亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

松尾家の嫁 番外編

2018-05-19 07:34:04 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
鞠は本当にユリとも仲良くやっていた。
だが、シンの実の母ジュリとは
ろくに会話を持ったこともない。
古くからの華道と陶芸の大家
花房家は独特な伝統とかありそうで
純粋に女子として腰が引ける。

「ねえ、うちに遊びに来ない?」

ある日、ユリが屈託なく提案してきた。

「花房さんのおうちに?」

明らかに躊躇う鞠。

「鞠ちゃんはあの化け物屋敷!松尾の家には
平気で出入りするのに。何ビビってんの?」

マナーのマの字も覚束ないユリが
自信満々で笑い飛ばすが、鞠の心は曇るばかりだ。

「ごめん。ユリちゃんは、特に何も言われないの?」

「何を?」

あんまりにも悪びれないユリに
小さくため息で応じた鞠だった。





花房の別宅(これはまだユリが花房の跡取りとなる
ことを認められていないことを示す)に暮らす
ユリと母のジュリである。
別宅とはいえ、お弟子さんも出入りする
れっきとした花房家である。
ジュリはここで初心者から、入ったばかりの
お弟子さんまでを教えている。
だが、友達のいないユリが年中家にいて
品のない振る舞いをするため
この段階でやめる生徒も多いらしい。

「花房のお華や焼き物が好きとかいって。
結局にわかだったんじゃないの?」

やめていく生徒さんやお弟子さんを
ユリはこうして嘲笑うのだった。

ジュリはそれももっともだと思い
真っ直ぐ育ってくれたと満足しているのだ。

親バカだなと鞠は思う。
だが、ユリという娘とつき合っていると
「真っ直ぐ育った」という母の思いも
分からなくもないのだ。
我が儘で、自己防衛本能の過剰なユリ。
口汚い、頭が悪い、立ち居振舞いに品がない
三拍子揃ったユリは実際、華道なんかには
明らかに向いていない。

作法なんて馬鹿馬鹿しい
お花が綺麗に咲いてるんだから
いいんじゃないの?
ろくろが回転してる時点で何を作っても一緒よ

こんなこという娘が適性をどうのという
以前の問題だと思うんだけど。

でも、世の中を達観し悟りを開くレベルで
改めてみると、自然の摂理にかなった考え方だと
捉えることもできるのである。

伝統的な家柄や組織にありがちな
汚い人間関係をユリはいともあっさりと切り捨てる。

「もしユリちゃんが花房の跡取りになったら
すごい革命的だって話題になるよね。」

「なるのよ。って言うかあたしはなりたくないのに
なるしかないの。仕方なしになるのよ?」

ユリは本当に悪びれない。

「木曜日ならお教室もお休みだから。
ここにはママとあたししかいないわ。
もつ鍋作ってよ!きゃあ、楽しみ!!」

鞠はまだOKしていないが
ユリのはしゃぎように鞠は断りきれなくなった。







「すみません。シンは仕事で。」

鞠はとらやの羊羮をおもたせに、花房の家を訪ねた。
玄関先でジュリとユリが出迎えてくれる。

「?兄貴は呼んでないからいいのよ~」

ユリには分からないようだ。
だが鞠には痛いくらい分かる。
ジュリは自分にそっくりな顔をしながら
結婚したばかりの頃のシュウに
立ち居振舞いがそのままの息子を
とても愛している。
シュウとはもう、会うことは叶わないが
シンとはたまに会う機会が設けられていて
それが切ないほどに楽しみなのである。

「鞠さん。ありがとう。」

それを受け入れている鞠を、ジュリはありがたく
思っているのである。

だいたいシンは、ジュリを産みの親とは
認識しているのだが、母としては正直実感がない。
ほとんどが『気の毒なひと』という思いであり
優しくしてやらないと、と思っているだけなのだ。
こんな事情をすべて飲み込んでいる鞠だが
ただ、ただ。気の毒なひとだと鞠も思うのだ。

