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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

飛ぶ教室

2022-08-10 19:19:42 | 読んだ本

ケストナー/丘沢静也訳 2006年 光文社古典新訳文庫版
ここのところ『雪の中の三人男』とか『一杯の珈琲から』とか読んで、ケストナーっていいな、なんて改めて思ったりしてんだが。
この有名な、巻末解説によれば「20世紀ドイツ児童文学の傑作」を、恥ずかしながら読んだことないなと気づいた、子どものころ何をしてたんだろうね、私ゃ。
買い求めた古本の文庫は、古典新訳版にしてみた、新しいほうが読みやすいんぢゃないかなという気がして、特にこだわりないし、昔からいろんな版があるそうだけど。
なんせ元の発表は1933年の作品だし、って本書巻末の年譜によれば、その年にナチスが政権をとり、ケストナーはドイツ国内での出版を禁止され、焚書の対象とされたそうだ。
どうでもいいけど焚書って最低だよなって私ゃ思う、それほどひどいことがあろうか。
さて、おはなしのほうは、いまさら紹介するほどでもないだろうけど、主にギムナジウム5年生の5人の少年に関する、クリスマス近くのシーズンの物語である。
ギムナジウムってのは、小学校を卒業した10歳から入学する9年制の中高等学校だそうで、寄宿舎があって寄宿生は休暇のときだけ家に帰る。
で、近くの実業学校の生徒たちといざこざがあって、人質を奪還するためにケンカしたりとか事件はいろいろありますが。
タイトルの「飛ぶ教室」ってのは、クリスマス祭に体育館で生徒たちが上演する劇のタイトルで、筋書きは地理の授業を現地でするために、先生が生徒をつれて飛行機に乗って、ヴェスヴィオ火山とかピラミッドとか北極とか天国に行くというもの、その脚本を書いたのも生徒のうちのひとり。
全体としてちっと物足りないのは、わるい大人が出てこないからかなって気がする、私ゃエミールたちが泥棒を捕まえたりするような物語が大好きだからな。
で、出てくるいい大人のなかのひとりが、最後のほうでこう言うところがあるんだが、
>「大切なことを忘れないために」と、禁煙さんが言った。「できることなら消えてほしくないこの時に、お願いしておく。若いときのことを忘れるな、と。(p.181)
これが重要なひとつのメッセージっていうかテーマっていうのかなという気がする。
著者ケストナーによる「まえがき その2」においても、
>どうして大人は自分の若いときのことをすっかり忘れてしまうのだろうか。(略)(この機会に心からお願いしたい。子ども時代をけっして忘れないでもらいたい。どうか約束してもらいたい)(p.18)
ってあるからね、それが児童向けの物語を書くときの著者の基本的スタンスなんだろうと思う。


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