うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

B. meets G.

2016年03月08日 00時00分48秒 | ノベルズ
あれは一体何時のことだったのか
幼すぎた俺には、確かな記憶はなかった
ただ―――おぼろげに記憶にあるのは、沈丁花の香り
そして大きな手に引かれて、その香がする大きな庭の赤い屋根の家
同じくらいの子供たちの視線が俺に注がれて

(―――…怖い…)

キュッと強く握りしめた大きな手

ふと―――その手が離れたと思ったら、代わり小さく柔らかな感触
温かなそれの持ち主は、金の髪の少女
琥珀の瞳が屈託ない笑みで俺を包んだ

―――「行こう!今日からお前も私の大事な家族だ!」


『家族』
ずっと心のどこかで憧れていた言葉
それをいとも簡単に与えてくれた彼女
俺は幼心に願った

―――大きくなって、大人になっても…ずっと…永遠に彼女と『家族』でいられますように―――


だが幼い願いなど、努力もなしに神様がそう簡単に叶えてくれるわけもない
新しい『家族』ができて、俺は彼女と離れることになった
嫌で嫌で仕方なかった
彼女と別れるなんて
だけど彼女はそっと俺の背中を押してくれた
彼女の大事なお守りを、身代りに差し出して

***

それからもう十数年
帰国の途に就いた俺たち家族は、久しぶりにこの国の土を踏んだ。
政界の重鎮となっていた父は社交に忙しく、二世として俺もそれに同行せざるを得なくなっていた。
二世、か…本当の親子じゃないのに
「ザラ様のご子息は本当にご立派で…」
「あの名門『ZAFT高校』に首席合格ですって!?」
「頼もしい跡継ぎですわね。」
「将来が楽しみで。」

…正直ウンザリだ。
あからさまに色目を使ってくる若い女性
父の名声にすがりたいがゆえに、娘や息子を無理矢理友人扱いさせようとする名士たち
全ては『ザラ』の名に近づきたいが故

皆、一体俺自身の何を見ているんだ…?

緩やかなワルツが流れる、今時古めかしい舞踏会じみたパーティ
(…来るんじゃなかった)
壁に寄り掛かり、ウェイターが銀の盆に乗せた、細いシャンパングラスを一つ手に取り、そっと口に運ぶ
苦みを帯びた炭酸が、仄かな香りと共に喉を滑り落ちていく

この香り―――

そういえば、この会場に面した庭から、仄かに懐かしい香りが漂ってきている
あぁ…これは沈丁花の香り
あの時、彼女と初めて出会えた時と同じ―――
今日は『3月8日』。そうか…季節はもう春なんだ。
どこか暖かみを含んだそよ風が心地いい
少し風に当たってくるか。気分がまぎれるかもしれない。
そう思って、庭に視線を向けた時だった
小さな女の子が泣いていた。風にあおられた帽子が飛んでしまったらしい…

だが、その悪戯な風が、俺にもう一度春を連れてきた

「大丈夫だ!任せろ!」

「―――っ!?」
耳に突然届いた、忘れがたい声。
慌てて視線を上げたその瞬間、それは目に飛び込んできた―――

―――モノクロの世界の舞う、金色の蝶―――

ドレス姿に構うことなく、庭に飛びでて、こともあろうかヒョイヒョイと木に登っていく。
木の枝に引っかかっていた、風に飛ばされた帽子を取り、持ち主の少女に笑って手渡す。
「もう飛ばすなよ。大事にしろよ。」
そういって太陽の様な笑顔を見せる彼女。

たちまち彼女を中心に原色に彩られていく。
手からグラスが落ちていくもの気が付かず、俺は彼女に見入る。
あの笑顔、あの仕草、あの声…
10年以上たっても、片時も忘れることができなかった『おひめさま』。
「あの、彼女は…」
足元で割れていたグラスを片づけに来たバトラーに、俺は急く様に尋ねた。
「あぁ、あちらのお嬢様は、アスハ議員の娘さんで『カガリ・ユラ・アスハ』様でいらっしゃいますよ。」
「…『カガリ』…」

