中小建築設計業は
“うまい、やすい、はやい”で勝負
講 師 株式会社スパイラル取締役所長
一級建築士 宮後繁樹さん
2017年7月21日にティグレ会議室で、「中小建築設計業は“うまい、やすい、はやい”で勝負する」と題して、株式会社スパイラル取締役所長・一級建築士の宮後繁樹さんに講演していただきました。以下に報告します。
時代とともに「うまい、やすい、はやい」は変わる
株式会社スパイラルの宮後です。一級建築事務所を経営しています。
今日のテーマは「中小建築設計業は“うまい、やすい、はやい”で勝負」するということです。中小建築設計業という職種は一般的にはないのですが、私の所が中小建築設計事務所ですからこのようなテーマにしています。
「うまい、やすい、はやい」といういのは、すべての業界・すべての職種にあてはめることができると思います。各業界・業種で「うまい、やすい、はやい」を取り入れることができれば、新しいシステムをつくりだすことができると思います。
弊社で4年前から、「うまい、やすい、はやい」を取り入れてつくりあげた営業戦略があります。新しい営業戦略で大きな「成果=売上」を上げていますので、ヒントを皆さまに包み隠すことなくオープンにしますので、皆さまのお役にたてれば幸いです。
「うまい、やすい、はやい」のキャッチフレーズを知っている方は、手をあげていただけますか? 50代以上の方はみなさんご存知ですね。若い方はご存知ないかもしれませんが、ほとんどの方が知っておられます。
「うまい、やすい、はやい」は、吉野家のキャッチフレーズですね。吉野家の「うまい、やすい、はやい」をひもといてみたいと思います。
吉野家は、創業100年で東京築地が始まりです。このときのキャッチフレーズは「うまい、やすい」でした。卸売市場ですから早いのは当りまえです。大阪中央卸売市場にゑんどう寿司がありまして、つかみ寿司が有名です。1回しゃりをつかんでネタをのせて寿司として出てきます。忙しいけれど寿司を食べたいというニーズに応えています。卸売市場では早いのは当たり前です。
1970年代、私が8歳ぐらいのときです。「早い、うまい、安い」に変わりました。「早い」が出てきました。「うまい」ことより「早い」ことが求められた時代です。
1980年から1990年代になりますいと「うまい、早い、安い」に変化しました。「うまい」が初めて前に来ました。安いものを売る時代ではなくなってきたということです。皆さんが裕福になって来て、うまいものを食べたいよなということになってきました。そして、「早い」「安い」になりました。
2000年代にまた、変化します。同業のすきや、松屋、なかうが出てきますので、「うまい、やすい、はやい」に変わりました。吉野家だけの時代ではなくなってきました。「うまい」が最初で、「安い」になります。価格競争をあらわしています。そして「早い」の3つになりました。
吉野家の中でも、順番が変わっていきます。もう吉野家は「うまい、やすい、はやい」というキャッチフレーズを使っていないのではないかといわれるかもしれませんが、吉野家ホールディングスのホームページに「大切にする価値観」ということで現在も使われています。
自己紹介
自己紹介をしたいと思います。昭和37年、大阪の天王寺で生まれました。夕陽丘にある愛染橋病院で生まれました。大阪の南の方の生まれですから、ガチャガチャとした性格です。
昭和59年に大学は、英文科に入りました。家庭教師についてくれた英語の女性の先生にあこがれて、英語を勉強するようになったのです。将来、英語の先生になりたいと思い、英文科にはいりました。
父親は設計事務をしていまして、私で三代目になりますので、継ぐことになるかもしれません。兄弟は、姉と私の2人ですから、継ぐとしたら私になります。
親父に、「会社を継がなくていいか?」と聞きました。父親に、「お前は何がしたいのか?」と聞かれましたので、学校の先生になりたいと伝えました。「好きにしたらええ」ということで大学に入学しました。いまはなくなりましたが、英知大学に進学しました。
大学4年のときに、親父に呼ばれまして「建築家にならないか」といわれました。「4年前に建築科にはならないと先に話をしていた」と、反論しましたが、1ヵ月悩んで建築家になる道を選びました。
その当時、建築設計事務所というのは、羽振りが良くて華麗な仕事でした。親父が手掛けた作品としては、道頓堀にあるお好み焼きの千房ビルや、むかし、中座がありましたが、その横にキツネうどんの今井なども作品です。もっと昔になりますと、「嘘でも嬉しいよ」という宣伝をしていました鳥取の「レイクホテル東郷」は全部親父の設計です。
バブルの手前でしたが、羽振りが良くて毎晩ベルサーチのネクタイを締めてミナミの夜に繰り出していました。東大や京大を出ても成功のできない時代に、三代目ですから事業ができるわけですから、建築家の道を選びました。
