沖縄密約訴訟/公文書は国民の共有財産/密約があったことを社会に知らしめ、西山さんも十分に復権できた

2011-09-30 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

沖縄密約開示訴訟:沖縄返還、密約文書「廃棄の可能性」 東京高裁、開示請求を却下
 元毎日新聞記者の西山太吉さん(80)ら25人が、72年の沖縄返還を巡る日米間の密約を示す文書の開示を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は29日、国に開示を命じた1審・東京地裁判決(昨年4月)を取り消し、原告側の請求を退けた。青柳馨裁判長は密約と文書の存在を認める一方、「不開示決定(08年10月)の時点で文書は無かった」と判断。同決定までに文書が廃棄された可能性があると指摘した。(3面にクローズアップ、25面に判決要旨、社会面に関連記事)
 西山さんらは08年9月、沖縄返還に絡み日米高官が▽米軍用地の原状回復費400万ドルと米短波放送の国外移設費1600万ドルの日本による肩代わり▽沖縄返還協定の日本側負担(3億2000万ドル)を超える財政負担--に合意(密約)したことを示す文書など7点を開示請求。外務・財務両省は翌10月、「文書不存在」を理由に不開示とした。
 高裁は、日米高官が密約の内容を記載した文書を69~71年に作成し、外務、財務両省が保有していたと認定。控訴審で国が新たに証拠として提出した外務省有識者委員会の報告書(昨年3月公表)が「広義の密約」を認めたことにも言及した。
 その上で有識者委の調査でも文書を発見できなかったとし、「その後に歴代の事務次官らから聴取するなど国の探索は網羅的で徹底しており調査の信用性は高い」と指摘。「日本政府は肩代わりを国民に秘匿する必要性があったと考えられ、外務、財務両省は文書を通常とは異なる場所で、限られた職員しか知らない方法で管理していた可能性が高い」とした。
 さらに「情報公開法の制定により、文書を公開してそれまでの説明が事実に反していたことが露呈するのを防ぐため、両省が同法施行前に、秘密裏に廃棄した可能性を否定できない」と述べた。
 こうしたことから「(文書作成から三十数年以上経過した)不開示決定の時点で、両省が文書を保有していたとは認められない」と結論づけた。
 文書存在の立証責任に関しては「原告側が過去のある時点で文書が作成されたことを証明した場合、国が廃棄を立証しない限りは文書保有が続いていると推認される」との1審判断を踏まえつつ、密約文書の特殊性から「保有は推認できない」とした。【和田武士】
 ◆東京高裁判決の骨子◆
・密約文書の開示と慰謝料支払いを命じた1審判決を取り消す
・国は過去に密約文書を保有していたと認められるが、現存しない。秘密裏に廃棄したか、保管外にした可能性を否定できない
・文書を発見できなかったとする10年の外務、財務両省の調査は信用できる
毎日新聞 2011年9月30日 東京朝刊
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沖縄密約訴訟:「大勝利だが大敗北」原告側、一定の評価も
 密約は確かに存在したが、その文書は今はない--。沖縄返還の際の日米密約を裏付ける文書の開示を求めた訴訟の控訴審で29日、東京高裁は情報公開法施行(01年4月)前に国側が廃棄した可能性を指摘した。原告側は「大勝利と同時に大敗北」と表現。「情報公開法の精神が踏みにじられた」と批判のボルテージを上げた。
 判決後、原告・弁護団は東京・霞が関の司法記者クラブで会見。原告の元毎日新聞記者、西山太吉さん(80)は「特定の職員が特定の方法で管理し、廃棄した可能性に踏み込んだ。1審よりもドーンと進んだ」と一定の評価をした。だが、次第に「判決は『捨てたんだから、ないものはない』と言い、廃棄について遺憾の『い』も言っていない」、「司法の独善、限界が露呈された。情報公開とはそんなものか」と机をたたきながら、語気を強めた。
 一方、上告について原告団は「検討する」と述べるにとどめた。
 原告団は1月、作家の澤地久枝さん(81)を代表に「市民による沖縄密約調査チーム」を結成し、開示された4500ページを超える外交文書を分析した。開示された文書は、沖縄返還交渉段階のものが多数を占め、財政負担が発生する最終的な合意段階の文書が欠けていた。このため原告側は廃棄の可能性も念頭に「不合理だ」と控訴審で主張した。
 澤地さんは会見で「これまで外務省は一枚岩となって密約文書の存在を一切認めてこなかった。裁判所はその外務省を救った。実に内容のない、お粗末な判決」と批判した。【野口由紀、伊藤一郎】
 ◇「裁判した価値はあった」北岡和義さん
 72年に国会を震撼(しんかん)させた沖縄密約事件の「現場」に居合わせた原告の一人は「乱暴な判決だ」と憤りを隠さなかった。日本大国際関係学部非常勤講師の北岡和義さん(69)=静岡県熱海市。当時、社会党の横路孝弘議員(現衆院議長)の公設第1秘書だった。
