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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

師弟

2018-11-24 17:59:03 | 読んだ本
野澤亘伸 2018年6月 光文社
副題は、「棋士たち 魂の伝承」、将棋界の師弟の本。
片上大輔七段のブログみて、読んでみようと思ったんだと思う、買ったのは9月になってからだけど。
著者の名前は専門誌なんかでも見たおぼえないような気がするんだけど、本職はカメラマンだそうで。
それにしても、インタビューのなかみが濃くて、棋士の語ることっておもしろいのは承知してたつもりだったんだけど、予想以上にすごいホンネのようなものが出てた。
話題性から藤井聡太七段がとりあげられて、表紙飾ったりするのも出版社的には当然なんだろうけど、表紙の「君は、羽生善治を超えるんだよ」という言葉は、実は藤井七段が言われたことぢゃなく、森下卓九段が弟子の増田康弘当時奨励会員に言ったもの。
森下九段は、将棋以外のことに気持ちが向くと心に空洞ができる、トップになるためにはそれは許されないと、修行中の10代前半であったろう弟子に教える。
森下九段といえば、若いころは米長教室の塾長で、米長からは森下最強と言われてたはずだけど、タイトルが獲れなくて、棋界の不思議と呼ばれてた。
その理由について本書で自身は、
>本気で、欲しいと思わなかったんでしょうね(略)
>人間は本気で思える容量は決まっている気がするんです。(略)
>『本気で思う』というのは、才能なのでしょう。(p.87-88)
なんて驚くべきことを言ってる。タイトルは獲れなくても地獄ぢゃないから、ってとこに気づいたことを認めちゃってる。
でも、弟子に対しては、根性が大事だといって、記録係とかきつい仕事をどうしてやらないのかという。
でもでも、増田六段は感覚が新しくて合理性を好むので、根性みたいなもの必要ないと思って、技術を磨くことに懸ける。
勝つには技術、強くなるにはメンタルも必要、って言うのは簡単だけど、増田六段の自身を語る、
>小さい頃はよく泣いていましたが、奨励会に入って三段リーグの頃から感情を殺すようにしました。切り捨てるって感じですね。(略)棋士でなければ、ふつうに泣いたり笑ったりしたかもしれませんけど。そういう何気ない幸せみたいなものは、捨てたという感じですね。(p.92)
って言葉には、そこまでって凄みを感じる。
ところが、逆に普及イベントとかを仕切ってマルチな動きをみせる糸谷八段の言葉も興味深い。
>将棋一本に絞ったら、もっとタイトル挑戦や棋戦優勝ができるといわれるのですが、私は逆に今より実績を残せないと思います(略)
>将棋が不調なときに、別の思考で自分を客観視することで、陥っている癖をつかみ取れるんです。(p.161-162)
これって、河合隼雄さんの『こころの処方箋』にあった、「人間の心のエネルギーは、多くの「鉱脈」のなかに埋もれていて、新しい鉱脈を掘り当てると、これまでとは異なるエネルギーが供給されてくるようである」ってのと、つながるものが感じられる。
でも、やっぱ、若くて強くなっていく時期には、余計なことはしないほうがいいと、師匠の側は考えるようで。
藤井七段の杉本師匠は、自分が若いころに、対局前後にべつの仕事をいれる先輩棋士を疑問に思っていたのに、いまは藤井七段に期待される取材対応を代わって受けていたりする。
>私の時間を削るのは、いろいろ思いがありますが、仕方ない部分もある。でも、藤井の時間を奪うのは将棋界の損失ですから。(p.217)
って、カッコいいっす。いい師匠ですね。
第一章 手紙 谷川浩司・都成竜馬
第二章 葛藤 森下卓・増田康弘
第三章 気合 深浦康市・佐々木大地
第四章 対極 森信雄・糸谷哲郎
第五章 敬慕 石田和雄・佐々木勇気
第六章 継承 杉本昌隆・藤井聡太
終章 特別インタビュー 羽生善治

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