英語が勉強したかったので、親父にアメリカの大学に留学することを条件に出しました。留学するからには、必ず卒業することを約束して3年間アメリカで勉強しました。1年間は英語を学び、2年間はサンタモニカ市立大学で勉強しました。最後は、フランク・ロイド・ライトのシカゴにある有名な建築物を見て帰国しました。
アメリカの大学を出ているからといって、日本の大学を出たのと同等に扱ってくれません。日本の建築学科を出ると、実務経験2年で1級建築士の受験資格が取れます。22歳で大学を卒業したとして、24歳で受験できます。しかし、全く経験がなければ、2級受験資格を取るのに7年の実務経験がいります。2級を取って5年の実務経験があって1級の受験資格が生れます。最短で12年かかることになるのです。
これではあかんということで、私立の大阪工業技術専門学校に2年間通い5年間の実務経験を積んで、一発で1級建築士に合格しました。そのときすでに30歳を超えていました。アメリカの大学は勉強しないと卒業できませんから、それの経験が生きて1級建築士になれたと思います。
2年間、親父の事務所にいましたが、居心地がよすぎるので、自分で履歴書を書きまして転職をしました。転職した先は某大手の設計事務所です。国立競技場、羽田空港、ディズニーランドなどを設計しているところです。
最初の仕事は、神戸の方でディズニーランドのような施設をつくるので、英語ができるのでということで振り向けられました。辞書を持って仕事をすると思っていましたら、再開発に担当替えされまして、2年間、マンションの設計ばかりを設計をしていました。今でも残っていますが、見ると恥ずかしい気がします。某大手設計事務所を退職しまして、宮後設計からスパイラルになり現在に至っています。
建築業界は良いときと悪いときの循環があります。第一回目の良いときは、バブルの時です。マンションがどんどんたちました。よく儲かりましたので、外車を買い乗り回していました。景気が悪くなると車を売るという経験をしています。
2回目は、ファンドバブルと呼んでいますが、デベロッパーさんがワンルームマンションなどをどんどん販売していました。その後にリーマンショックが起こりました。
3回目は、今起こっています。インバウンドバブルです。以前は民泊ということで盛り上がっていましたが、旅館業の簡易宿泊所を取り新しい事業を始めようということです。マンションは1室で6万円ぐらいの収入ですが、インバウンドになると1室15万円ぐらいの収入になります。建築費は上がっていまして、1坪90万円ぐらいします。建築費は、以前の倍近くになっていますが、利益の採算はとれるし、銀行が融資してくれるのでバブル化しています。
家を建てたい方向けのセミナーを開催しますと、土地を持っておられる方は、3分の1です。あとの方は、土地を持っておられません。ですから、姉が不動産業をしています。私が設計をしていますので、工事を請け負うことにしました。できることは何でもするということです。
「うまい、やすい、はやい」はすべての業界に当てはまる
「うまい、やすい、はやい」の言葉の中には、すべての業界に当てはまる要素が含まれていると思います。「うまい、やすい、はやい」で商売をしまして、年間2億円ぐらいの売り上げを上げています。3年前は7棟、2年前は9棟、去年は6棟つくりました。1棟3千万円ぐらいですから、だいたいの予想を付けていただけると思います。
そこで質問いたします。
あなたの商売は何ですか? 参加者の中で、商品を販売しているという方はおられますか? おられませんね。
わたくしのところは、技術を売っています。税理士さんであれば、知識ノウハウを売っていますよね。第1次、第2次産業の方は海外に出て行かれて、商品製造販売している事業者の方は現在3分の1を切っているといわれています。私が主催している異業種交流会では、商品を売っている方はほとんどいません。技術、ノウハウ、仕組みを売っておられます。
2つ目の質問です。
それは人に分かりやすいですか? 税理士さんの場合であれば、月に1回訪問します。節税もします。売り上げを上げるお手伝いもします。でもこれは当たり前です。これをいくら話しても、お客さんは、「ああそうですか」ということになります。それでは説明していない部分は何か? いくら? 期間? です。「うまい、やすい、はやい」に当てはめると「うまい」になりますが、話がややこしいので「やすい」から説明します。
安いというならば、「同業の税理士さんと比較していますか?高くてもいいのですが、そのことを説明できますか?安かろう悪かろうになっていませんか?」ということです。これが安いということのバロメーターです。
次に早いです。何日で出来上がりますか?