 72年3月27日の衆院予算委。横路議員は毎日新聞記者だった西山さんから入手した機密公電のコピーを手に密約疑惑を追及、北岡さんは傍聴席で質疑を見守った。報道陣のカメラのフラッシュが一斉に光った光景を今も忘れない。
 30年余りが過ぎた05年春。米国でニュース番組制作の仕事に携わっていた北岡さんは、知人から西山さんが国家賠償を求めて提訴したと聞いた。西山さんは事件後、長く沈黙を守っており、その行動に「正直驚いた」。議員の質問は「不発」に終わり、「道義的責任を感じた。西山さんの復権のため支援しよう」と帰国した。
 司法が初めて「密約」を認めた1審。原告側が訴訟で追求したのは「国民の知る権利の実現」であり、西山さんも会見で「画期的判決」と興奮気味に意義を強調した。だが、北岡さんは「記者人生を終わらせざるを得なかった西山さん個人の憤りや喜びをもっと聞きたい」とも感じた。
 逆転敗訴で迎えたこの日の会見で怒りをあらわにする西山さんを見ながら「個人的な悔しさがこみ上げてきたのだろう」と語る。だが、北岡さんはこうも思う。「訴訟を通じて密約があったことを社会に知らしめ、西山さんも十分に復権できた。その意味で裁判をやってきた価値は消えない」
【和田武士】
毎日新聞 2011年9月29日 21時53分(最終更新 9月30日 1時12分)
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「文書廃棄を奨励」西山さんら高裁批判
沖縄タイムス2011年9月30日 09時34分(1時間27分前に更新)
 【東京】「司法は死んだ」。沖縄返還をめぐる密約文書の開示請求訴訟の控訴審判決で逆転敗訴した元新聞記者の西山太吉さん(80)ら原告は29日、東京・霞が関の司法クラブで会見し「国家の秘密を国民の前に明らかにし、歴史の審判を受けるという情報公開法の精神を蹂躙した」などと相次いで批判した。「保存すべき文書を廃棄した国の責任を追及すべきだ」「外務省が探して見つからないから『ない』というだけの判決」と怒りの声を上げ、憲法判断を示すべきだとして上告を求める考えを示した。
 午後2時すぎ、青〓馨裁判長が「原判決を取り消す」と切り出し、主文だけを読み上げた。
 西山さんや作家の澤地久枝さん(81)ら原告は厳しい表情を崩さず、重苦しい空気が原告席を包んだ。日本弁護士会館の待合室に集まった原告団は、判決文に目を通し「秘密文書は捨てた方がいいと推奨しているような判決だ。開いた口がふさがらない」と怒り心頭。
 西山さんは「判決は、外務省が否定していた密約文書や廃棄を認めた。密約の全面肯定だ。その点では全面勝訴だ」と強調。一方で「廃棄されたなら、米国の外交文書を追認し、開示を命じるべきだ」と主張した。「永久保存すべき文書を廃棄したという違法行為があったのに、裁判所は遺憾の『遺』も言わずに追認した」と批判を強めた。
 公開された外交文書を独自に調査し、控訴審に提出した澤地さんは「沖縄返還時の遠い話ではない。戦前戦後を通し、日本の国家は秘密主義だ。永久に秘密が明らかにならなければ、このまま勝手なことが行われてしまう。若い人にも切実な問題」と主張した。
 原告共同代表の桂敬一さんは「判決は知る権利を抽象的な権利としている。情報公開は国家の債務的な行為である。憲法判断を示す必要がある」と述べ、上告を示唆した。※(注=〓は「柳」の異体字)
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社説:沖縄密約文書判決 廃棄疑惑に国は答えよ
 「文書はかつて政府が保有していたが、秘密裏に廃棄した可能性を否定できない」--。沖縄返還交渉をめぐる日米密約文書の開示訴訟で、東京高裁はこんな判断を示した。持っていないものは開示できない、との理屈で西山太吉元毎日新聞記者ら原告が求めた開示請求は却下したものの、実質的には国による隠蔽(いんぺい)工作が過去にあった可能性を示す判決である。外務省は廃棄の有無などについて改めて調査し、真実を国民の前に明らかにする責任がある。
 原告が開示を求めていたのは、沖縄返還にあたり米国が支払うべき旧軍用地の原状回復費400万ドルを日本側が肩代わりすることなどを示した文書である。昨年4月の1審判決は密約文書の存在を認め、政府の調査は不十分だと指摘。「国民の知る権利をないがしろにする国の対応は不誠実」として、文書の全面開示を命じた画期的なものだった。
 一方、今回の高裁判決は同じように密約文書の存在を認めながらも、政権交代後に外務省や財務省が行った探索や歴代幹部の事情聴取でも出てこなかった以上、もはや文書はないのだろう、と結論づけた。
 重要なのは、密約文書がないのは存在しなかったからではなく、いつかの時点で「秘密裏に廃棄、ないし保管から外した可能性を否定することができない」と判決が述べたことだ。そこまで言及しながら、不開示決定を適法だとしたのは政府に甘い判決と言わざるを得ないが、1審、2審と司法が相次いで密約文書の存在を認め、その廃棄の可能性にまで言及した事実は極めて重い。
