うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

心の扉を開く鍵

2024年02月15日 19時57分48秒 | ノベルズ

紅に染まり行くオーブ・オノゴロ島の港。
その斜陽を背に受けながら、<ゴゴゴゴ>という轟音と共に舞い降りてくる疾風にカガリの髪が激しく煽られる。
降り立ったその神々しき機体―――マイティ―ストライクフリーダム―――そこから一組の男女がリフターでゆっくりと降りてくる。

二人がこの地に降り立ったのを待って、カガリが走り出す。
「ラクスーーーーーーッ!!」
オーブ一国を担う立場もはばからず、カガリは両手を広げ、文字通り全身でラクスを抱きしめた。
「よかった・・・ラクスが無事で・・・」
抱き着いた彼女はもう顔を涙でクシャクシャにしている。
「ありがとうございます。カガリさんも、オーブもご無事でよかったですわ。」
「うん…本当によかった。」
涙を乱暴に腕で拭い、カガリも笑顔で答える。
ラクスを優しく映す金眼は、彼女のすぐ隣に立つ弟に向けられた。
「キラ。お疲れ様だったな。」
「うん、ありが―――」
「ところでお前、肝心なところで、また銃使えなかったんだってな。」
労わりの視線を期待した弟は、言葉を封じられた上に、姉の鋭い視線に射抜かれ、硬直した。
「あ、あれは、ラクスが敵を振り切って走ってきてくれたから、僕が庇おうと―――」
「黙れ。キサカからの報告によるとその結果、敵から見事に急所を銃口で狙われたそうじゃないか。ラクスを庇うのは結構。だがお前が撃たれたらラクスはどうなるんだ?」
1年前、あれだけ己の非力さに打ちひしがれ、涙にくれたカガリはもういない。一言一言発する言葉の的確さと重みに、キラもウズミと対したとき同様の圧を受けた。
「・・・」
「何だ、何も言い返せないのか?それで良く准将とか言えるな。」
「それはコンパスで、拝命された階級がそうだったから。」
「私は今そんなことを問うているわけではない。もういい、報告があった時から決めていたことだ。キサカ。」
「はっ!」
3年前、カガリと再会したときから、彼女に付き従っているレドニル・キサカがこれぞ見本とばかりの敬礼をする。
「コイツに銃と体術をみっちり仕込め。」
「了解しました。」
そう言うが早いか、キサカの腕がむんずとキラを掴む。
「え?ちょっと、今から!?僕はミレニアムに帰還して報告を―――」
「さぁ、参りましょう。キラ様。」
「え?ちょっと待って下さ――――」
有無を言わさずズルズルと引きずられていくキラ。カガリはそれを見送って振り返る。
「それからザラ一佐。」
「はっ!」
カガリの側で控えていたもう一人は、流石は元ザフトレッド。先ほどまで穏やかに見守っていたが、キラとは違ってこういう場面でも隙はない。と思ったが、
「お前は散々っぱら、キラのこと殴ってくれたそうだな。」
「え、あ、あれはキラの目を覚ますために仕方なく―――」
「コンパス准将に鉄拳食らわすなんて言語道断。お前もみっちり始末書いてこい!」
「カガリ!?いくら何でもそれは―――」
「全治2日の傷害だぞ。オーブ軍として自国防衛のための武力行使は認めるが、私怨での殴り合いは我がオーブ軍の理念にはない!さっさと書いてこい。ちゃんとメイリンに添削してもらってこいよ。いいな?」
「・・・了解しました。」
顔中に不満を張り付けるアスランだったが、カガリの一睨みに仕方なく敬礼した。

