【ユダヤ教礼拝所銃撃】アンダーグラウンド化する白人至上主義 六辻彰二 2018/10/30

2018-11-02 | 国際

六辻彰二 塗り替わる世界秩序
【ユダヤ教礼拝所銃撃】アンダーグラウンド化する白人至上主義──ネット規制の限界
 2018年10月31日(水)13時00分
 写真;世界各地で勢力拡大を図るネオナチ(写真は5月1日、スウェーデンのルドビーカ) Ulf Palm/REUTERS
オンラインのヘイトスピーチを規制すればするほど、ネオナチが自由でオルタナティブなSNSに集まっていくジレンマ
 ペンシルベニア州ピッツバーグのユダヤ教礼拝所(シナゴーグ)を襲撃し、11人を殺害した容疑者が利用していたことで一躍注目されたソーシャルメディアGABは、その後サービス停止に追い込まれたが、ネット上でのヘイト規制の強化は必要であるとしても、白人至上主義をアンダーグラウンド化させ、先鋭化させやすくもするとみられる。
反ユダヤ主義の蔓延
 アメリカのユダヤ人団体、名誉毀損防止同盟(ADL)は10月27日のシナゴーグ銃撃事件を、ユダヤ人を標的としたヘイトクライムとしては「アメリカ史上最悪」と表現した。
 ユダヤ人に対するヘイトクライムは増加傾向にあり、ADLによると、2017年には脅迫、器物破損、襲撃などが1986件と前年度比で60パーセントの増加し、この増加幅は過去最大だった。
 欧米世界における反ユダヤ主義は中世にまで遡り、19世紀以降さらに激しくなったが、最近では数千人の移民希望者が中米ホンジュラスからアメリカへ陸路で北上するなか、「(ユダヤ人の著名な投資家で大富豪)ジョージ・ソロス氏がアメリカを破滅させるためにこの大移動を企んだ」という陰謀論も広まっている。また、トランプ大統領の周辺に娘婿クシュナー氏をはじめ多くのユダヤ人がいることも、(キリスト教徒であることを前提とする)白人至上主義者の反感を招いている。
 根深い反ユダヤ主義を背景に、ピッツバーグのシナゴーグを襲撃したロバート・バウアーズ容疑者は発砲の直前、「全てのユダヤ人は死ぬべきだ」と叫んだと報じられている。
GABとは何か
 このピッツバーグの事件で一躍脚光を浴びたのが、決してメジャーでないソーシャルメディアGABだった。
 バウアーズ容疑者はTwitterもFacebookも利用していなかったが、GAB上では聖書の一説を引用してユダヤ人を「悪魔の子」と表現するなど、しばしばヘイトメッセージを発信していた。シナゴーグを襲撃する直前には「彼らは我々を殺害する侵略者たちを喜んで連れてきている。仲間が殺されていくのを、ただ黙って見ていることはできない。お前らの考え方なんてくそくらえだ。俺がやってやる」と書き込んでいる。
 GABは2016年に発足したが、その最大の特徴は投稿内容に規制がないことで、「言論の自由」を最大限に強調するGABはヘイトメッセージ常習者にとっての「楽園」でもある。公称で80万人以上のユーザーには、Twitterをはじめ主なソーシャルメディアで排除された白人至上主義者が目立ち、そのなかには陰謀論者QAnon支持者も含まれる。
 ヘイトクライムやヘイトスピーチが横行しているとはいえ、あるいは横行しているからこそ、アメリカでは人種、民族、宗派、性別などに基づく差別が社会的な制裁を受けやすい。これまで差別的な言動をしたTV番組の司会者やコメンテーターの多くは、どれほど人気があっても降板させられてきた。
 TwitterやFacebookをはじめとするソーシャルメディアでも、ロシアなど外国政府の関与が疑わしいアカウントや、イスラーム過激派のアカウントと同様、ヘイトメッセージ常習者のアカウントは凍結の対象になっている。
 つまり、投稿内容に関する規制がないGABは、Twitterなど他のサービスを利用できなくなった白人至上主義者にとっての拠り所であり、それは結果的にほとんどのネットユーザーを寄り付かなくさせていたのだ。言い換えると、ヘイト規制の強化が白人至上主義者を多くの人から隔絶した「自分たちだけの世界」に集まらせ、アンダーグラウンド化させたといえる。
■GAB総攻撃は反トラスト法に抵触する?
 シナゴーグ銃撃事件に関して、GABは「暴力を批判する」、「あらゆるメディアには犯罪者がいる」と主張し、自らの責任を否定した。
 しかし、「白人至上主義者の楽園」GABは、事件をきっかけに他の情報通信企業から一斉に制裁を受けることになった。事件後、オンライン決済企業PayPalやStripeはGABのアカウントを削除し、AppleはGABアプリの販売を停止した。さらに、ドメインプロバイダーGoDaddyがサービス提供を打ち切ったことで、GABは停止に追い込まれた。
 こうした集中砲火を受け、GABは「シリコンバレーの巨人たちの結託」で表現の自由が脅かされていると主張し、独占を禁じる反トラスト法に抵触するのではないかとトランプ大統領に向けて訴えている。
 とはいえ、GABのラブコールが届くことは、恐らくない。
 バウアーズ容疑者はトランプ大統領を支持していないと公言しており、GABユーザーの全てがトランプ支持者とは限らないものの、これまでGABはトランプ大統領の公式アカウントを作成し、Twitterから移ってくることを呼びかけてきた。
 これに対して、トランプ大統領はTwitterやFacebookがみんな反トランプ派で、メディア企業が結託していると批判しながらもTwitterを使い続け、事実上GABの誘いを断ってきた。「白人至上主義者の楽園」とみなされるGABからメッセージを発することは政治的にリスクが大きいと判断していたのかもしれない。
 いずれにしても、トランプ大統領が主流派ソーシャルメディアに依存している以上、表向きは文句を言うにしても、これらを全面的に規制することは難しい。
■さらなるアンダーグラウンド化の恐れ
  こうしてGABは封じ込められたようにみえるが、これが結果的に白人至上主義者をさらにアンダーグラウンド化させ、かえってヘイトクライムを誘発させる恐れは拭えない。
 差別的な書き込みを繰り返すユーザーをTwitterやFacebookが排除してきたことは、いわば公の場から白人至上主義者を排除できたものの、彼らが「自分たちだけの世界」に引きこもるのを止めることまではできなかった。このパターンに照らせば、例えGABが停止しても、別の同様のサービスへの需要も、そこにビジネスチャンスを見出す起業家もなくならない。
 また、封じ込められることで脱落者が出たとしても、それが残った者を思想的にさらに先鋭化させることは、ロシア帝国時代のマルクス主義者からイスラーム過激派に至るまで、多くの政治的、宗教的な活動に共通する現象だ。いわば「迫害されている」という被害者意識が、残った者の結束を固めやすくする。
 そのうえ、社会全体による封じ込めは、彼らの理論にとって、むしろ好都合にもなる。白人至上主義者の一翼を担う陰謀論者QAnon支持者は、アメリカがFBIなどの情報機関や大手企業、メディアの連合体「ディープ・ステイト」によって支配されていると主張するが、GABが社会的に押さえ込まれる状況が彼らの目にこの説の正しさを裏づけるものと映っても不思議ではない。
■封じ込めのジレンマ
 もちろん、ヘイトスピーチやヘイトクライムは他者の尊厳や生存権を脅かすもので、認められるべきではなく、そのための規制も必要だろう。
 とはいえ、押さえ込まれれば押さえ込まれるほど白人至上主義が地下に潜りながら先鋭化するなら、単に公の場から追い出すだけでは、今後ともヘイトクライムはなくならないとみてよい。それはちょうど、軍事力だけでイスラーム過激派のテロを撲滅できないことと同じである。
 だとすれば、規制だけでなく、憎悪や憤りの温床となっている格差や将来への不安の払拭の重要性が改めて増してくる。この点においても白人至上主義はイスラーム過激主義と同じといえるだろう。