 そもそも開示請求対象の文書の写しは米国立公文書館で公開されており、元外務省局長も文書に署名したことを認めている。密約文書はあったというのが国民の抱く常識的感覚だ。「保有していないという従来の政府の主張が認められた」(藤村修官房長官)と言ってすませようとする政府の姿勢は感覚を疑う。
 外交文書は30年経過で原則公開されるが、政府に不都合なものは恣意(しい)的に除外されることが多い。外交交渉には秘密がつきものとはいえ、一定の期間が過ぎたらすべてを公にすることは、国民が国家の重要な政策選択について正しい理解と建設的な批判をするため不可欠だ。公文書は役所のものではなく国民の共有財産である、という自覚が、日本の行政には著しく欠けてはいないだろうか。
 密約文書の問題に象徴される政府の不誠実な姿勢は、今日に至る沖縄の政府不信につながっている。普天間飛行場問題に解決の糸口が見えないまま、来年は沖縄の本土復帰から40周年の節目だ。野田政権の沖縄への姿勢が改めて問われよう。
毎日新聞 2011年9月30日 2時30分
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『検察を支配する「悪魔」』田原総一朗+田中森一(元特捜検事・弁護士)  
 p156~ 大衆迎合メディアが検察の暴走を許す---田原
 マスコミを踊らすなんて、検察にとっては朝飯前なんですよね。
 最近の事件で言えば、堀江貴文の事件。堀江は拘置所に入っているにもかかわらず、マスコミには堀江の情報が次々と出てきた。あれは検察がリークしたとしか考えられない。
 最近はとくに意図的なリークによって世論を煽り、有罪にできなくとも、世論に断罪させて社会的責任を取らせようとする傾向が強くなったように思う。
 情報操作によって世論を喚起した事件として思い出すのは、沖縄返還協定を巡って1972年に毎日新聞政治部記者、西山太吉と外務省の女性事務官が逮捕された外務省機密漏洩事件です。
 西山記者が逮捕されたとき、「言論の弾圧だ」「知る権利の侵害だ」という非難が国民の間で上がった。
 そこで、検察は起訴状に「西山は蓮見(女性事務官)とひそかに情を通じこれを利用し」という文言を盛り込み、批判をかわそうとした。この文言を入れたのは、のちに民主党の参議院議員になる佐藤道夫。
 検察のこの目論見はまんまと成功、西山記者と女性事務官の不倫関係が表に出て、ふたりの関係に好奇の目が注がれ、西山記者は女を利用して国家機密を盗んだ悪い奴にされてしまった。
 本来、あの事件は知る権利、報道の自由といった問題を徹底的に争う、いい機会だったのに、検察が起訴状に通常は触れることを避ける情状面をあえて入れて、男女問題にすり替えたために、世間の目が逸らされたわけです。
 西山擁護を掲げ、あくまでも言論の自由のために戦うと決意していた毎日新聞には、西山記者の取材のやり方に抗議の電話が殺到、毎日新聞の不買運動も起きた。そのため、毎日は腰砕けになって、反論もできなかった。
 さらに特筆すべきは、検察の情報操作によって、実はもっと大きな不正が覆い隠されたという事実です。『月刊現代』(2006年10月号)に掲載された、元外務省北米局長の吉野文六と鈴木宗男事件で連座した佐藤優の対談に次のような話が出てくる。吉野は西山事件が起きたときの、すなわち沖縄返還があったときの北米局長です。
 その吉野によると、西山記者によって、沖縄返還にともない、日本が400万ドルの土地の復元費用を肩代わりするという密約が漏れて、それがクローズアップされたけれど、これは政府がアメリカと結んだ密約のごく一部にしか過ぎず、実際には沖縄協定では、その80倍の3億2000万ドルを日本がアメリカ側に支払うという密約があったというのです。
 このカネは国際法上、日本に支払い義務がない。つまり、沖縄返還の真実とは、日本がアメリカに巨額のカネを払って沖縄を買い取ったに過ぎないということになる。
 こうした重大な事実が、西山事件によって隠蔽されてしまった。考えようによっては、西山事件は、検察が、佐藤栄作政権の手先となってアメリカとの密約を隠蔽した事件だったとも受けとれるんです。
 西山事件のようにワイドショー的なスキャンダルをクローズアップして事件の本質を覆い隠す手法を、最近とみに検察は使う。
 鈴木宗男がいい例でしょう。鈴木がどのような容疑で逮捕されたのか、街を歩く人に聞いてもほとんどがわかっていない。あの北方領土の「ムネオハウス」でやられたのだとみんな、思いこんでいるんですよ。しかし、実は北海道の「やまりん」という企業に関係する斡旋収賄罪。しかも、このカネは、ちゃんと政治資金報告書に記載されているものだった。
 興味本位のスキャンダルは流しても、事の本質については取り上げようとしないメディアも悪い。いや、大衆迎合のメディアこそ、検察に暴走を許している張本人だといえるかもしれませんね。
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