『ポケモン』の登場からというもの、テレビゲーム、特にRPGというジャンルの中で作中の「物語」のプレゼンスの低下を感じます。
古来、RPGには『ウィザードリー』にしろ「設定」や「世界観」ほどしかありませんでしたが、日本にRPGが輸入された際RPGになじみの薄かったユーザーのために導入として『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』シリーズが壮大な「物語」を用いたことで、「物語」重視のRPG(海外ではJRPGとも言われる)というジャンルが成立しました。
ところがこの壮大なシナリオを軸としたRPGに大して『ポケモン』には壮大なシナリオはありません。「ポケモンマスター」になるという目標が一応設定されている物のその物語は「ポケモン」の世界観を理解するための導線でしかありません。ではそこに何があったかといえば現実のプレイヤーとの対戦でした。自らが育てたポケモン同士を対戦させてゆくことこそがその物語の先にあったのです。
『ポケモン』というツールを用い、共有することで他のプレイヤーとの間で新たなコミュニケーションが可能になりました。そのコミュニケーションこそが『ポケモン』のメタ的な「物語」だったのです。それまでのRPG取り分け大作RPGのシナリオの壮大さはそのシナリオをプレイヤー同士で共有するものでした。例えば「ロト」の物語の壮大さは多くの人の心をつかみました。ですが壮大な「物語」を軸とするRPGはそのような種類の新しい(古い?)RPGと比してプレゼンスを下げてきています。
ハードの普及台数や稼働台数、携帯電話のなど新しいメディアの普及などさまざまに要因が考えられるので一概にその傾向として断定することは出来ませんが、売り上げの数字だけを見れば『ファイナルファンタジー』は『Ⅶ』の390万本を頂点として、『ドラゴンクエスト』も『Ⅶ』の415万本を頂点としてその売り上げは減少傾向を見せています。
一方の『ポケモン』は初期の『赤・緑』の822万本を頂点として金・銀』は717万本、『ルビー・サファイア』は534万本と傾向として減少してますが、ニンテンドーDSでリリースされた『ダイヤモンド・パール』は587万本と当初の勢いは失ったものの、これをして未だに人気シリーズとして「物語」の壮大さとは一線を画す新たなジャンルとして成立したといえると思います。
この『ポケモン』の流れとは違ったところで「物語」を必要としないネットを前提としたPCでMMORPGが登場します。言うまでもなく世界中で大流行しました。で、やっぱり『モンスターハンター』です。出自としては、プレイステーション2用のネット対応アクションRPGで、売り上げ的には中堅タイトルクラスでした。デビュー作、『モンスターハンター』は29万本、マイナーチェンジ版の『G』は30万本という数字にとどまってました。
ところがハードをPSPに移してから状況が一変します。PS2では据え置き機であったためにネット対応でしたが、PSPでは携帯機ということもあってネット対応ではなく、PSP同士による直接通信(アドホックモード)での通信に限られました。オフラインでも楽しめますが一人で楽しめるほどの「物語」を持たないため、やはり協力プレイが必要ですがネット非対応であるが故に、協力プレイをする場合は実際に他のユーザーとコミュニケーションをとる必要に迫られます。
注目すべきはやはり「物語」の不在とコミュニケーションです。小さな”クエスト”と呼ばれる依頼を淡々とこなしてゆくだけといえばそれだけの内容のアクションRPGですが、『ポケモン』と違い対戦するのではなく、一人では倒せない敵を他のプレイヤーと協力して倒すという違いこそあるものの、『ポケモン』と同様にコミュニケーションツールとしての役割が人気の理由となったようです。
据え置き機で30万本程度だった売り上げ本数が『モンスターハンターポータブル』でいっきに2倍以上の70万本。これは単純にシリーズ自体の人気があがったかといえば、この後PS2で発売された『モンスターハンター2』は前作の2倍近くを売り上げたものの58万本にとどまりました。そしてPSPでの第2弾『モンスターハンターポータブル2nd』はPSP初のミリオン越えで前作の倍以上164万本を売り上げ、その続編『モンスターハンターポータブル2nd G』はまたその倍以上の330万本を売り上げました。