私のところは、住宅を設計しますので、プランをつくります。デベロッパーの方は、買う土地が建築的にどんな土地か分からないのです。容積率通り建てられるのか?道路の占める何割あるのか?各市の条例がどうなっているのか?それを加味した情報が欲しいのです。
普通の設計事務所は、最低で3日、キャドで書くと1週間かかります。不動産業者の方は、そんな図面はいらないのです。フリーハンドで書いてもいいのでボリュームを素早く知りたいのです。私のところは1日で仕上げます。しかし、時間がかかるならかかってもいいのです。時間がかかる理由をきちっと説明できればよいのです。
3番目は、うまいです。うまいのは当たり前です。ライバルとの違いを出す、差別化するともいいますが、特徴を出すことです。特徴を出すためには、ライバルとの比較が大事になります。人口が減少してきて、仕事が減り、会社が少なくなってきています。そのときに必要なことは、ライバルと比較し、戦略を練り、自分達だけのものを創り出すことではないでしょうか。つまり商品化です。
商品化とは、明確に表現できること、人に言えること、聞いた人が自分の知り合いに伝えてくれることです。私の設計事務所と他の設計事務所との違いは、商品化ができていることです。
商品化とはA4サイズのチラシ
商品化とは、なんとなくボアーとしているあなたの業務を明確にプレゼンできることです。そのために必要なモノは営業ツールです。
技術や仕組みは形がありません。形のないものを商品化するということは、営業ツールをつくるということです。営業ツールとはA4サイズのチラシをつくるということになります。A4サイズのチラシをつくることが目的ではありません。みなさんが持っているものを全部入れることです。そして、「はやい、やすい、うまい」を織り込むことなのです。自分のところは他社と比較してうまいのか、はやいのか、やすいのかの特徴を出さなければなりません。
私の事務所の「注文パック40」というチラシを配ります。「注文パック40」とは、私の設計会社の商品で、注文建築でパッケージにして坪40万円で建てるという商品です。実際は設計料10%がのりますので44万円になります。
4年前まで知らなかったのですが、住宅メーカー向けのビルダー仕様をメーカーは持っています。建売の台所のサイズは、とても使いやすくて2m55㎝のものがあります。トイレとキッチンは、安価で仕入れることができます。ですから、様々の要素を組み合わせていけば、住宅を安く提供することができます。
3年間この話をし続けています。3年前に1回だけしかこの話をしていないのに、「宮後さん、まだあれやっている」と電話がかかってきてきます。「ほんなら、紹介するわ」ということで契約できます。
「うまい、やすい、はやい」を自分なりに照らし合わせていくとこうなりました。
WIN-WINの関係を築くこと
「BUSINESS SPIRAL INTERNATIONAL」という交流会を主催しています。この会は、A4のチラシをつくるということを目的にしています。同時に、プレゼンテーション能力を高めて、WIN-WINを目指すという戦略を立てています。
会を始めて1年ですが、会員数50名になりました。入会していただくと3回のセミナーを受けてもらいます。1回目は中小企業診断士の高木先生のセミナーを聴いてもらいます。経営とは何か? 営業とは何か? 利益を上げる方法などを教えてもらいます。
2回目は、私がさせていただきます。お配りしたチラシづくりのためのQ&Aを使ってお話しします。チラシをつくることが目的ではないのです。皆さんの中で、今から申し上げることが整理されているかどうかが問題なのです。
1、会社や店舗名
2、仕事のジャンル
3、電話番号・メール
4、会社への生き方
5、営業時間
6、お休み
7、サービスの地域
8、ロゴマーク・キャッチフレーズ
9、ホームページ
10、ブログ・SNSの活用
11、コーポレートカラー、チラシの基調となる色
12、商品名、サービス名
13、参考にしたいチラシ、HP等の媒体
14、ライバル
15、ターゲット
16、会社、商品を検索するときのキーワード
17、店舗・サービスのキャッチコピー
18、商品のイメージや写真
19、会社・商品・店舗の特徴
20、顧客の悩みと欲求
21、サービスへのこだわり(うまい、はやい、やすい)
22、あなたの商品が選ばれる理由
23、お客様の声
24、自分の欠点
25、サービスの流れ
26、どんな思いでいまの会社・商品を始めたのか?
