うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

S&V(仮)その7

2016年08月31日 20時15分21秒 | ノベルズ
海の底から無数の手が、カガリの腕や足に絡みつき、真っ暗な闇へと引きずり込んでいく。
次第に手足の感覚がしびれてなくなり、冷たくなってきた。
(あぁ・・・きっとこれが『死ぬ』ってことなんだろうな・・・)
重くなった瞼をかろうじて開ければ、太陽の光がキラキラと水面に差し込んでいる。
綺麗な・・・碧の光。彼の瞳にそっくりな・・・
そう思った瞬間、カガリの胸が苦しく締め付けられる。呼吸じゃない。心だ。
(会いたい!できることならもう一度、あの優しい瞳に―――!)
絡みつく見えない手を振り払って、必死に光に手を伸ばす。
その時だった―――
(あれ・・・?何だろう・・・)
冷たくなりかけていた手足、いや全身が温かいものに包まれる。
そして、それは見えない剣のようにカガリの全身に絡まる手を断ち切った―――途端、恐ろしいほどの浮力で海面へとカガリを引き上げた。
「ゴホッ!!ゲホッ!!」
塩辛い水を吐き出し、はぁはぁと荒い呼吸を整えれば、開かれた瞼に映るのは―――最後の最後まで会いたかった、あの碧の瞳。
瞬時緊張が解たような表情と共に、そこから一筋、涙が零れ落ちたように見えた。だが次の瞬間。
「あれほど注意したのに、自分から潮の巻いているところに飛び込むやつがいるか!」
真剣でまっすぐな怒り。アスランが本気で怒ったところなんて、初めて見た。
「ご・・・ごめん・・・」
あまりの驚きにカガリが目を見開いたまま言葉を失う。と、アスランが力を込めて<ギュ>とカガリの全身を抱きしめた。
「・・・よかった・・・無事で・・・」
その声はもう怒っていない。心から安堵したいつもの優しい声だ。
全身で抱きしめられているからかな。アスランの身体がすごく温かくて。服の上からじゃなく、直接肌を伝わってくるそのぬくもり。潮の香りの中に仄かに混じるアスランの匂い・・・。カガリの両目から、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
助かった安堵で、じゃない。怒られたことが怖かったんじゃない。アスランがこんなにも自分を想ってくれていることが嬉しくて仕方なかった。
「ごめん・・・本当に、すまなかった・・・。」
そう言ったのはカガリではなく、アスランの方だ。カガリの首筋に顔を埋め、振り絞るような声で謝罪の言葉を紡いでいる。
「何で、お前が謝るんだよ?謝らなきゃならないのは、私の方だろ?」
「いや、違う。俺が・・・もっとちゃんと自分の気持ちを正直に、君に伝えて居れば、君をここまで傷つけたりしなかった。俺は・・・バカだから・・・」
カガリの首筋に、温かいものが落ちた。アスランはきっと泣いている。
ううん、違うよアスラン。バカなのは、私の方だ。
「やっぱり私が謝らなきゃ。ごめん、あんまり女の子らしい恰好ってしたことなかったから、女らしくすれば、アスランも喜んでくれるなんて、勝手に思い込んで。それが叶わないと思ったら、勝手にアスランのせいにして落ち込んで。本当にごめん。」
胸の中で上手く頭が下げなれない。そうしたらアスランが慌てて顔を上げた。
「違う!カガリは本当に可愛い!俺が―――・・・///うわっ!///」
話し出した最中に、ようやく我に返ったのか、冷静になったのか。アスランが互いにほぼ半裸の肌を重ねてカガリを抱きしめているという現状に気が付き、慌ててカガリを解放した。
「その・・・言い訳になるけど・・・してもいいか?」
真っ赤になって視線を逸らすアスランに、カガリは頷いた。やがてチラチラとカガリに視線を送りながらも、朴訥と口を開いた。
「つまり・・・その・・・君があまりにも愛らしかったんで・・・普段と違って意表を突かれた、というか・・・要は、俺が『男』だから、君に対して男としての欲が耐え切れそうになくって・・・それで・・・
カガリはその告白をキョトンとして聞いていたが、反芻するうち、アスランの意図したかったことが分かり、アスランの赤面があっという間にカガリにも伝染した。
「ほ、ほ、ほんとゴメンッ!!要は、私が「誘ってた」ように、なっちゃった、ってことだよな!?わ、私っ、何てふしだらな―――」
「いや、カガリが悪いんじゃなくって、俺が―――」
「違う!私が―――・・・あ・・・」
二人はお互いの顔を見やると、一瞬の沈黙ののち、声を上げて笑いあった。
「アハハ。つまりは、お互いのことを思いやっているつもりが、逆効果だったわけだ。」
「ちゃんと正直に言えばよかったんだな。でも、こんなことを言ったら、カガリに呆れられて、それでフラれるかと思ったら、なんか怖くなって。」
「もう、相変わらずのハツカネズミっぷりだなーお前。そんなことで嫌いになるわけないだろ?むしろ、私のこと、そこまで大事に思ってくれて、ありがとう。すごく嬉しいぞ。」
「よかった。」
解放された重圧に、心の底に澱んでいたものがすっかり消えた感じだ。そうしたら、もっとアスランと距離が縮んだ気がする。
心の中が(ホワ)っと温かくなって、自然と向ける眼差しは愛おしくなる。
それはアスランも同じだったみたいで、熱を持った視線が注がれている。
心だけじゃなく、体まで距離が縮まって、自然と唇が落ちてくる・・・
と思ったら
<コツン>とおでこがくっついた。
「ごめん。今キスしちゃうと、多分・・・歯止め効かなくなりそうだから。」
「うん・・・」
微笑んでそっと目を閉じる。
大丈夫。気持ちが通じ合った今なら、どんな触れ合いであっても、嬉しい・・・