「あらあら・・・」
あのアスランでさえ、カガリを前に狼狽するとは。婚約時代にさえ一度として見たことがないアスランの表情に、ラクスは呆気にとられる。
見事すぎるカガリの采配に、あの激闘を戦い抜いた勇者二人がなすすべもなく連れられて行く。
「フフフ。お見事ですわね。流石はオーブ代表首長ですわ。」
「・・・よかった。」
「え?」
「ラクスが笑ってくれて。今までプラントとの通信で、仕事以外のプライベートのこともちょっと話したりしただろう?でもラクス、笑ってなかったから。」
「私が、ですか?」
「うん。口元は柔らかかったけど、心から楽しそうじゃなかったから。」
「カガリさん・・・」
ラクスは目を見開く。
確かに盟友として、コンパスの発起人として、カガリとは仕事上で通信をすることはよくあり、更に弟(?)であるキラのことも家族の情もあってか気にかけているため、プライベートのこともいくばくか話してはいたが。
一体何時の間に、見透かされていたのだろう。
ラクスの関心をよそに、カガリは紅から紫へと変わる空を見上げ言い出した。
「ラクス。あのな、もうコンパスの総裁の座を降りてもいいんだぞ。」
「カガリさん!?」
突然の提案に流石のラクスも驚く。と同時に心の奥が<キュ>と締め付けられる。

それは、やはり自分がアコードだから、だろうか。
人の心を読み取り、それによって人を統治する。その頂点に立つ人物として作られた自分。
コンパスの総裁として、武力も、その権限も持つラクス。
コンパスは現在凍結されているとはいえ、もし活動が再開したら、

(私は、キラをはじめとする皆を、心のままに戦場に送り出す、危険人物だと・・・!?)

ラクスは苦し気に唇をかむ。
そう思われても仕方がない。
オルフェをはじめ、あれだけの戦闘と破壊を行ったアコードたち。
彼らと同じ”生物”だとしたら、まさに自分は脅威の存在でしかない。

カガリはもう知っているのだろうか?ラクスが彼らと同じだということを。

ラクスはギュッと握りこぶしを作る。彼女にしては珍しい行為だ。
そして伏し目がちにした視線を上げ、ラクスは苦し気に口にした。
「カガリさんにお話があります。私は実は、アコ―――」
「ラクスは”ラクス”だ。」
言葉を遮り、カガリがラクスを見やる。その金眼はいつもと同じ、真っ直ぐだ。
「コーディネーターだろうと、ナチュラルだろうと、人は同じだ。ただちょっと人より優れている能力を持っていたとしても、心は同じ人間だ。自尊心が強かったり、逆に卑屈になりやすかったり。頭がいいのにハツカネズミになったり、グルグル同じところを何度も行ったり来たりする、皆、変わらないただの人間だ。だから、ラクスは「人間」だ。何であっても「ラクス」であることに変わりない。」
「・・・」
ラクスは瞬時思う。
(心を読み取ってはいけない!)と
だが、精神感応しなくてもわかる。カガリの心は真っ白だ。

普通人間には裏と表がある。
光が強ければ、そこに挿す影がまた濃くなる。

なのに―――カガリは裏も表も「真っ白」でしかないのだ。

それはキラと同じ「ラクス」を「ラクス」として、信じ、心を許してくれる、カガリそのままの裏も表もない真っ白な一つの心。

カガリは続ける。
「コンパス総裁の辞任のことは、変に誤解したら悪いから、ちゃんと言うぞ? コンパスを創設したときから・・いや、メサイア戦を終えて帰還したときからかな、キラの様子がおかしかったんだ。なんか・・・こう・・・世界中の責任を全部背負わなきゃいけない!みたいな感じでさ。」
カガリが再び空を見上げた。既に紫から藍色へと色を変える空には輝く星と、プラントの灯りが映りだしている。
「それで思ったんだ。キラはもう戦う場所にいさせないほうがいいなって。戦場で誰よりも強いからとか、議長を倒した責任を取らなければいけない、とかいう使命感を持たなくていいんだ。アイツは操縦桿を握れる限り、自分がやらなきゃ!って思いこんでいるだろう。でも、アイツが私と出会って、MSに、ストライクに乗らなければ、普通の学生だったんだ。根本は只の根の優しい争いを好まないヤツなんだ。」
「えぇ。その通りですわ。優しすぎるのです、彼は・・・」
「でも、今顔を見て分かった。キラは今この瞬間、ラクスのために生きようとしているし、ラクスも・・・そうなんだろう?」
「はい。」
「だから、ラクスもキラのために生きてくれるなら、二人でもう争いの中に身を投じることなんて必要ない。言い方は悪いが適材適所。優しくて争いを嫌う二人が戦場に出ることは心を壊す。だからもう、傷つかなくていいぞ。」
「カガリさん・・・」

