many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

一行怪談

2018-06-02 19:14:58 | 読んだ本
吉田悠軌 2017年 PHP文芸文庫版
以前、穂村弘の何かで(いま調べたら『鳥肌が』だった)とりあげられてたんで、気になって探してたんだけど、つい最近になって中古の文庫をみつけた。
見たら、文庫の巻末解説は穂村さんだった、ほんとに好きなんだねえ。
一行ってのは、たとえであって、二、三行になってるものもあり、よーするに「文章に句点は一つ」というのが定義らしい。
「詩ではなく物語である」ってのも宣言されてることだが、文庫とはいえ1ページに1物語というのは大胆な構成だ。
コラムものなんかでもよく感じることだが、こういうのって、本になってまとめて読んでみるってのは、けっこう味消しなとこがある。
雑誌とかに毎号1個だけ載ってるとかいうんだったら面白みあるかもしれないけど、それだけを並べられちゃうと、なんかねえ。
まあ、そんな私のわがままはともかく、たくさんあると、やっぱ好き嫌いのわかれるものがあるなあって感じがする。
>ばったり出くわした旧友の腕に絡みつく女の、美しい容姿を褒めたところ、そんな風に見えるならお前が連れて帰ってくれと、すがりつくように懇願されてしまった。(p.38)
これなんかはオーソドックスな怪談って感じ、現代風の怪談ですね。
都市伝説調なのも怖くていい。
>百人以上が亡くなった航空機墜落事故の死者名簿を調べると、必ず一人、同じ名前の男が載っているそうだ。(p.104)
とかね。こういうのは他人につい言いたくなる。
>集落を焼きつくした山火事を年に一度再現するという秋祭りの当日、何も知らないカップルが山間の村へと迷い込んだ。(p.129)
みたいなのもいいと思う。悲劇を予感っつーより確信させるとこがなんとも。
穂村弘さんは、自分以外の周囲はすべて自分とは異なる何かだった、みたいなシチュエーションの物語が好きらしいんだけど、私は、どっちかっていうと、わけわかんないやつが好みのようだ、一回読んだけのところでは。
>どうして今日の昼間いきなり帰宅し、またすぐ出ていったのか、と質問したとたん、夫は青ざめた顔で玄関から飛び出し、そのまま行方不明となった。(p.26)
みたいな。それほど大がかりな舞台装置はないんだけど、フツーぢゃなくて、どだい常識で説明はムリって感じ。
>もし少しでも海の腐った臭いがするようでしたら、別のタクシーを拾ってもらうのがお客さんのためですよ。(p.191)
とか、
>寝る時に必ず、洗濯機を回し続けることだけは忘れないよう願いますが、それさえ守ればたいへんお得な物件だと思いますよ。(p.169)
とかってのも怖さのツボにくる。
なんで、なにが、どうなるのって説明しないとこがいいわけで、言いおおせて何かあるってやつだ、みなまで言うな、ってね。
比べると、次のようなやつはおもしろくない。
>冷蔵庫が開いたままだと注意すると、妻はうんざりした顔で扉を閉め、次の瞬間、庫内から激しいノックの音が響いた。(p.172)
って洗濯機のやつと比べると、出来がよくないと思う。
もちろん現実にそういう事象に直面しちゃったら、冷蔵庫のなかから音がするほうが怖いんだろうけど、そこんとこまで文字にして読ませちゃうと、おいおい、あるわけねーだろ、そんなこと、って言いたくなっちゃうから、理由を説明しない洗濯機のほうが怖い。
同様に、読んでると、これはやりすぎ、それってネタだろ、って感じのもいくつかある。
>これより先は全ての駅が通過となります、との車内放送が流れ、もう二度と山手線から降りられない。(p.107)
とかね、こんなことあったらこわい、って言いたいのはわかるけど、無い無いってすぐ結論でちゃう。
>産まれおちた我が子に触れようとした瞬間、背後の看護婦から、その子が亡くなる年月日をそっと耳打ちされた。(p.24)
なんてのも、飛躍しすぎてて笑ってしまう。やっぱ、全部まで言わないやつのほうが私の好みだ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 宇宙船ビーグル号の冒険 | トップ | オーブランの少女 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読んだ本」カテゴリの最新記事