カンボジアの食材 7 ヘチマ

カンボジアから   金森正臣(2006.1.27.)

カンボジアの食材 7 ヘチマ

写真:カンボジアでは、良くヘチマを食材として使う。幾つかの種類があって、ヘチマ〈スポンジ〉にはならない食用専用種もある。私が勝手にヒレヘチマと呼んでいる、写真中央のこの種類は、縦に幾筋もの稜ができヒレの様になっている。スポンジとしては使わない。専ら食用。隣の細長いつるりとした種類は、ヘチマ兼食用種である。このヘチマは、大型種で成長すると1mに達する。立派としか言いようがないが、成長が早いせいか繊維は荒く、スポンジとしては品質が落ちる。長くて背中まで流せるんだけど!
 左端に見えるのは、サトイモの葉の茎。

 カンボジアでは、食材としてヘチマが良く使われる。スープや炒め物などに入れられる。写真の中央のヒレのあるのがヘチマの一品種で、私は勝手にヒレヘチマと呼んでいる。どの様な品種か不明である。ヒレは硬くてかなりゴソゴソしている。とても食べられない感じだが、皮を剥くと中は柔らかい。ヘチマの中で、最も好まれて食される品種である。
 右手の細長い品種は、日本のヘチマに似ている。沖縄でも良くヘチマの若いものを食べるが、それに同じだ。若いうちは、煮るとあまり個性が無く、他の味を吸収するので結構な食材である。しかしこの細長い品種は、少し大きくなると繊維が強くなり、食材にはならなくなる。煮ても焼いても、いかんせん噛み切れなくなる。どうせセルロースを取っているのだからと、やせ我慢しても、牛スジの煮込みそこないの様なものでなかなか飲み込めない。牛スジより始末が悪いのは、だんだん味が無くなってくる。

 日本でもトウガンやユウガオ(実はヒョウタンも同じ)を食べるが、調理した状態だと区別が難しい。ヘチマも同じで、食べ慣れないと何がなんだか分からないまま食べている。まして、品種まで食べ分けるのは難しい。皆同じ様なもので、はっきりした個性はないが、他と馴染んで美味い。
 似た様な状態になるものとして、以前に書いた野菜としての果物である、青パパイヤがある。具材が何であるかはっきり意識していないと、トウガン(写真の一番右手にあるやや小さな、緑色のウリ)、ヘチマ、青パパイヤの区別は付かない。トウガンも2-3種有り、おまけにヒョウタンとの区別がはっきりしないものもあるので(どれも食べる時には若い物を使うので、更に区別が難しい)、ウンー。どれも同じ様なものだからイイカー。

 もともと煮てしまうと、個性が少ないものだから、肉類と使われることが多い。最も多いのは、豚肉とのスープで、意識しないまま食べている。魚類でも脂が多いナマズのスープなどに使われている。油との相性がよい様で、肉類との炒め物等にも使われる。

 日本では、トウガン・ユウガオなどのダシの効いたあんかけなどは大好きな料理であるが、その様な微妙な味はカンボジアには無い。椎茸、干しエビ、干し貝柱、干しアワビなどダシ用の優れた食材を使いながら、日本とは味の感覚がかなり違う。バナナ・パパイヤ・マンゴーなどを熟さないうちに、野菜として使う感覚も何らかの気候的影響を受けている様にも思われる。

 身体は、気候の強い影響を受けている。例えば、発汗量は温度と湿度の影響に因るところが大きい。寒い地方は、着るものも多くなるので、湿度も外気の影響を受けにくい。しかし暑い地方は、着るものも薄くなるので、外気の影響を受けやすい。東アフリカの乾燥地帯では、一日の温度格差が大きく40度近くなることもある。湿度は、20パーセントを切る。発汗量が多くなり、水を飲む量が日に3リットルでは足りなくなる。従って、胃が疲れることはこの上もない。胃液の分泌も戸惑うのであろう。
カンボジアではそれほど温度差もないし、湿度も低くならないが、それでも日本よりもかなり多くの水を飲む。カンボジア人もかなり水を飲むから、やはり気候の影響が有ろうかと思われる。この様な状態になると、食べたいものの要求も、当然変わってくるのであろう。その長い経験の結果、様々な食材が選ばれていると思われる。
北アルプスのガイドをしていた中村さん(志賀高原の幸の湯のご主人:既に故人)と2人で、もう40年も以前に新潟県の中津川の上流の「魚の川」にイワナ釣りに出かけたことがある。宿も道もないから、崖を登り、岩をへつりテントで3泊4日、60kg程度を釣り上げて帰った。川は雪解け水で冷たく、釣った魚の冷蔵庫としては最適であったが、一日水につかっているから、当然胃の調子も悪くなる。経験豊富な中村さんは、事前に沢山の柴漬けを準備して下さっていた。その頃まだ酢の味の苦手な私は、初日には食べなかったが、二日目以降美味しいと思って食べる様になり、それ以来柴漬けが大好物になった。
身体は、気候の影響を受け、身体の要求する物や味も、自然にその地域の気候の影響を受けているのであろう。
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