「これ、とらやの羊羮です。
シンがお義母さんにって。」

土地柄、和菓子なんかが貴重な品なのだが
鞠の実家の近所には、腐るほど和菓子が売られている。
母に頼んで入手してもらい、持参したのである。
もちろん、シンは関与していない。

「嘘でも嬉しいわ。ありがとう。」

ま、ジュリにはお見通しらしい。
鞠はこのお義母さんをなかなかのしたたか者だと
評価しているのだが、これなら松尾の家でも
もう少し自分の居場所を作れたはずだと
不思議に思っている。

「鞠ちゃーん!もつ鍋、もつ鍋ぇ!!」

ユリはきっと小学生から成長が止まっている。
もう23になるというのに。
最初は呆れたが、つき合ってみると面白い。
鞠は持参したエプロンを着け、台所に向かった。




「美味しいわね、このお鍋!」

鞠のもつ鍋をジュリも喜んで食べてくれた。

「あの家にいた頃には絶対に食べられなかったもん。」

ユリは相変わらずこうした庶民的なメニューに
一種の憧れを抱いていて、何を作っても
美味しそうに平らげるので可愛い。
ジュリの口に合うかが心配だったが
さすが母娘、舌も似ていたようだった。

「そう言えば、鞠ちゃん。いつ生まれるんだっけ?」

ユリもジュリも鞠の妊娠を喜んでくれている。
何しろ人間だからお産がどうなるのか
妊娠期間なんかもピンとこないらしい。

「純血のヴァンパイアと人間の間の子は
妊娠期間が長くて。一年半お腹にいるんですって。」

あと一年ちょっとで生まれてくるはずなのだが、
これは最大二ヶ月の誤差が出るという。
予定日より二ヶ月早くても遅くても、正常分娩で
子どもの大きさは変わらないことが多い。
期が熟せば生まれる、という目安だという。
ヴァンパイアの血が入っている赤ちゃんが
未熟児で出てきてしまうことは殆どないという。

「一年半?!産むの忘れてない?って感じね!」

「これ、ユリ!」

「でも妊娠6ヶ月だけどやっと胎動が感じられる
程度なんで。妊娠してるの忘れそうですよ。」

「あんた、もっと自己主張しなさい?」

ユリは鞠のお腹に軽く手を添えて
円を描く要領で撫でた。




女同士でおしゃべりして
鍋をつついて
デザートにチョコフォンデュして
ファッションショーが始まって
そしたら何故かランウェイに見立てた廊下に
ジュリが生け花を並べ出して
母親の生けた花の間をハイヒールで
ガツンガツン歩くユリを鞠が動画に収めて
大笑いしながら一日が過ぎた。

「楽しかった!」

「こんなに笑ったの30年振りかも!」

「重いわママ!!」

鞠が帰り支度を始めるとユリがまとわりつく。

「えー鞠ちゃんもう帰っちゃうのー?」

「シンの晩御飯作らないとね。」

ジュリも鞠を引き留める。

「泊まっていけばいいのに。」

「シンが寂し死にしちゃいますから。」

二人は何だかんだとお土産を持たせてくれる。
お菓子やユリがファッションショーで
身につけた服やアクセサリー
ユリがデザインしてジュリが焼いた
ティーカップと小鉢
引っ越しが迫っていたけど
鞠はありがたくすべていただいてきた。
花房のドライバーは全部車に積み込み
シンのマンションの部屋まで
全部運び込んでくれた。

奥様とお嬢様があんなに楽しそうなのを
初めて拝見いたしました。

これだけ言い残して帰っていった。




「……………………荷物をミニマムにしている
最中じゃなかったか?」

シンは少しあきれた顔でため息をついた。

「断れないわ。」

「ふうん。」

シンは鞠がジュリやユリから持たされた
お土産の品々を見ながら笑う。

「お袋もユリも楽しかったんだろうな。」

まるで一貫性のないお土産は、一緒に過ごした
時間がとりとめもなく楽しくて、そんなひとときを
終わりにしたくなかったのだとわかる。

「ありがと。鞠。」

「え?」

「お前を奥さんに出来て、幸せだ。」

シンはまた鞠を抱き上げて、少しの間見つめ合い
唇にキスした。












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