ようやく…彼女に会えた―――

「あの…」
自然と彼女に走り寄り、声をかける。
「ん?なんだ?」
ドレスにまとわりついた葉を勢いよくパンパンとはたきながら、彼女の琥珀が俺を映した。
そんな彼女の手を取って、言った。
「よろしければ、一曲踊っていただけませんか?」
途端に周囲がざわめく。
「え?あのザラ様のご子息が、自ら!?」
「話しかけられただけでも名誉なのに…」
「私には言葉もかけられませんでしたのよ。」
驚きと悔しさが入り混じったような雑音など、俺の耳には入らない。いや、入っていたとしても構うもんか。俺が捉えるのは、彼女の声だけだ。
「え、えと…」
琥珀が少々困ったように宙を彷徨う。
俺とじゃ嫌なのか…?
そんな不安が顔に出てしまっていたのだろうか。途端に彼女が懸命に否定する。
「そうじゃないんだが…私…その…上手に踊れなくて…」
はた目にわかるほど頬を赤らめてモジモジとする彼女。そうか、不器用なところは昔のままなんだな。思わず顔がほころんでしまう。
「な、何が可笑しいんだよ!」
「いや、すまない…素直に言ってくれるのはあまり経験がないんでね。」
その変わらなさが本当に嬉しくて、安堵の笑みが溢れてしまうのを、彼女はやや機嫌を損ねたのか、感情溢れるその視線をじっと俺に向けている。
「大丈夫、俺がきちんとリードしますから。」
そういって、勝手に彼女の手を引き、ホールに連れ出す。
なぁ、気が付いてくれたか?
あの時、君が一生懸命引いてくれた、この手。
大きく、強くなっただろうか。君を守れるほどに。
少しぎこちないステップを、軽く支えてリードする。躓いた彼女がストン、と俺の胸に落ちてきた。
「あ、す、すまない///」
「いや…」
柔らかな金髪。華奢で柔らかな腰。ふわりと鼻をくすぐる彼女の香り。
このまま両腕をその背に回し、ずっと抱きしめてしまえればいいのだが
でも…今はまだ早い
彼女が、俺に気が付いてくれなければ
「あの…」
頬をやや赤らめ、やや俯きかげんな彼女が小さな声で言った。
「んと…もう曲終わったから…その…手を…」
「あ…」
あまりに夢中で気づけばずっと握りしめていた。

―――離したくない

その想いが、必死に彼女の手を離さず繋ぎ止めようとする。
だが、春の蝶はスルリとその手をすり抜けた。
スッと一歩下がって礼をする。彼女も優雅な所作を身に着けたのか、そっとドレスをつまんで礼をした。
もうこれで、終わってしまうのか
空を掴んだままの俺に、だが、優しい声が落ちてきた。
「私は『カガリ』だ。お前は?」
屈託のない太陽のような笑顔
俺にはまだ君を捕まえるチャンスがあるだろうか
笑顔の彼女はまだ俺に気が付いていない。名前を言えば思い出してくれるだろうか。
「アスラン。」
彼女は一度コクンと頷き、そのまま下がろうとした。
その彼女とすれ違いざま、俺は今はまだ精一杯の想いをこめて、彼女の耳元に囁いた。

「…また会えたね…」

「え?」

彼女の視線を背に感じながら、俺はホールを後にした。

***

4月―――

アスランはエターナル学院の2-Aのドアをくぐった。
「えー、突然だが転校生だ。お前ら、きちんと面倒見てやれよ。…と、その前に、自己紹介だな。」
担任教師のムゥが促す。
「『アスラン・ザラ』です。」
教室を見渡せば…あぁ、いた。彼女だ。廊下側の真ん中のあたりであの大きな琥珀がじっと俺を捕えている。
「んじゃ、ザラの席は―――とりあえず空いてるところってことで、窓際の後ろ…って、あれ?」
ムゥの声より先にアスランは歩き出していた。しかも、何故か廊下側。
そしてカガリがふと顔を上げる。
「あれ?お前、この前の…」
翡翠と琥珀が一瞬交わり、通り過ぎる。
その瞬間、カガリの耳に春風がそっと小さな彼の囁きを運んできた。

「今度こそ、君を―――」

―――君を捕まえるよ…


・・・Fin.

――――――――――――――――――――――――――――――

今日は3月8日『アスカガ運命の出会いの日』記念です。
今年は本編設定ではなく、携帯サイトの『高校生シリーズ』から『運命の出会い』をイメージしてみました。
(もしよろしければ、こちら
をご一読(・・・といっても長いですが^^;)いただけますと、よりわかりやすいかと)

二人の出会いがなければ、かもしたも今こうしてここにはいなかったですね。
初めての出会いから13年・・・こんなにも長く愛されるCPは素晴らしいと思います。

二人の出会いに感謝☆

そしてこれからもずっと二人が幸せでありますように・・・

コメント
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