27、価格
28、よくある質問
29、どんな方に最適か?
30、サービスを受けたら、商品を買ったらどうなるのか? (お客様のゴール)
31、貴方はどうなりたいのか? (パーソナルゴール)
32、貴方のこだわり
33、貴方の生い立ち
34、顧客の年齢
35、チラシのタイトルなどです。
以上のことを網羅してチラシを作ります。ロゴがない場合は作ります。コーポレートカラーがないときは新しく決めていきます。自己分析をして、ないものがあれば作ってチラシを作成します。チラシをつくるのは当たり前ということです。
さらに、チラシの中身を伝えていかなければなりません。2つ目は、プレゼンテーションの確立です。テーブルミーティングで1テーブルに6名の方がおられます。1回目は自己紹介をしてもらいます。2回目には、自分の商品紹介していただきます。3回目には、質問タイムです。質問されて、即答できなければその部分を考えて頂くということにしています。
3つ目は、WIN・WINを目指す戦略です。1つのテーブルには、5人の方がおられます。5人の後ろには、何十人、何百人もの友人がおられます。その友人に認知してもらえることにもなります。自分の前の方が、自分の営業マンになるわけです。みなさんの営業マンに何かできないかと考えるのは当たり前です。何もしなくてもいいのですが、ないよりもある方がいのではないでしょうか? 私の事務所では、紹介して下さった方に1軒につき50万円のお礼をしています。それをWIN・WINと呼んでいます。大事なことはWIN、WINの関係をつくることだと思います。
「脱 どんぶり勘定」―税理士さんが作ったチラシ
税理士の先生がつくったチラシを紹介させていただきます。もちろん、このチラシは税理士の先生と私たちが話し合ってつくりあげたモノです。税理士さんにもいろんな方がおられます。どんな税理士さんなのか?得意分野はどこなのか?どんなことがしたいのか?をお伺いしました。
飲食店の店舗系で独立しているけれど、夫婦とアルバイトで経営をしている方で、経理がどんぶり勘定になっている人を支援したいということでした。ですから、チラシのタイトルは「脱 どんぶり勘定」、さし絵は「どんぶりとサイコロ」です。ぱっと見ただけで、「どんぶり勘定の経理をしていると、いつまでも経営がよくならないですよ」と訴えかけるものです。
私のところもそうですが、「マンションも設計します。ホテルも設計しますし、店舗も手掛けます。何でもできますよ」では、紹介のしようがありません。今年がこれで行くぞというのを決めてもらって、チラシをつくりあげることです。
この税理士さんの場合は、店舗経営者に向けてチラシを打ちたいということです。店舗経営をしている人を紹介して、うどん屋をしている人、うどん屋をしようとしている人を紹介してということになります。
さらに、「飲食店に特化した税務業務」と書いてあります。これで分かると思います。「毎年、毎年出たとこ勝負しているあなた」「税理士を雇うほどでもないあなた」と書いてありますので、ターゲットが絞り込まれています。
無料診断のクーポンが付いています。税理士さんは決算書が見たいのです。見せてといっても見せてくれませんので、無料で診断するという特典を付けています。決算書を見たら、悪いとは言いません。「もっと良くする方法がありますよ」と声をかけるのです。さらに、うどんやラーメンの割引クーポンが付いています。税理士さんは、顧客になってもらっている飲食店さんに、「このクーポンを持ってきたら5%~10%値引きして」と声をかけています。紹介した人はこのクーポンでWINですし、お店の人はお客が増えてWINです。私は、この仕組みがシステムだと思います。
このクーポンは第1次的なクーポンです。顧客1軒を紹介してくれた方に、12ヵ月の1ヵ月分をステーキの招待券として差し上げる。税務業務で1軒50万円というわけにはいきませんので、これくらいではないかと思います。ステーキであれば、ステーキ屋さんにたのんでパッケージのコースをペアーでつくってもらいます。招待券をもらった人もWIN、ステーキ屋さんもWINになります。自分たちのできることを少し工夫することで特徴を出すことができます。
ハードルの低い価格設定―お客さんファースト
次に価格です。税理士さんは本当は1ヵ月5万円、10万円もらいたいところですが、お客さんファーストなので安価な金額にします。「もし、経理とアドバイスによって売り上げが上がったときには、5万円にしてね」といっておきます。大事なことは、はじめはハードルを低くして金額を決めることです。テーブルについている方に、どんなに大きな会社でも最初の1年は2万円にしますとアピールするようにします。
