亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

パラレルストーリー 呑み比べ③

2018-10-15 00:51:26 | 美月と亮 パラレルストーリー
俺の、17年下の可愛い彼女が先日
成人を迎えた。
ホテルのバーでカクテルを飲んでも
顔色を変えない彼女は、自分は酒に強く
酔うという体験すらしたことがない
と告白したのだ。
そこそこ長く生きて、色んな奴と酒を
酌み交わしてきたけれど、そんなことを
いうやつにはお目にかかったことがない。

半信半疑でいざ、きちんと酒量を見極め
ようと一緒に呑みはじめたところ
あっけなく潰された。
顔色ひとつ変えなかった彼女は
俺に言ったのだ。

はじめ君の方が強いね。

今度、一緒に飲もうよ。

俺は今まで、自分は酒には強い方だと
思ってきた。呑むのは好きだし、滅多に
乱れはしないし、酔い潰れるようなことは
一切なかった。
それが二十歳になったばかりの
可愛らしい女の子と同じピッチで
同じ酒を呑んでいたら、自分が先に
酔い潰れたんだ。
ウイスキーを一人で一本開けたのは
生まれて初めてだったが、彼女は俺を
振りきってから二本目を呑み始めていた。

この女に負けたことは認めよう。
だが、そのはじめとかいう何処の馬の骨かも
分からないようなやつに負けた覚えはない。

俺は、勝負を受けてたつ。
はじめとやらには負けん。

そう言ったことまでは覚えているんだけど
その先の記憶がない。
その夜、どうやったもんだか
自分の部屋まで帰りつき、目覚めれば
彼女に腕枕をしていた。
帰りついた記憶がないのはわかるが
恋人と床をともにしたのを忘れちまうとは
男として如何なもんかと自己嫌悪に陥った。

彼女は恥じらうように微笑むと
昨夜は激しかったと切なげにうつむいた。
んふ。そうか。なら良かった。
その後、二日酔いの俺に熱い味噌汁と
梅粥を出してくれた。
甲斐甲斐しい彼女に改めてムラムラと
興奮しながらも俺は出勤した。

教師である俺は、子供たちと接する仕事を
している。朝っぱらから酒臭い息を
吹き掛ける訳にはいかないから、姑息な
手段としてマスクに頼ることにした。
土曜日なので三時間頑張れば授業は終了だ。

なんとか悟られずにお昼を迎えた。
土曜の午後にはいつもと違うやつが
校内をうろつくようになる。

「あれ?亮さん風邪?裸で眠ってた
からじゃないの?」

こいつは俺の彼女の幼なじみだ。
今は大学の柔道部に所属していて
うちの高校の柔道部のコーチングをしに
毎週土曜日にやって来るのだ。

「美月は大丈夫なんですか。」

その隣に並ぶデカイ男。
俺の彼女とは、この学校でクラスメート
だった。つまりは俺の教え子である。
柔道部のOBであるこいつが、土曜日毎に
コーチングをしにやってくるようになり
そのうち傍らに恋人を伴うようになった。

「ああ。あいつのことは俺が温めてる。」

「ごちそうさまです。」

色々と事情があってこの二人には
俺と彼女のことはバレている。
今や関係のない話だが、教え子である
彼女にまんまと落とされた俺は
校内でもかなり巧妙に隠れて愛し合い
ついに卒業までの一年間をやり過ごした。

「よう。亮くん。」

「あ、富士野先生。」

柔道部の顧問、富士野先生は痩せぎすな
一見すると大正時代の小説家みたいな
容姿なのだが、頼りなく見えてかなり
柔道も強いらしい。かといって本人は

いや、若い頃柔道部にいただけで
強いわけではない
辛うじて黒帯なだけだよ
子供たちを指導するのは好きだから
引き受けたまでだ

などと能ある鷹の爪隠しなのか
本当に自身の実力はそこそこなのか
とにかく飄々とかわすだけで全く読めない。

しかもこの人は、運動部の顧問として
コーチングをしていても体育教師では
ないのである。

俺と同じ、社会科の教師で
専門は地理である。

「あれ?中島君を知ってるのかい?」

「美月の幼なじみなんですよ。な?」

中島は艶やかに微笑む。
こいつは違う高校に通っていたが
中学時代にライバルだった権藤と恋仲になり
片時も離れたくないとコーチングに
ついてくるようになったのだ。
それを許している富士野先生の器のデカさも
特筆すべきものだが、なんともしたたかな
男なんである。

