナかと花は少し目を見張る。
同じ高校に進学してもあまり京子の付き合い程度にしか関わっていないせいかもしれないが…。
「ツナさぁ~ん!!」
「あぁ~、もぅ何回泣いてるんだよハル~」
「だってだってツナさん~!!」
「いい加減にしろよな~、どうせ後からハルもこっち来るんだろ」
「「えっ…」」
計らず、京子も花もつい声をあげてしまう。
それを見た綱吉はあれ、とハルを見返す。
「言ってなかったのか、ハル?」
「はひぃ~、そういえばツナさんとのお別れに気を取られて…」
照れたように誤魔化すハルに綱吉は呆れたように溜め息を零す。
「えっ…じゃあハルちゃんもイタリアに行っちゃうの?」
「うん、ハルが来るって聞かなくて…。もう根負け」
苦笑いしながらも何処か嬉しそうな綱吉に、京子は何とも言えない気持ちになる。
花も、京子を介して多少仲がよいハルが綱吉の事を好きなのは知っていたが、そこまでするかと驚きを隠せない。
「えへへっ…ツナさん達に無理言って頼み込んだんです」
「…達?」
花が鋭く指摘すると後方から声が聞こえた。
「全く、あんまりしつこいからね」
「クフフ…、綱吉さんもつい折れてしまいましたね」
その声に振り返れば黒いスーツに身を纏ったかつて並盛を恐怖で支配していた雲雀恭弥と黒曜を同じく支配し、一時期並盛にまで勢力を伸ばした六道骸が。
「ヒバリさん、骸!」
驚いたような綱吉の声が聞こえたが、花と京子はそれ以上に驚いていた。
接点はあるようでない…、あるならば同じ学校だと言うだけの、骸に至っては学校も違う彼らがなぜ綱吉と、と戸惑うばかりだ。
「テメェら!俺に荷物を押しつけていくんじゃねぇ!!」
「軟弱だな!獄寺!!」
「お兄ちゃんっ!?」
今度こそ京子は心底驚いた声をあげる。
高校を卒業してから直ぐに武者修行と称して海外に行っていたはずの兄がいるのだ。
驚くなと言う方がおかしい。
しかも卒業前に渡伊していたはずの獄寺まで…。
「京子……」
「お兄ちゃん」
久々に再会して嬉しいはずの兄がなぜだか遠い。
「京子、俺は沢田と共にイタリアに行く。もう日本には戻らない筈だ。…すまん」
「お兄ちゃん…」
突然の兄の決別に京子は喉が張り付いたように何も言えない。
「ごめん、京子ちゃん。お兄さんを巻き込んで…。でも、もう既に了平さんは俺にとってなくてはならない人なんだ」
だから許して欲しい、と綱吉は京子の目の前で深々と頭を下げる。
沈黙する京子に花は戸惑ったように何と声を掛けて良いか分からない。
そんな花の前で京子はゆっくりと口角をあげる。
「お兄ちゃん、どうしても行くの…?」
「…すまない」
了平の決意は一度決まると固いことを、京子は誰よりも知っていた。
沈黙が零れる。
それを破ったのは静かな京子の微笑だった。
「お兄ちゃん、ツナ君をお願いね。…私が言うべき事じゃないのは十分理解してる。でも、最後にこれぐらい我が儘言わせて…」
その言葉に綱吉は下げていたままの頭をあげ、京子を驚いたような目で見詰める。
兄を見ていた瞳を一瞬綱吉に這わせ、京子は悲しげに微笑する。
「お兄ちゃんはずるい。私になんの相談もしないで勝手に決めちゃって…。私の大切な人を連れてっちゃうんだから…」
「京子…」
「本当は分かってるの。私は逃げてばかりだったから、ハルちゃんみたいに頑張れなかったから。…自業自得なの。でも、こんな私の分もお願い、ツナ君を守って。幸せにして…」
毅然と前を向き涙を堪えながら兄の瞳を貫きながら言い放つ。
「…分かっている。任せろ!京子」
「あたり前だ!十代目は俺達が命を懸けてでも守ってみせる!!」
「綱吉を幸せにするのは僕の役目だよ」
「世迷い言を…。綱吉さんを守るのは僕の仕事ですよ」
「ツナさんはちゃんと私が幸せにしてみせますっ!!」
次々にあがる声に、京子は綱吉が既に昔のように一人で居た彼ではないのだと改めて突きつけられる。
「みんな…」
何処か感傷的になる自分を戒め、改めて綱吉の前に立つ。
「ツナ君…」
「京子ちゃん」
京子はツナの目前まで来て視線をしっかり合わせる。
「ごめんなさい。きっと私ずっとツナ君から逃げてた。甘えてたの…、ツナ君の優しさに」
「京子…」
戸惑ったような花の声が聞こえるが今の京子には目の前の綱吉しか見ていなかった。
「だから最後に言わせて、お願い」
「うん」
綱吉の了承にふわりと京子が嬉しそうに笑う。
「ツナ君、私はあなたが好きでした。…でも私は弱くて卑怯だからずっと傍に居てくれると信じていたかったの。…だからツナ君の事何も分かってなかった。そんな私に告白する資格何て無いかもしれないけど、お返事くれませんか?」
「…ありがとう。京子ちゃん。本当に嬉しいよ、…そしてごめんなさい」
「はい」
「ちょっ…!沢田っ、あんただって京子の事好きだったんじゃないの!?」
つい抗議してしまいそうになる花をハルがその前に片手で制す。
「花さん、これは2人の問題なんです」
「……!!」
どこか冷徹な仕草と口調にこれは本当に自分が知っているハルかと花はつい疑ってしまう。
綱吉はそんな花を見て、また視線を京子に戻す。