で、やはり『ドラゴンクエストⅨ』です。これまで「物語」を読ませてゆく、大人のプレイにも耐えうる強度を持った「物語」こそが『ドラクエ』の矜持でした。それが一転して、ネットワークを前提としたRPGとして設計され、結局はアドホック通信の協力プレイのみとなるものの通信を前提に設計され、プレイヤーや旅の仲間もユーザーによってクリエイトするというシステムになっています。その当然として「物語」はこれまでよりも影を潜めています。
「「自分」で紡ぐ物語へ~「ドラゴンクエストⅨ」の堀井雄二さんに聞く」(朝日新聞 東京版朝刊 2009.07.14)
86年に生まれ、日本にロールプレイングゲームという言葉を根付かせたドラクエだが、シリーズが進むにつれ、「作者が用意した物語をなぞっているだけ」といった声も聞かれるようになった。「Ⅸ」ではむしろ、作者(堀井さん)の物語は遠景に去り、ドラクエの世界のなかで「自分」の物語を紡ぐ感覚が増している。 「ドラクエへの多様な思いを受け止めるため、自分がやりたいときにやりたいことをできるシステムにしたかった」 「Ⅸ」は、人のために働く天使を主人公とする本筋のほかに「クエスト」というシステムを導入した。1時間程度で終わるにミニシナリオ。「やらなくても物語は終えられるものですが、やった方が得。じっくり物語を進める日と、短時間でクエストだけでも、という遊び方を選べます」(上記記事より一部引用)
先ほど述べたような「物語」を重視した『ドラクエ』から『ドラクエⅨ』への変化はある種時代の要請のようです。また『Ⅸ』についてはネット上で激しい批判にさらされてますが、「物語」を求めたユーザーと『ポケモン』や『モンハン』のようなコミュニケーションツールを志向した『Ⅸ』との齟齬によるものかもしれません。レビューの部分でほとんどアドホック通信による協力プレイに言及されていないのも気になります。全体として意図した遊ばれ方をしていないのかも。
古来、RPGには『ウィザードリー』にしろ「設定」や「世界観」ほどしかありませんでしたが、日本にRPGが輸入された際RPGになじみの薄かったユーザーのために導入として『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』シリーズが壮大な「物語」を用いたことで、「物語」重視のRPG(海外ではJRPGとも言われる)というジャンルが成立しました。
ところがこの壮大なシナリオを軸としたRPGに大して『ポケモン』には壮大なシナリオはありません。「ポケモンマスター」になるという目標が一応設定されている物のその物語は「ポケモン」の世界観を理解するための導線でしかありません。ではそこに何があったかといえば現実のプレイヤーとの対戦でした。自らが育てたポケモン同士を対戦させてゆくことこそがその物語の先にあったのです。
『ポケモン』というツールを用い、共有することで他のプレイヤーとの間で新たなコミュニケーションが可能になりました。そのコミュニケーションこそが『ポケモン』のメタ的な「物語」だったのです。それまでのRPG取り分け大作RPGのシナリオの壮大さはそのシナリオをプレイヤー同士で共有するものでした。例えば「ロト」の物語の壮大さは多くの人の心をつかみました。ですが壮大な「物語」を軸とするRPGはそのような種類の新しい(古い?)RPGと比してプレゼンスを下げてきています。
ハードの普及台数や稼働台数、携帯電話のなど新しいメディアの普及などさまざまに要因が考えられるので一概にその傾向として断定することは出来ませんが、売り上げの数字だけを見れば『ファイナルファンタジー』は『Ⅶ』の390万本を頂点として、『ドラゴンクエスト』も『Ⅶ』の415万本を頂点としてその売り上げは減少傾向を見せています。
