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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

ジーヴズの事件簿 才智縦横の巻

2020-05-09 18:21:39 | 読んだ本

P・G・ウッドハウス/岩永正勝・小山太一編訳 2011年 文春文庫版
吉田健一が薦めるものだから、P・G・ウッドハウスを読んでみたくなり、さっそく古本を買い求めた。
なんかいっぱいあるようなので、入門編っぽい感じする短編集にした、短編集はいいやね、途中で投げ出さないだろうし、アタリの一篇あるかもしれないし。
有名らしいんだけど、私は全然知らずに生きてきてしまった、タイトルのジーヴズは人名。
語り部の「僕」は、第二次大戦前のイギリスの上流階級の若者バーティ・ウースター君で、ジーヴズはその従僕。
使用人としてはカンペキな人間、「心を癒す西風のように音もなく」部屋への出入りをし、熱すぎず甘すぎず薄すぎず濃すぎない紅茶をいれて、主人の目覚めた二分後にサッと出すことに象徴されるように、なにごとも行き届いている。
ジーヴズを雇ってからのバーティは自分のこと自分でやるのは一切やめておまかせにしてしまった、叔母に言わせるとジーヴズのほうがバーティの飼い主なんだという。
で、日常のあれこれだけぢゃなく、主人のまわりに事件が勃発したときも、ジーヴズがスマートに解決する、主人の名誉に傷つけることなく丸く収める。
「まったくおまえは天才だ」と褒められても、「ご満足いただけるように努めております」と控えめな返事をする、できた人物。
どうでもいいけど、従僕のジーヴズのほうが紳士的な立ち居振る舞いをして、上流階級のはずのバーティのほうがときどき変な口のきき方をしたりするのは、やっぱ階級が厳然とあるってこと前提にしたなかで、皮肉ってみてるのかなって気がする。
>かつてのイギリス探偵小説は、安定した階級制度による社会を描いてゐた。その典型はアガサ・クリスティーの諸作品だが、彼女の本では、上流および中流上層による一国の支配がごく当り前の前提となつてゐて、誰ひとりそのことを疑つてゐない。(略)イギリスの田舎が、知的な推理ゲームとしての探偵小説の舞台になるためには、これは基本的な条件であつた。(『快楽としてのミステリー』P.331)
っていう丸谷才一の論をなんとなく思い出した。
ま、いずれにせよ、期待にたがわずおもしろかったんで、ほかのも読んでみなくてはと決意した次第、いまさら。
コンテンツは以下のとおり。
『ジーヴズの初仕事』 (Jeeves Takes Charge,1916)
バーティと婚約中のフローレンスが、バーティの叔父の回想録に目を通し、出版されたら自分の父の若き日の不名誉な行動があらわになってしまうので、出版社へ届ける前に原稿を処分しろという。
バーティは財政的に叔父頼みなので、叔父の不興を買うことはできない。
『ジーヴズの春』 (Jeeves in Springtime,1921)
 その一 ジーヴズ、知恵を絞る
 その二 婚礼の鐘が鳴る
バーティの友人のビンゴはやたら惚れっぽいのだが、今回は大衆食堂のウェイトレスに熱を上げてしまった。
身分違いの結婚なんて許すわけない伯父からの財政的援助を減らされないよう、伯父の考えを改めるようにしてくれとビンゴは泣きついてくる。
『ロヴィルの怪事件』 (Aunt Agatha Speaks Her Mind/PearlsMean Tears,1922)
 その一 アガサ叔母の直言
 その二 真珠は涙か
幼いころから苦手のアガサ叔母から、アリーン・ヘミングウェイ嬢と結婚しなさいと決めつけられてしまったバーティ。
この話から逃げる名案はないのかと問われて「ございません」というジーヴズだが、その後のヘミングウェイ兄妹の持ち込んだ怪事件を鮮やかに片づけてバーティを救出する。
『ジーヴズとグロソップ一家』 (The Pride of Woosters is Wounded/The Hero'sReward/Introducing Claude and Eustace/Sir Roderick Comes to Lunch,1922)
 その一 ウースター一族の名誉の問題
 その二 勇士の報酬
 その三 クロードとユースタスの登場
 その四 サー・ロデリックとの昼食
惚れっぽいビンゴが今度はホノーリア・グロソップにぞっこんになる、ところがアガサ叔母はバーティに、彼女こそあなたの伴侶にぴったりだと押し付けてくる。
バーティは今回はジーヴズの手をわずらわせずに解決しようとするが、うまくいかないまま、ホノーリアの父サー・ロデリックを昼食に招くことになる。
『ジーヴズと駆け出し俳優』 (Jeeves and Champ Cyril,1918)
 その一 紹介状
 その二 エレベーター・ボーイの瞠目すべき装い
前回の事件で叔母を怒らせたため、ジーヴズのすすめにしたがい、しばらくニューヨーク旅行へ逃げたバーティ。
叔母の招待状を持ったシリルという男が来たが、叔母からの「演劇関係者に紹介するな」という電報より前に、すでに舞台脚本家に会わせてしまっていて、ちょい役で出演する話がトントン拍子ですすんでしまった。
『同志ビンゴ』 (Comrade Bingo/Bingo Has a Bad Goodwood,1922)
 その一 同志ビンゴ
 その二 ビンゴ、グッドウッドで敗退
惚れっぽいビンゴはシャルロットという女性に熱心になり、彼女の父親の説く革命思想運動に加担していく、顎ひげの変装までして。
伯父の援助が見込めないビンゴは、競馬のグッドウッド・カップで伯父の持ち馬である本命馬に有り金をかけて結婚資金を稼ごうとする。
『バーティ君の変身』 (Bertie Changes His Mind,1922)
>「機略と手際」――これが私のモットーです。 と語る、この話は語り部がジーヴズ自身になっている。
姉が三人の娘をつれてきたら、いまの住居をひきはらって、どこか一軒家でかわいい子供たちと一緒に暮らすかなどということを言いだしたバーティだが、いまの生活が快適なジーヴズは主人の考えを改めさせるべく、車を運転して海岸地方へ短期滞在に連れ出す。


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