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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

それゆけ、ジーヴス

2022-05-28 19:13:05 | 読んだ本

P・G・ウッドハウス/森村たまき訳 2005年 国書刊行会
ジーヴスものをもうすこし読みたいと思っていたところ、今月アタマくらいに古本を見つけた。
『比類なきジーヴス』というのもあったんだが、調べたらそっちは前に文庫で読んだ二冊のなかに全部含まれていたようなので、本書を買った。
原題「Carry on,Jeeves」は1925年の出版だという、もうすぐ100年ですか、それでいま読んでもおもしろいというのはすごいね。
「それゆけ、ジーヴス」というフレーズは本文中にもあらわれる。
>「(略)ジーヴス、これは君の偉大なる知能にふさわしい問題だ。君が頼りなんだ」
>「あなた様のご信頼にお応えいたすべく最善を尽くす所存でおります、ご主人様」
>「それゆけ、ジーヴスだ。(p.217)
とか、
>「ああ、わかったよ」奴は言った。「外科医にメスを揮ってもらう必要があるときだな。わかったよ、ジーヴス。やってくれ。ああわかった、それゆけジーヴスだ。そうだ、そうだジーヴス、それゆけだ。(p.298)
とかって調子だ、おバカな若紳士たちは苦境にたたされると、有能なる執事ジーヴスになんとかしろと命じる、っつーかお任せするしかなくなってんだけど。
雇用主であるバーティーと執事のジーヴスとでは、どっちが上かってことについては、本書冒頭でも、
>実際、僕のアガサ伯母さんなどはジーヴスのことを僕の飼育係だとまでのたまっている。(p.5)
とあるように、明白である、そしてジーヴスは言葉づかいこそバカ丁寧だが、その服はダメだ、そのネクタイはダメだ、その靴下はダメだと、主人を調教する。
バカにされていることにはバーティー自身も自覚があって、
>(略)彼(引用者注:コーキーの叔父)は(略)、コーキーが哀れなバカで、奴が自分で判断して行うことはそれが如何なる方向性をとるとしても奴の先天的白痴性の新たな証明に過ぎないと考える全体的傾向がある。ジーヴスも僕のことをまったく同じように考えているとは僕の想像するところだ。(p.42)
というように認めている。
ジーヴスのえらいとこは、バカなご主人様だけに強いんぢゃなくて、誰と対峙してもひるまない、
>レディー・マルヴァーンは目線の威力でもって彼を凍りつかせようとしたが、そんなものはジーヴスには効かない。彼は完全防目線加工済みなのだ。(p.92-93)
という調子なんで、たいしたものである。
収録作は以下のとおり。
1.ジーヴス登場
 バーティーの婚約者フローレンスが、バーティーの伯父の回想録が世に出ると不名誉なことが多いので、その原稿が出版社に届くのを阻止しろという。「ご満足いただけますようあい努めております、ご主人様」
2.コーキーの芸術家稼業
 バーティーはニューヨークに滞在中、友人の肖像画家を自称するコーキーが、頑固な叔父の機嫌を損なわないように婚約者を紹介したいと相談をもちかけてくる。「かような展開は危惧されたところでございます、ご主人様。ひとつの可能性として胸に去来しておりました」
3.ジーヴスと招かれざる客
 ニューヨーク滞在中、アガサ伯母さんの友達のレディー・マルヴァーンが訪ねてきて息子のモッティーを面倒みてくれという、母親の前ではおとなしかったモッティーは大都会で遊びまわりたかったので騒動を起こす。「さような次第となりましたならば、些少のうそ偽りを用いるが賢明かと愚考いたすところでございます」
4.ジーヴスとケチンボ公爵
 バーティーの友人のビッキーの伯父チズウィック公爵がニューヨークを訪ねてくる、ホントのことを隠して経済的援助を受け続けてきたビッキーとしては実態を知られるのは困るので助けを求めてくる。「わたくしが僭越ながらビッカーステス様とあなた様にご提案を申し上げました計画でございますが、残念ながら完全に満足のゆく結果が得られなかったのでございます、ご主人様」
5.伯母さんとものぐさ詩人
 バーティーの友人ロッキーはニューヨークから離れたところに住んでいる詩人だが、イリノイ州に住む金持ちの伯母が、ニューヨークでの陽気で多彩な暮らしぶりを毎週手紙で報告せよと要求してきて、困って相談にきた。「トッドさまが田舎にお留まりあそばされたいという、ただいまご表明なさったご意志にあくまで固執あそばされるのであれば、この条件を達成いうる方法はただひとつでございます」
6.旧友ビッフィーのおかしな事件
 バーティーがパリに滞在していると、なんでも忘れちゃう友達のビッフィーが訪ねてきて、客船のなかで出会った女性と恋におちたが、彼女の名前も滞在先のホテルも忘れてしまい、再会できなくなってしまったという。「申し訳ありませんが、ご主人様。個人的な問題に介入をいたすのはわたくしには差し出た真似と―― いいえ、ご主人様。さような所業は専横と存じます」
7.刑の代替はこれを認めない
 伝統のボートレースの夜に街であばれたバーティーは五ポンドの罰金刑、ところが友人のシッピーは警官を殴打した罪で三十日の拘禁刑となった。シッピーは伯母の命令でプリングル家に三週間滞在しなきゃならない予定がある、身代わりにバーティーがそこへ行くことにした。「全身全霊を傾注して本件解決に尽力いたす所存でおります、ご主人様。必ずやご満足をいただけますよう、あい努めてまいります」
8.フレディーの仲直り大作戦
 バーティーの友人のいつも陽気なフレディーだが、婚約者とけんかして婚約解消されて落ち込んでいたので、バーティーは海辺のコテージに気分転換に招待したが、そこで彼女に会ってしまったフレディーは仲直りを画策する。「過分の性急さは禁物でございます、ご主人様。お若い紳士様の記憶力が、確実さをもって機能することを拒否いたす限り、我々は失敗の重大なるリスクを冒すことになります」
9.ビンゴ救援隊
 バーティーの友人ビンゴ・リトルは女流小説家ロージーと結婚して円満な生活をしていたが、バーティーの叔母トラヴァース夫人の依頼でロージーが雑誌に結婚生活の赤裸々な暴露記事を書こうとしている、そんなものが公になったら自分は世間に顔向けができないと助けを求めてくる。「遺憾ながら、コックの問題となりますと、淑女方は原始的な道徳意識しかお持ちになられぬものでございます」
10.バーティー考えを改める
 ジーヴスが語り手になっている作品。どういう風の吹き回しかバーティーが養子をとりたいなどと言いだしたので、快適な独身世帯の終焉を避けるために、ジーヴスは海辺での短期滞在静養をすすめて策を練る。「雇用主とは馬のごときものでございます。調教が必要なのでございます。紳士お側つきの紳士の中には、彼らを調教するコツをわきまえている者もおれば、わきまえていない者もおります。幸いわたくしにこの点に欠けるところはございません」


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