カガリは小さく深呼吸すると、ラクスに近づいた。そして
<ギュ>
先ほど抱きしめられた時とは違う。別の感情がラクスの中に流れてくる。
キラとは違う温かさで、太陽のような眩しい光。

「よしよし。たった一人で監禁されて、男に権力と力で思い通りにさせられそうになったんじゃないのか?凄く怖かっただろう?どんな力を持って行ようと、特別な存在だろうと、ラクスは1人の普通の女の子だ。よく頑張ったな。でももう大丈夫。キラも、アスランも、私もいるからな。」

ラクスの目に自然と涙が溢れてくる。

何故分かったのだろう。
同じ女性だから、だろうか。

ううん、違う。
これはカガリが持つ力だ。

組み込まれた遺伝子の力ではない。
カガリという人間が持って生まれた天賦の才。
心を読んだり、操る能力ではない。
ただ優しく、温かく、触れてくれるのだ。

同時にふと思い返す。

アスラン―――婚姻統制の名の下、婚約者として出会った彼は無口だが大切にしてくれた。
でも、心はどうだっただろう。
血のバレンタインで母親を亡くして以降、彼は心を曇らせたままだった。
父や軍の命令に従う彼は、確かに上から見れば「いい子」なのだが、彼の意志がどこにも感じられなかった。

なのに、今はどうだろう。
カガリと出会い、まるで別人のように彼女の前では泣いたり怒ったり、素直な自分を吐き出して。
一時期、二人はすれ違う人生を歩み出したかに見えたが、二人の絆はそれを乗り越えている。
どんなに遠く離れていても、二人の目指す未来は同じ。
揺るがぬ絆が二人を結び付けている。

アスランの心をラクスは開くことはなかった。
でもカガリはいとも簡単に開いた。彼の一人抱え込むかたくなな心の扉を。

心を読むのではない。心に押し入るのではない。
自らその心を開かせる魔法の鍵―――それが「カガリ・ユラ・アスハ」の力。

 

(私も、今は心を開いていいですか?)

「えぇ。怖かったです・・・とても・・・」
カガリの背に腕を回し、顔を埋めるラクス。
その背を優しく、そして力強く、自分と変わらない大きさの掌が撫ぜてくれる。
アコードも、コーディネーターも、ナチュラルも関係ない。
母のような優しさと、それでいて心を預け合える親友の頼もしさ。
ラクスの目から温かな雨が降り出した。
「頑張ったな、偉いぞ。誰が褒めなくても私が褒めてやる!」
「はい!」
キラにしか見せなかった涙をカガリにも預ける。
そんなラクスにカガリはちょっとだけおどけて見せる。
「これからもどんどん頼って良いんだぞ?・・・というか、私の方が頼りっぱなしなんだけどな。」
そう言って笑うカガリ。ラクスも涙を乾かした。
「ありがとうございます。」
「あ、それと、キラと一緒に生きるっていうことは、後々私の義妹になるっていうことでいいんだよな?」
「そうですわね。そうなればいいと願ってますわ。」
「だったら、その・・・「お義姉ちゃん」って呼んでもいいんだぞ///」
「あらあら、ウフフ♪とても嬉しいです。では」

ラクスは両腕を伸ばして、今度は自らカガリに抱き着き、目を閉じる。

「ただいま戻りました。お義姉さま・・・」

 

・・・Fin.