「それでは、また来週。」

「ありがとうございました。」

武骨で大柄な権藤と細くて小柄な中島が
遠ざかるにつれて寄り添う様子を見送り
俺はひとつ溜め息を落とした。
富士野先生はにっこりしながら
俺の顔を覗き込んだ。

「そのマスク。もう外して大丈夫だよ?」

「え?」

「昨夜は深酒しちゃったんだろ。」

臭ってたのかな。
俺は今度からはブレスケアも
併用しようと思った。
まあ、次に酔い潰れるような予定は
ないんだが。



あれから一週間が経った。
同じ土曜日を迎えて、俺はざわつく胸を
努めて鎮めるように深呼吸をする。
今日はいよいよ、あのはじめと
酒を呑むのである。
彼女はふわふわと(酔ってもないのに
可愛いんだから)嬉しそうに笑う。

はじめ君と亮はきっと気が合うよ。

まあ、俺としては蹴散らす予定の
はじめ君と仲良くするつもりなんか
さらさらないんだけど。
彼女の可愛さについ、頷いた。
馬鹿だな、俺は。



土曜の午後を、社会科準備室で
小テスト問題などこねくりながら
ゆるりと過ごした。
そろそろ学校を出ようと
机から立ち上がる。
準備室をでてロッカーへ向かう途中
富士野先生と行き会った。
いつも物静かで口元に微笑みをたたえた
穏やかな人なのだが、今日はまたご機嫌だ。
つい、問いかける。

「これから、何かあるんですか。」

俺の無遠慮な質問にも嫌な顔見せず
なおも微笑みながら答えてくれた。

「今夜は小さな恋人から誘われた。
朝から楽しみでワクワクしてるんだよ。」

正直、俺は驚いた。
富士野先生は殊更に女性と縁がない。
プライベートを知っているわけではないが
そんな匂いが一切してこない人なのだ。

彼は一度結婚に失敗しているらしい。
俺が新任でこの学校に来たときには
もう奥さんとは別れた後だったので
どんな女性だったのかはわからない。
富士野先生からは、その元奥さんのことも
他の新しい女性のことも聞いたことがなく
浮いた話はほぼ、この10数年の間では
初めての話題だったのである。

「小さな、恋人とは?」

俺は控えめに訊ねた。

「若い頃、お世話になった方の娘でね。」

「おつき合いされてるんですか?」

富士野先生は嬉しそうに笑う。

「とにかく、大事な娘なんだ。」

俺はそれ以上は訊かなかった。
大事な娘。俺にもいる。
こんなに大事に想っているのに
そいつは俺より、他の男の方が強いと言う。
今夜はそんなやつをこてんぱんにして
俺は愛を取り戻すのだ。
あれ。そんな一大事だっけ。

富士野先生と別れて、俺は帰り支度をする。
今夜はまた、俺が潰された居酒屋で
はじめと対決する。
潰された店での対決は気分的に、その、
ちょっと縁起でもないなあと思うが

「だって。あれだけのお酒を仕入れて
くれてるお店なかなかないよ?」

彼女にはこう言われて抗議を却下されている。
家族のいきつけの居酒屋なんだとか。
俺は素直に諦めた。
要は俺が負けなければいい話だ。
気を強く持てよ亮。

俺がロッカーから出て職員玄関へ向かうと
また富士野先生に会った。

「先生、もう上がりですか?」

「君も?」

「恋人とはどこでお待ち合わせで?」

「駅前。西口に5時。」

「西口。5時。」

「そう。」

俺も、同じ場所同じ時間に待ち合わせだ。
奇遇ですねとしばらく一緒に歩く。
夕方駅前で、というシチュエーションだと
よくある待ち合わせだから
何とも言えないんだけど
何でか胸騒ぎがする。

え?

