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荘子:逍遥遊第一(14) 惠 子 謂 莊 子 曰 : 「 吾 有 大 樹 , 人 謂 之 樗 。 其 大 本 擁 腫 而 不 中 繩 墨 , 其 小 枝 卷 曲 而 不 中 規 矩 。 立 之 塗 , 匠 者 不 顧 。 今 子 之 言 , 大 而 無 用 , 衆 所 同 去 也 。 」 莊 子 曰 : 「 子 獨 不 見 狸 牲 乎 ? 卑 身 而 伏 , 以 候 敖 者 ; 東 西 跳 梁 , 不 辟 高 下 ; 中 於 機 辟 , 死 於 罔 罟 。 今 夫 ? 牛 , 其 大 若 垂 天 之 雲 。 此 能 為 大 矣 , 而 不 能 執 鼠 。 今 子 有 大 樹 , 患 其 無 用 , 何 不 樹 之 於 無 何 有 之 , 廣 莫 之 野 , 彷 徨 乎 無 為 其 側 , 逍 遙 乎 寢 臥 其 下 。 不 夭 斤 斧 , 物 無 害 者 , 無 所 可 用 , 安 所 困 苦 哉 ! |
恵子、荘子に謂(い)いて曰わく、「吾に大樹あり、人これを樗(チョ・おうち)と謂う。其の大本(タイホン・みき)は擁腫(ヨウショウ)して縄墨(ジョウボク)に中(あ)たらず、その小枝は巻曲(ケンキョク)して規矩(キク)に中たらず。これを塗(みち)に立つるも、匠者(ショウシャ)顧みず。今、子の言は大にして無用、衆の同(とも)に去(す)つる所なり」と。
荘子曰わく、「子は独(ひと)り狸牲(リセイ)を見ざるか。身を卑(ひく)くして伏し、以て敖者(ゴウシャ)を候(うかが)い、東西に跳梁(チョウリョウ)して高下を避(さ)けざるに、機辟(キヘキ・わな)に中(あ)たりて、罔罟(モウコ・あみ)に死す。今、夫(か)の?牛(リギュウ)は、其の大なること垂天(スイテン)の雲の若(ごと)し。此れ能く大たるも、而(しか)も鼠(ねずみ)を執(とら)うること能(あた)わず。今、子に大樹ありてその無用を患(うれ)う。何ぞこれを無何有(ムカユウ)の郷(キョウ)、広漠(コウバク)の野(ヤ)に樹(う)え、彷徨乎(ホウコウコ)として其の側(そば)に無為(ムイ)にし、逍遥乎(ショウヨウコ)として其の下に寝臥(シンガ)せざるや。斤斧(キンフ)に夭(たちき)られず、物の害する者なし。用うべき所なきも、安(なん)ぞ困苦する所あらんや」と。
恵子が荘子にむかって話しかけた、「私のところに大木があって、人はこれを樗(おうち)とよんでいますが、その幹はふしくれだったこぶだらけで直線はひけず、その小枝は曲がりくねって、規(ぶんまわし=コンパス)や矩(さしがね)は使えない。だから道ばたに立てておいても大工はふりむきもしません。ところで、あなたの話も大きすぎて用いようがないから、人々みんなにそっぽを向かれるのですなあ」と。
荘子はいった、「あなたは、あの狸牲(いたち)を見たことがないのですか、世間の人間なら誰でも見ていることだから、あなただけが知らないはずはあるまいに。身を低めて隠れていて、ふらふらと出てくる小さな獲物(えもの)にねらいをつけ、あちこちと跳びはねて高い所へも低い所へもゆくけれども、結局はその器用さがわざわいして機辟(わな)に中(はま)り、罔罟(あみ)にかかって殺されます。ところであの?牛(からうし)は、その大きいことはまるで大空いっぱいに広がった雲のようで、とても大きいけれど、小さな鼠(ねずみ)をつかまえたりはしないのですよ。今あなたのところに大木があって、それを使いようがないとご心配のようですが、どうして、それを物一つない世界、人ひとりいない曠野の真中に立てて、その側(かたわ)らに一切の人間的なるものを超越して自由なる孤独を彷徨し、その下に満ち足りた安らかさをねそべって豊かな生の充溢を逍遥しないのですか。世間から無用のレッテルをはられ、大工からも見捨てられたこの樗(おうち)の大木は、自己の天然のよわいを全うして、「斤斧」すなわち、まさかりやおのに刈り倒されることもなく、すべての物から安全な自己を確保するでしょう。世間的に無価値とされるからといって、何も気に病むことはないではありませんか」と。
※樗(チョ・おうち)
(1)木の名。
にがき科の落葉高木。皮はあらく、材は柔らかくて白く、用途はない。葉に臭気がある。にわうるし。臭椿(シュウチン)ともいう。
▼昔、日本では、みつばうつぎ科のごんずいにこの字を当てた。
(2)役にたたないもの。無用の長物。「樗散(チョサン)」
※擁腫(ヨウショウ)
こぶが盛りあがっているようにはれあがる。
「其大本擁腫而不中縄墨=其の大本擁腫して縄墨に中たらず」
※縄墨(ジョウボク)
すみなわ。
※規矩(キク)
コンパスと、さしがね(かぎ型のじょうぎ)。
「其小枝巻曲而不中規矩=其の小枝は巻曲して規矩に中たらず」
※塗
■音
【ピンイン】[tu2]
【漢音】ト 【呉音】ズ(ヅ)、ド
【訓読み】ぬる, どろ, まみれる, みち
■解字
会意兼形声。塗は「水+土+音符余」。
余は、こてや、スコップでおしのけることを示す会意文字で、どろを伸ばしぬる道具を示す。上部はそれに水をそえて、どろどろの液体をこてで伸ばしてぬること。さらに土を加えて塗の字となった。
■意味
みち。もと、どろを平らに伸ばしたみち。のち、広く、みちのこと。《同義語》⇒途。
「塗不拾遺=塗に遺ちたるを拾はず」〔史記・孔子〕
※機辟(キヘキ)
{機臂(キヒ)}鳥獣を捕らえるわな。
「中於機辟、死於罔罟=機辟に中たりて、罔罟に死す」
※罔罟(モウコ)
=網罟。鳥獣や魚をとるあみ。
▼「罟」は、上からかぶせるしかけ。
「中於機辟、死於罔罟=機辟に中たりて、罔罟に死す」
※?牛(リギュウ)
(犂牛)黄と黒とのまじった、うすぎたない耕牛。まだら牛。
「犂牛之子、?且角、雖欲勿用、山川其舎諸=犂牛の子も、?く且つ角あらば、用ゐる勿からんと欲すと雖も、山川其れこれを舎てんや」〔論語・雍也〕
※彷徨(ホウコウ)
=??・方皇・?徨・旁皇。さまよい歩く。
「彷徨乎無為其側、逍遥乎寝臥其下=彷徨乎として其の側に無為にして、逍遥乎として其の下に寝臥す」
※逍遥(ショウヨウ)
(1)そろそろと歩きまわる。ぶらつく。
(2)俗事を離れて気ままな生活を楽しむこと。
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