「はぁ~何とかうまく行ったみたいだね。『雨降って地固まる』ってヤツかな。」
「フフフv 一件落着みたいですわね。」
両手を双眼鏡のようにして覗き込んでいる、いや、見守っているのはもちろんキラとラクス。
「全く、最初にアスランに聞いたときは『これで本当に恋人同士なの?』って思うくらい初心で恋愛偏差値低すぎ、って思ったけど。カガリをもっとちゃんとリードしてくれるような気概がないと、僕としては認めたくないけどね。」
「まぁ、キラったら。でも、それがお二人の成長なのでしょう。」
「そうかな~」
いささか不満げなキラの表情はあえて見て取らず、ラクスは目を細めて二人を見やった。
「お互いのことを想ってやったことが、実は相手には上手く伝わらなかった。頑張ったのに、勇気を出したのに、相手にそれが求められなかったとき、不満が溢れて喧嘩になって、それで仲たがいしてしまうようであれば、そこまで。恋人どころか人としても成長しないままになってしまいますわ。でもアスランとカガリさんはちゃんとご自身の思いの押し付けだけでなく、自分の悪いところを正直にお話しされて、そんな欠点も含めてなお、お互いを想いあっているのです。素敵ではありませんか。恋人としてだけでなく、今後伴侶を得ることになるのであれば、お互いの欠点も含めてよく知りあわないと。いいところだけ見ていては、いつかボロが出たとき、愛が覚めかねませんもの。」
「『伴侶』って・・・『結婚』!?ダメだよラクス!まだそんな先の話―――」
「『先』ではありませんわ。」
「え?」
普段キラの話をラクスが途絶えさせることはない。しかし、それでも尚、ラクスはキラの言葉を遮った。
「ラクス・・・」
キラは驚きラクスを見た。
「『先』・・・ではないのです。」
二度同じ言葉を口にしたラクス。その表情はいつもの柔らかさと打って変わって、何か厳しいものを含んでいた。
この場も誰もが知らない、ラクスと・・・そして水着を選んでいたあの時フレイが感じた不安を。

***

すっかり日も落ちた浜辺に、昨夜と同様、淡い天の川がゆったりと流れていた。
「日が落ちたら、結構海風も涼しくなってきたね。」
「あぁ、もう夏も終わるな。」
呂地の浅葱色の浴衣を着たキラと、自分の髪と同じ藍の浴衣姿のアスランが天を仰ぐ。と
「早くいかないと始まっちゃうよ、ラクス。」
「あらあら。慌てますと下駄で転んでしまいますわよ、カガリさん。」
男二人が振り向けば、そこには髪を結いあげ、玉簪で軽く髪を止めた、アスランと同じ藍の地に大輪の朝顔が描かれた浴衣地のカガリ。そして同じように白絣に金魚の泳ぐ浴衣姿のラクス。
「あー!二人とも可愛い 昼間の水着も可愛いけど。ね!アスラン!」
「あぁ。すごく似合ってる。」
「・・・今度はちゃんと言えたようですわね、アスラン。」
ニッコリと笑顔で急所にミサイルを撃ち込むラクス。だが、動じることなく微笑を返したアスランに、ラクスも内心舌を巻く。
(あらあら・・・こんなに短時間で成長されるなんて。やはりカガリさんのお力はすごいですわね)
「ラクス、何笑っているんだ?」
カガリが横顔に問えば、ラクスは悪戯っぽく笑った。
「もちろん・・・内緒ですわ
「あー、ずるい~!」
むくれるカガリに笑う一同。ようやくいつものペースが戻った。ここからはもちろんCPでの行動だ。
「じゃぁ行こうか、カガリ。」
「うん!」
アスランが差し出した手を、カガリは迷うことなく取った。