ここで吉野家に学ぶということが出てきます。「やすい、はやい、うまい」の3つにミッションを付け加えることです。売り上げを上げるコンサルティングを、業務以外の社会奉仕としてミッション化することにします。
以上のことをまとめますと、チラシをつくる、クーポンを付ける、招待券をつくることになります。次のステップとして、てんぷら屋さん、ステーキ屋さんなどの店舗ブックを作るということです。
大事なことはA4サイズでつくることです。皆さんが作って来られたときに、税理士の先生が「A4サイズのチラシを作りませんか」ということを提案します。税理士の先生はチラシをつくる、クーポンを付ける、招待券作りを、連鎖させることができるのです。税理士の先生がこんなことまで考えてくれているということになり、営業のツールにもなります。
最後に、異業種交流会のゲストとして招待することです。異業種交流で学ぶこともできますし、商売を広げることもできます。税理士の先生は、こんな事までしてくれるという信頼から、同業者を紹介してくれることになるかもしれません。
最後の最後は、紹介で仕事をいただくのが一番いいのです。紹介してもらったら、1ヵ月分の顧問料を無料にするとかのお返しをすれば、ここでもWIN、WINが起こります。あるいは、てんぷら屋さんでてんぷらを食べてきて下さいと招待券をわたすのもいいですね。
WIN、WINを目指す戦略というのは、できるだけ多くの機会をとらえてWIN、WINを創り出すことです。近江商人的な形をつくっていければいいと思います。
吉野家は「うまい、はやい、やすい」のキャッチフレーズを今でも守り続けています。吉野家のホームページからその部分を抜粋して読み上げて、終わりたいと思います。
「うまい、はやい、やすい」の3つの要素を思考することに変わりはありませんが、優先順位、その割合・内容は、市場に応じて変化してきました。これからも変化させ続けることに変わりはありません。しかし、うまいが最優先であることは変わりません。うまいは、競争力の生命力だからです。価格の競争であれば、資本力と規模が武器になります。資本力と武器を持ってしても真似することのできないものは、味です。競争力に決め手となる商品の品質は、今後もグレードアップし続けます。
ご清聴ありがとうございました。
コーディネーター高木さん
質問して下さいと言っても、すぐには出ませんので、少し感想を述べさせてもらいます。
中小企業は、差別化せよといわれますが、差別化して特徴を出すとすぐに誰かにまねされてしまいます。差別化の反対の言葉をご存じだと思います。差別化と対になっている言葉は、同質化です。
たとえば、セブンイレブンのレジの横にあるアイスコーヒーは、セブンイレブンが最初に売り始めました。すぐにほかのコンビニもマネをしてレジの横にコーヒーを設置しました。中小企業こそ同質化するということではないかと思います。
宮後さんのところで大手と同じ2千万円の家を建てるとしたら、1千6百万円できます。大手に比べて4百万円安いのです。同じ工務店を使うけれど、材料を安く仕入れて家を建てるからです。また、工務店さんも宮後さんのところで家を建てる方が儲かります。その理由は、宣伝費をかけていないからです。宮後さんのところは、大手よりも安くなり、工務店さんが大手のところと同じ工務店を使うということを顧客に説明しています。大手の仕事と同質の仕事をすると説明しながら、価格面で差別化されています。
宮後さんの話を聞きながら、中小企業は大手と同質化しながら差別化することができるということを学びました。宮後さんは差別化・同質化という言葉を使わずに商売されていることがすごいところだと思います。
私もクライアントを紹介されて会社のお伺いします。すると社長さんは、「F社を入れてコンサルしていたんだ」と、お話されます。それを聞いて私は、「そうですね。6百万円もかかったんですか。F社は固定費が高いからですね」と、話を合わせながら固定費が高いということを指摘していきます。そうすると、固定費がF社は高いのだということとに気付いてもらいます。いちいち「社長、F社は固定費が高い」とはいいません。
このトークは、宮後さんのビジネスのパクリです。パクルことに躊躇はいらないのです。なぜなら、お客さんに安くていいモノを使って欲しいという信念があるから、パクリでものOKなのです。それでは質問をどうぞ。
質問 私は、行政書士をしています。顧客は人脈を通じて入ってきます。外国人は、日本人を信用していません。日本人は逆に外国人を信用していません。ビザに関する仕事を顧客の満足のいくようにしてあげれば、そこから顧客が増えています。人脈の利用はどのようにされていますか?