 

 

***

 

はい。種自由その後の勝手に大妄想です(笑)
普通此処では「アスカガ」を書くところなのでしょうが、あえて「カガラク」を妄想いたしました。

今回の劇場版のテーマが「愛」と「資格」だということは、監督はじめ様々なメディアで報じられておりますが、かもした的にはここに「対話」というキーワードも感じております。
勿論、キララクは会話が少なくてすれ違ったことで、今回の危機を迎えましたが、ちゃんと互いに誰よりも「愛している」と口にできたことで、最強の絆を武器に戦うことができました。
一方のアスカガですが、こちらは劇場本編の中では、一言も対話しておりません。
でもちゃんとリモートコントロールだったり、劇中に隠された「カガリがアスランに探らせたり、二人で相談し合って事前に国民を避難させたり、ムゥさんを先に宇宙に送った」というコミュニケーションは取っているのですが、やはりシュラとの戦いにおいて、自らの命を任せる&任せられる、という対話以上の絆と信頼とそして愛情♥(笑)を見せつけてくれました。運命ですれ違った二人でしたが、こうしてみると、キララクの危機は運命の時のアスカガの危機と同じで、こと恋愛に関してはアスカガが一歩先に進んでいる感じですね。キララクはしょうがないと思います。キラはフレイのこともあるし、議長のこともあって、自分が背負いこんでしまった業が多すぎましたから。

で、もう一つがアコードたちですよ。
対話しないです。だって必要ないもん。テレパスで通じ合いますから。
でも、その対話がなかったことで、彼らは敗北しました。相手の心の隙をつくことばかりに頼りすぎて、相手がどんな思いをしているのか、聞くこともなかったですから。だからいきなり心を覗いて見たら、ステラちゃんに飲み込まれたり、破廉恥妄想ビーム(笑)にやられるんですよ。これがもうちょい人となりとかを対話することで見聞きしていたら、「あ~コイツ、過去にそんなことがあったんだ・・・じゃぁ心覗いたらヤバいかも」というのがあるいはあったかもしれません。

そんな「使えない(アスラン談)」能力ですが、無自覚に使っている気がするのがカガリです。
勿論アコードたちみたいに、鮮明に読み取れるわけじゃありませんが、誰かが、今、どうして苦しんでいるのか。それを察して必要な言葉や行動を取っているんですよ、無自覚に。運命の時は殆ど描写がなかったんですが、無印の時は傷ついたキラに寄り添ったり、「どうしたいんだ?」「どうすればいい?」と相手が話しやすい形で、相手も何時しか話し出している、という。顕著なのが24話のアスランとですよ。途中でアスラン「もうよそう、こんなことをお前と話していたって何にもならない」って切っちゃいましたが、それまでは口にしなかった胸の内を語りましたし、更に31話で思いっきり親友を殺してしまった苦悶を吐き出させました。
カガリはナチュラルですし、当然読心力なんて持っていません。
天性なんでしょうね。人の心の扉を開かせるの。
そう思ったら、アコードという運命を背負わされたラクスとカガリで対話させてみたらどうなるかな?と思って妄想してみたところ・・・「やっぱり「よしよしヾ(・ω・`)」に落ち着きました(笑)」 キラと一緒だね☆

というか、最後はラクスに「お姉さん」と呼ばせたかったんです♥
ラクスって、キラ以外あまり人に頼ったり甘えたりする人ではないので、皆の精神的支柱になってますけど、本当は普通の女性だとしたら、キラ以外に「同じ女性として腹を割って話ができる相手」があってもいいんじゃないかと。
そう考えたら、やっぱりカガリ一択になりましたw
是非義理の姉妹としてこれからも仲良くしてほしいですわ♥


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« これ以上、カモられないって... | トップ | ガンダムSEED FREEDOM Cafe&... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ノベルズ」カテゴリの最新記事