 ◎上記事は[NewsweekJapan]からの転載・引用です
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米国のユダヤ教会堂で銃撃 ユダヤ教徒を狙ったヘイトクライム(憎悪犯罪)か トランプ氏、死刑復活に言及 2018/10/27
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2 コメント

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胸が苦しいです (あやか)
2018-11-03 08:54:33
今回のアメリカでの、ユダヤ教教会に対する大量殺人事件、、、、、
ほんとに痛ましいことです。
 犯人の白人男性は、何かパラノイア的な妄想にとりつかれた人で、組織的背景は無いらしいですが、、、、、
アメリカの「右翼」のひとは、むしろユダヤ人(イスラエル)びいきの人が多く、アメリカにも反ユダヤ主義者がいることには、少し意外な気がしました。

 でも、いまだに「ユダヤ人の陰謀」とかいう荒唐無稽な本が出回っていることには、あきれる他はありません。
第一、ユダヤ人が、そんなに「陰謀の達人」で有れば、なぜ、むざむざナチスに殺されるような隙をあたえたんでしょうか?

☆それはともかく、現在、アメリカ移民を希望してホンジュラスあたりから数千人の集団が北上してるそうですが、私には、なんだかよくわかりませんね。ただし、(誤解を恐れずにいえば)、あの移民集団には同情は感じません。。。。。何かおかしいです。!!!!

★写真のスウェーデンのネオナチ団体の皆さん、、、、みんな怖い顔をなさってますね(苦笑)
Re:胸が苦しいです (ゆうこ)
2018-11-03 11:18:28
 同感のコメント、ありがとうございます。
 「ユダヤ」という語句からは、目が離せません。ところで、
>アメリカ移民を希望して
https://blog.goo.ne.jp/kanayame_47/e/54485edbd80a05396995d24199c1c6bd」にも関連しますが、オバマ社会主義が「アメリカへ行けば、働かずに喰っていける」という空気を作り出してしまいましたね。 

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