岩手の頑固親父

恵まれた自然、環境に暮す 老農のつぶやき、ぼやき

「庭はらい」

2023-11-06 15:55:38 | いなか暮し

 宮沢賢治記念館のお山 胡四王山の中腹、御神坂の東屋の近くの大銀杏は郷のどこからも望める(遠く、写真中央部)
 10月終わりころから派手な黄色が目立ち始める「里に紅葉が届いたよ・・・秋じまい仕事を急がないと間もなく雪も降るよ」、里の住民をせかせてくれる。

 家族総出で手刈りした稲束をハセ掛けにして、良く乾いた稲を作業小屋に運び込んで脱穀して籾すりをする。近所の頑丈な人に手伝って貰って60㌔もの重い米の入った俵を締めて積み上げる。翌日には荷馬車で農協の倉庫に運び検査を受けて合格、出荷を済ませる。
 翌日からは野菜の収穫、畑の大根、ニンジン、ゴボウ、白菜等々冬の間十分間に合うよう蓄える。その頃には薄氷もはって朝晩は次第に厳しい寒さになり時折雪も混じる。
 農作業が一段落したころ、折よく、「勤労感謝の日」も近い、 「よし今日は庭払いをしよう」お父さんの一声に子供たちは大喜び、夕方が待ち遠しい。
 女性陣も大忙し、おばあさんは暗い座敷に仕込んだどぶろくの味を確かめている、お母さんは餅の準備「あずき餅」「ごま餅」「くるみ餅」「おつゆ餅」・・・待ちかねた夕方、茅葺の家の土間での餅つきは一家総出でにぎやかに。
 やがて準備ができて、氏神様、山の神様・・仏さまにも餅を備えて家族みんなで今年の実りに感謝する。
 席に着いた頃、お父さんがおもむろに分厚い封筒に入った「切米」(きりまいーお金)を一人一人、家族みんなに渡す。
 切米とは昔、殿さまから家来に渡された年一回の給料の事だったといわれている。
 中身はその年の出来によって不作の年はスカスカ、豊作であれば中身も分厚くなる、良く手伝った子供たちにも配られてさっそく中身を確かめる。
 ばあさんの仕込んだ、どぶろくに酸っぱいとか辛いとか、子供たちは口の辺りに、あんこやゴマをつけて大笑い、にぎやかに楽しい「庭払い」の夜を過ごす。
 翌日お父さんお母さんと子供たちは「切米」で分厚く暖かになった懐で街に久しぶりの買い物、寒い冬に備えてセーターや時にはスキーやスケートも買ってもらう。
 楽しい一日だったけど子供たちの少し寂しい顔は 2、3日もしたらお父さんが酒屋に出稼ぎに出発する。来年の春までの帰ってこない。
 そんな風景は昭和30年ころまでだったろうか、「切米」の習慣もできない貧しい農家が多かった。
 もっとも貧しいのは農家に限った事ではなく日本中が貧しかったころでもある。

コメント
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