一方の『ポケモン』は初期の『赤・緑』の822万本を頂点として金・銀』は717万本、『ルビー・サファイア』は534万本と傾向として減少してますが、ニンテンドーDSでリリースされた『ダイヤモンド・パール』は587万本と当初の勢いは失ったものの、これをして未だに人気シリーズとして「物語」の壮大さとは一線を画す新たなジャンルとして成立したといえると思います。
この『ポケモン』の流れとは違ったところで「物語」を必要としないネットを前提としたPCでMMORPGが登場します。言うまでもなく世界中で大流行しました。で、やっぱり『モンスターハンター』です。出自としては、プレイステーション2用のネット対応アクションRPGで、売り上げ的には中堅タイトルクラスでした。デビュー作、『モンスターハンター』は29万本、マイナーチェンジ版の『G』は30万本という数字にとどまってました。
ところがハードをPSPに移してから状況が一変します。PS2では据え置き機であったためにネット対応でしたが、PSPでは携帯機ということもあってネット対応ではなく、PSP同士による直接通信(アドホックモード)での通信に限られました。オフラインでも楽しめますが一人で楽しめるほどの「物語」を持たないため、やはり協力プレイが必要ですがネット非対応であるが故に、協力プレイをする場合は実際に他のユーザーとコミュニケーションをとる必要に迫られます。
注目すべきはやはり「物語」の不在とコミュニケーションです。小さな”クエスト”と呼ばれる依頼を淡々とこなしてゆくだけといえばそれだけの内容のアクションRPGですが、『ポケモン』と違い対戦するのではなく、一人では倒せない敵を他のプレイヤーと協力して倒すという違いこそあるものの、『ポケモン』と同様にコミュニケーションツールとしての役割が人気の理由となったようです。
据え置き機で30万本程度だった売り上げ本数が『モンスターハンターポータブル』でいっきに2倍以上の70万本。これは単純にシリーズ自体の人気があがったかといえば、この後PS2で発売された『モンスターハンター2』は前作の2倍近くを売り上げたものの58万本にとどまりました。そしてPSPでの第2弾『モンスターハンターポータブル2nd』はPSP初のミリオン越えで前作の倍以上164万本を売り上げ、その続編『モンスターハンターポータブル2nd G』はまたその倍以上の330万本を売り上げました。
で、やはり『ドラゴンクエストⅨ』です。これまで「物語」を読ませてゆく、大人のプレイにも耐えうる強度を持った「物語」こそが『ドラクエ』の矜持でした。それが一転して、ネットワークを前提としたRPGとして設計され、結局はアドホック通信の協力プレイのみとなるものの通信を前提に設計され、プレイヤーや旅の仲間もユーザーによってクリエイトするというシステムになっています。その当然として「物語」はこれまでよりも影を潜めています。
「「自分」で紡ぐ物語へ~「ドラゴンクエストⅨ」の堀井雄二さんに聞く」(朝日新聞 東京版朝刊 2009.07.14)
86年に生まれ、日本にロールプレイングゲームという言葉を根付かせたドラクエだが、シリーズが進むにつれ、「作者が用意した物語をなぞっているだけ」といった声も聞かれるようになった。「Ⅸ」ではむしろ、作者(堀井さん)の物語は遠景に去り、ドラクエの世界のなかで「自分」の物語を紡ぐ感覚が増している。 「ドラクエへの多様な思いを受け止めるため、自分がやりたいときにやりたいことをできるシステムにしたかった」 「Ⅸ」は、人のために働く天使を主人公とする本筋のほかに「クエスト」というシステムを導入した。1時間程度で終わるにミニシナリオ。「やらなくても物語は終えられるものですが、やった方が得。じっくり物語を進める日と、短時間でクエストだけでも、という遊び方を選べます」(上記記事より一部引用)
先ほど述べたような「物語」を重視した『ドラクエ』から『ドラクエⅨ』への変化はある種時代の要請のようです。また『Ⅸ』についてはネット上で激しい批判にさらされてますが、「物語」を求めたユーザーと『ポケモン』や『モンハン』のようなコミュニケーションツールを志向した『Ⅸ』との齟齬によるものかもしれません。レビューの部分でほとんどアドホック通信による協力プレイに言及されていないのも気になります。全体として意図した遊ばれ方をしていないのかも。