回答 ワンルームマンションや事業用の場合には、得意先というのはあるのですが、住宅の場合は、すべてが新規です。たまに、家を立てられた方からの紹介というのはありますが、少ないです。家を建てられる場合に、なにがしかの建築屋さんとのつながりがあります。ですから、人脈づくりのほとんどが、異業種交流会でお話しするということになります。強いパイプになり切れないというのが歯がゆいところです。
質問 「やすい、はやい、うまい」で商売をされていますが、もっと「やすい、はやい、うまい」がでてきたらどうされますか? 外国人が入って来て価格競争になればもっと安い値段を出してくると思います。実際に私の業界では、質がよくても値段の安い方を選ぶという傾向になってきています。
回答 秀光ビルドという会社があります。「めちゃくちゃ安い」と宣伝されていますが、そんなに安くありません。お客さんの方からも、もう少し安くならないかというお話も聞きます。85%の確率で契約できるというお話をしました。価格面も安いのですが、図面ができあがっている場合もあります。そんなときに、3日間だけ時間をもらい日当たりのいい家、風通しのいい作り、家族の団欒(だんらん)ができる間取りなどを意識して図面を書き直します。奥さんにそれを見せて、「まあ、素敵」といってもらえたらほぼ100%契約が決まります。安いだけではなくて、そこに何かをプラスすることで喜んでもらっています。
また、これからは設計士も国内だけで生きていける時代ではないと思います。私は現在52歳ですが、あと何年やれるかということを考える年代に入りました。若い設計士さんは、海外に目を向けてフィリピンやベトナムなどの海外に目を向けるべきだと思います。ユニクロや吉野家さんは、価格は低いが品質を上げて勝ちぬいています。ですから生き残れる方法もあるのではないかと思います。
質問 住宅建設には、波があるようにお聞きしました。仕事としてその他にストック的なビジネスはされているのでしょうか?
回答 父親の教訓として「設計事務所は、建築業界のトップたれ」というのがあります。設計事務所には4つのタイプがあります。元請けの設計事務所、デベロッパーの設計をするところ、工務店の下請け設計事務所、最後に申請屋というのがあります。申請屋というのは、1軒40万円ぐらいで申請だけに特化している設計事務所のことです。
基本的に下請けはしたくないので、下請けはしません。お客さんの代理人として工務店を選ぶ立場で仕事をしています。
質問 古い人からの紹介と一生に1回のことなので、リピートが少ないないというお話でした。お客さんとのやり取りで記憶に残ることをお聞かせ下さい。
回答 私は52歳なので私の年代の人は家を建てません。子どもの年代の人が家を建てるのには少し早い。家を建てた方の御親戚や娘さん息子さんから注文が来るときはうれしいですね。私の課題は、リピート率を上げることです。しかし、現実的には、この業界で行われていることは、セミナーを開いて家を建てたい方を囲い込んでいくやり方です。新しい顧客を追い求めているところがあるかもしれません。
質問 自分の経営を整理されて教えるまでになっておられます。お父さんの会社を引き継いで、うまくいったこともあるでしょうし、失敗したこともあると思います。経営革新の成り立ちに興味がわきました。
回答 実は私は親父の会社に2年しかおりませんでした。完成予想図の世界ではトップクラスの伯父で宮後 浩がいます。そこの事務所から独立しています。親父とケンカしていますので、親父の事務所を引き継いでいません。50歳ぐらいのときに、建築の話を聞かれたら、その場で回答できるようになりました。これからの若い企業家に伝授できないかと思うようになり、始めました。