「確かに…黒川の言う通り俺の初恋は京子ちゃんだったよ。…でも今の俺には他にやるべき事、大切な人達がいるから。…それを捨ててまで京子ちゃんと生きて行く事は出来ない。…ごめんね、本当にありがとう。それだけで本当に嬉しかったよ」
本当に嬉しそうに笑う綱吉に京子もつられて笑みを浮かべる。
「ううん、ちゃんと返事を返してくれただけでも嬉しい」
京子は本当に嬉しそうに笑う。
「おい、京子にはワリィが、もう搭乗時間だツナ」
「リボーン、分かったよ」
この数年で成長したリボーンがいつの間にか綱吉の傍に来て、釘をさす。
それをきっかけに綱吉と京子の視線は外れる。
搭乗入口に彼らしか居ない事に果たして京子と花は気付いているのだろうか。
ただひたすら綱吉を見続ける京子に、綱吉は彼女に精一杯の誠意を見せたいと思う。
ちらりと傍らの家庭教師に視線を送ると、好きにしろとにべもなく撥ね付けられる。
それに苦笑しながら皆に視線を這わせていくと、皆呆れたような、苦笑したような瞳で好きにしろと答えてくれた。
「京子ちゃん」
「なに、ツナ君?」
「黒川にも、…本当は何も言わないつもりだったんだけど。やっぱり知っておいて欲しいんだ」
「ツナ君…?」
「沢田…?」
改まった口調の綱吉に戸惑う2人に、ふわりと微笑し。
そうして綱吉は今まで見せた事のないような厳しい表情を作る。
「隼人」
「恭弥」
「骸」
「了平」
「ハル」
厳しい声で呼び捨てると呼ばれた誰もが綱吉に忠誠を誓うように膝を折る。
それを何事かと2人は目を見張り、ここに至ってようやく自分達の周りに誰もいないと言う異常事態に気が付く。
「彼らは…ハルを除くと全員俺の守護者なんだ。…武とランボは後で集合するけどね」
空港に静かな綱吉の声が響く。
「守護者…?」
聞きなれぬ言葉に、恐る恐る問い掛ける京子を綱吉は一瞬表情を崩して問いに答える。
「そう。俺の…イタリア最大のマフィア、ボンゴレ10代目のね」
《そこ》にいるのは京子が、花が知っている『沢田綱吉』ではなかった。
まるで別人のようなその気迫に2人は立ち尽くし、何も言えなくなる。
そんな2人に苦笑を零し、パチンっと指で音を鳴らすと最敬礼を行っていた彼らが姿勢を解いた。
「マフィア…?皆、お兄ちゃんやツナ君…ハルちゃんも?」
何か御伽噺を聞いているような面持ちで聞き返してしまう。
「そうだよ。皆…ここにいるのはボンゴレのボスと幹部達だ」
居並ぶのは知っている人が殆どで・・・、了平に至っては実の兄だと言うのに、どこか別世界の人間に聞こえる。
「…恐い?」
「突然過ぎて…分からない」
偽を許さぬ声で聞くと、心底戸惑ったような京子の思考が纏まっていないような返答が返ってくる。
それに少なくとも嫌悪が含まれていない事に綱吉は安堵する。
「俺にはそれだけで十分だよ」
そう言うと今度こそ本当にお別れだ、と告げる。
「ツナ君」
「京子ちゃん、…幸せになってね」
ゲートに吸い込まれて行く彼を必死に記憶に留めながら叫ぶ。
「ツナ君っ!ツナ君も絶対に幸せになってね!?…約束だからねっ!!」
最後まで彼に京子の叫びが聞こえたのか分からなかったが最後に綺麗な微笑を残してその日、沢田綱吉は京子の前から永遠に姿を消したのだった。
そして、数か月後友人のハルが渡伊し、更にはメジャーに行った筈のクラスメイトがそれを追いかけるようにいなくなり。
ブドウが好きだった子供までいなくなったのだと聞かされる頃には既に京子も花も大人になっていた。
あれからも2人の仲は変わらず、今では同じ大学に通っていた。
よく仲が良いね、と言われるのだがそれはきっとお互い内緒の秘密を共有しているからかもしれない、と思う。
懐かしい彼ら。
思い出せるのは互いの前だけだから。
町中の雑踏をいつの間にか穿き慣れたピンヒールで友人と歩く。
他愛ない話をして変わらない日常を過ごす。
友人と笑いながら、ふと京子は雑踏の中に淡い茶色の髪を流した青年を見つけたような気がした。
今まで友人と話していた事も忘れ、思い切り振り返ってしまう。
「…京子?」
友人の声も聞かず辺りを探すがやはり誰も見つからない。
「京子?」
再度問い掛けられる訝しげな声に、京子はかろうじて答える。
「ううん、なんでもないの」
心配しないで、と告げながらふと京子は彼は幸せになって、との自分が一方的に交した約束を果たしに来てくれたのではないかと自惚れてしまう。
だって自分が彼を間違うはずは無いのだから…。
雑踏の中で京子は思わず頭上の大空を見上げた。
(ツナ君、…幸せですか?)
問い掛けは、蒼い大空に溶けて消えた。
何時までも天空に、彼の人を思い浮かべながら―――――。
コメント:一度やってみたかった京子ちゃんの手遅れ(笑)シーン。彼女は何度やってもイタリアまで行きません。行けません。
置いてかれてしまう子だなぁ・・・と思います。
対極がハルですね。ハルは何年も前からこつこつ準備していたに違いありません。(笑)
だって雲雀さんと骸さんが根負けしたぐらいですから!
因みに山本さんは一度メジャーに行って貰いました(笑)その後やっぱりツナの元に・・・て感じでしょうか?
皆を跪ずかせる綱吉が書きたかっ・・・(死)