<パーン!パパーン!>
天の川岸に大輪の花が咲き散った。
「すごーい!こんな近くで花火、初めて見た!」
カガリが歓声を上げる。
この日の夜、島の北端にあるホテル群と町が運営する、恒例の花火大会が開催されていた。もちろん、アスランはチェック済みでそれも含めてこの旅行を企画していた。
砂浜に二人並んで座りながら、夜空の花に歓声を沸かせる。
最も、アスランにとっては隣に咲く花の方が、美しく眩しい。彼女が歓声を上げて喜ぶその姿が、一番の喜びだ。
「カガリ。今回は旅行に来てくれて本当にありがとう。」
「ううん、こっちこそ!・・・あ・・・確かに、ちょっと昨日と今朝は雰囲気悪くしちゃったけど、それはごめん。でもでも、すっごい楽しかった!来てよかったぞ!」
「本当に?」
「うん!」
満面の笑みを咲かせるカガリ。ふと気づけば、砂浜に置いた手に、アスランのそれが重ねられている。
気が付けば、いつの間にか手が重ねられている。自分より大きくたくましいその手は、以前はカガリの細い手をぎゅっと握ろうか、握るまいか、その中間地点でウロウロしている感じだった。
でも、今日は―――いや、多分「今日から」は、こうしてしっかりと重ねてくれるはず。距離はうんと縮まった気がする。いいところも悪いところも、全部含めて・・・
「私は・・・アスランが好―――」
<パーーーーン!>
飛び切り大きな花が咲いた。
「え?何?カガリ今、何て?」
「う~ん・・・秘密だ。」
「カガリ、教えて。教えないと―――」
重ねられていた手が握られたと同時に、強く引っ張られる。あぁ、あの海で引き上げてくれた時と同じ、あの手。
気が付けば、彼の胸の中にいた。
抱きしめられた腕をほんのちょっともがいて顔を上げれば、いつもの・・・ううん、もっと大好きになった人の顔がすぐそこにあって。
花火に照らされたその唇が、ゆっくり重なった。
瞳を閉じれば伝わってくるのは彼の熱。
熱のほてりをより一層感じさせる涼しい海風に、どこか秋の気配が入り混じっていた。
もうすぐ2学期。
また二人が毎日会える、あの学院生活が、すぐそこまで来ていた。

・・・(おわりました 多分)


***


ホンの気まぐれで書き始めたSSでしたが、短く3話ぐらいで終了する予定が、また気が付けば総延長7話ですよ。
お付き合いくださいました方がいらっしゃいましたら、「ご苦労様でした<(__)>」 (8月以内に終わった!ギリギリ!)
全く、水着ごときで大騒ぎした挙句、なんのかんの言って元さやに納まる、という、お約束でしたね。今の高校生くらいだったらもっと進んでいるかもしれません・・・というか、ヘタレのザラと純朴なカガリたんなら、これぐらいが精一杯てなところでしょうか? とりあえず裏テーマの『ザラの悩みと欲望』は書けて楽しかったです(笑) 男子だねv
で、このSS、ずっと(仮)ってついていたのは、実はちょっとあちこちはしょっているのです。本当はもうちょっと細かいところがあったんですが、文字制限があるので、割と削った感じ。まぁなくてもストーリー上困らないので、切ったのですが、今度はいつもの携帯サイトの方に、(仮)のない、原文そのままUPしようかと思います。
・・・それもありますが、今度は学園祭!秋のメインイベントですよ!
さて、この二人に何をやらせようか。・・・しばしその妄想に深けたいと思いますv

コメント
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