「っと。富士野先生。下のお名前って
なんでしたっけ?」

「なんだい?いきなり。和彦だけど。」

「は、はあ。そうでしたね。」

富士野先生は怪訝そうに眉根を寄せたが
すぐに前を向いて歩き出す。

駅につくと、もう美月が待っていた。

「あ!もう、バレてる?」

美月は俺と富士野先生の間に割って入り
まず、俺の腕に思い切りすり寄って
肩にほほを寄せた。

「美月。バレてる、って?」

俺は美月の腰を抱いて、癖っ毛気味
ふわふわの髪にキスした。

「ちょっと勘づいてたみたいだけど。」

横で富士野先生がいつもよりだいぶ
いたずらっぽい微笑みで俺たちを見ている。

「はじめ、はアダ名なんだ。」

酒の席で、早く呑みたいがために
さ、はじめましょう!と言っていたら
いつの間にか「はじめ」と呼ばれるように
なってしまったのだという。

「美月は俺のお嫁さんになるって
言ってくれてたのになあ。」

「5つの時の話だね。」

なるほど、小さな恋人だね。





「正直さんは、大学の柔道部の先輩でね。」

美月の親父さんと富士野先生は
今でもたまに一緒に呑む仲なのだそうだ。

「俺が元妻と別れたばっかりの頃に
こいつは膝に座って胸に抱きついてきて。
かなり積極的に誘惑してきたんだよ。」

「誤解を招くような言い回しやめてよ!」

美月は男を口説くときには
膝に座り、胸に抱きつくのだ。
俺は思い出して、くっと胸が苦しくなった。

「よかった。その時お前が富士野先生に
取られてなくて。」

俺がよほど真剣にそう思ってしまったのが
伝わったんだろう。
美月は切なそうな顔をしたが
富士野先生は大笑いを始めた。

「よかったよ!あの時に手を出さなくて!」

「もう!はじめ君のイジワル!」

美月は向かい合って座る
富士野先生の前に乗り出し
頬っぺたを摘まんで斜めに捻り上げた。

「ふぃれれれ!ひゃめへふへ!」

「そういうところじゃないの?
澄夏さんが出てっちゃったのは。」

「美月。それは言わない約束だよ。」

澄夏さんとは。
察するに奥さんなんだろうな。
や、元奥さんか。 

「凄く綺麗な人なんだよ。」

「美月、知ってるの?」

「だって。すぐ近所に住んでるもん。」

え?

「美月。もう、その話は、さ。」

「澄夏さんは、うちにもよく来るよ。
もうそのたんびに和彦さんとやり直したい
って言うんだけど、知らないはずないよね」

美月はずっと腹に据えかねていたようだ。
そんな元妻をほったらかしにしながら
何かと言えば、小さい頃に無邪気に
懐いていた自分を引き合いに出して
現実から目をそらすのかと
完璧説教モードである。

「美月。もう、やめな。」

「亮。だってはじめ君はいつだって…」

「俺は詳しいことは知らないよ。でも
お前がずけずけ言っていいことじゃない。」

俺はすぐに美月の肩を抱く。

「でも、そんな風に熱くなっちゃうお前が
俺は堪らなく好きだよ。」

美月は俺の肩にもたれて
くふんと鼻を鳴らして甘えた。

「さあ。呑みましょ。俺は、はじめ君を
酔い潰しにきたんですから。」

富士野先生は、ちょっと寂しそうに
微笑むと、とりあえずのビールを
もったいつけるように飲み干した。

「亮くん。何で勝負したい?」

「じゃあ。焼酎でいいですか?」

「いいね。焼酎。」

正直なところ、俺は富士野先生に
酒で負ける気はしなかったのだ。
もうお互いの身の上話なんかしながら
富士野先生のペースに合わせて
呑んであげよう、くらいに思っていた。
















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