8月7日は朝、涼しい内にお盆に備えてお墓の掃除を済ませてから「井戸かき」(井戸の掃除、手入れ)に出かけるのがこの地方では昔から恒例となっている。集落には4ヶ所の井戸がある。
私の加入する井戸は宮沢賢治の作品の舞台になっただろうと言われる端正な形の小高い山の麓にある。標高差100㍍ほどの小さな山のどこからこんなに湧くのか驚くほどの水量である。25戸の水をまかなったほかに春には大量の水を必要とする稲の潅水にも利用されて不足することがない。「井戸かき」は井戸の水をすっかり汲み上げて空っぽにしてたまった砂や泥を取り除き、きれいにするのが目的だが、この井戸は2インチのエンジンポンプをフル回転しても汲みきれないほど湧くのでこの井戸に限って底まで掃除したことがない。汲み上げた水を1969年と記録されているから凡そ40年ほど前に作られた大きな水槽にいったん貯めてから落差を利用して各家庭に引かれる。山の上には民家はもちろん人もほとんど入らない。石が多い地層のために美しく澄んだ水は冷たくてその美味しさは格別である。集落から他所に嫁いだ人が実家に戻るたびに水を運んでお茶、コーヒーに利用しているとも聞いた。
今年も8月7日、平日だったが会社を休んで「井戸かき」に参加した人もある。もちろん欠席者もゼロ。水槽の掃除や手入れ、周囲の草むしり。さっぱりしたところで組合長と一緒にこの先も水がこんこんと不足することなく湧くことを祈念する。※写真
もっとも、どこの家でも庭先まで市水道が来ている。市の水道課から時折使用を促す、はがきが届くがいまだに市水道を使っている人は少ない。何しろ私たちのこの美味しくて冷たい澄んだ井戸水、使い放題使って1ヶ月500円だけ。