「家」 @ 鎌倉七里ガ浜 + 時々八ヶ岳

湘南七里ガ浜(七里ヶ浜とも)から発信。自分の生活をダラダラと書きとめるブログ。食べ物、飲み物、犬の話題が多い。

照度@鎌倉七里ガ浜+八ヶ岳西麓(3) 谷崎潤一郎「陰翳礼讃」

2009-03-07 00:52:19 | 内装・インテリア
タイトルを知っている人は多いが実際に読んだことのある人が少ない、という本は世の中にたくさんある。この本もそのひとつであろう。谷崎潤一郎著「陰翳礼讃」。画像はこの文豪の他の随筆も一緒に織り込まれた中公文庫の中の一冊で、私が買ったのは2003年改版9刷である。谷崎潤一郎は洋行の体験がないらしい。しかしながらこの本では、建物の採光や屋内の照明に係わって欧州と日本を対比させ、日本の屋内における暗闇、照明の届く範囲の内と外、屋内でぼんやりと照らしだされる諸物の美しさを、丁寧に解説している。



これが書かれたのは第二次大戦前のことだ。その時点では一般的にまだ欧州と日本を比較すれば、日本の住宅の中は薄暗かったのであろう。今はそれが逆転している。変化が大きかったのは日本の方だ。日本の住宅は開口部を大きくし、軒も庇も短くあるいはなくし、照明には蛍光灯が多用され室内はとにかく明るいものになった。元来日本建築において広い開口部がある場合は、必ずその先に縁側あるいはそれに近い廊下のようなものがあり、さらにそれを覆う形で長く張り出す軒がセットになっていたわけで、決して室内の床部分を直射日光が1日中叩くような仕組みにはなっていなかったはずである。開口部をとおして室内から外を見れば広く明るいが、外から室内を見た時は薄暗かったことだろう。「開口部をとにかく広くして明るく」という施主のリクエストが強く、軒も庇もないままに開口部だけを押し広げた現代の住宅とはかなり異なる状況であったのだろう。今の日本では「陰翳」というものは消失しつつある。

日本人がとにかく照明を明るくしようとする傾向は、第二次大戦後にいきなり始まったわけではないらしい。すでにこの陰翳礼讃に、「これほどまでに明るいのはアメリカと日本だけ」という他人の批評を引用した記述も見られるのである。戦前にはすでに、「欧州よりも明るいのではないか」と感じられる所が日本に存在したらしい。



画像は我が家の洗面台正面の壁につけた照明器具。照明器具の下は鏡で、縁は木製(パイン)である。
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照度の話はちょっとお休み・・・ジャガー特別展示試乗会

2009-03-01 14:09:56 | クルマ
昨日からの住宅内の照度の話はちょっとお休みだ。



ジャガー湘南の敏腕セールスマンのM氏に誘われ、昨日本日と鎌倉プリンス・ホテルで開催されているJaguar Shonan Driving Days in 鎌倉、つまりはジャガー車の展示会に行ってみた。鎌倉プリンス・ホテルは自宅からスグである。徒歩で行ってみた。巨大なトレーラーがあった(上の画像)。側面全部がジャガーである。これに積まれてやって来たジャガーが4台置かれてあった(下の画像)。



4台並んだジャガー。左からX、XF、XJ、XKである。右にあるほど高いクルマである。一番右のXKは2ドアのクーペだが、それ以外は4ドアセダンだ。私のクルマとXKを交換してくれないかと、敏腕セールスマンのM氏と交渉してみたが、ダメだった。あっさりと断られてしまった(当たり前?)。同じ英国車を買うのならば、私ならXJのような内外装ともに英国的カルチャーを醸し出すクルマを選ぶのであろうが、それはどうも世の中の潮流からはずれつつある行為らしい。下の画像は現在の売れ筋のXFである。なんだかレクサスのようだ。と言うよりも、これがグローバルで無国籍なデザインに近いのだろう。



さて、私がもうちょっと歳をとった時の私のクルマは何になるのだろうか。出来る事ならXKみたいな2ドア・クーペでもっとコンパクトなのが欲しいなぁ。メルセデスにはSLKというのがあるが、あんなイメージである。趣味性だけでなく、自動車業界はエンジンの本質が変わりそうで、今後の変化が簡単には読めなくなってしまっているが。なぁ~んて言っている前に金をつくらなければ・・・。

ジャガーが欲しい方は神奈川県藤沢市立石2-7-4ジャガー湘南 TEL: 0466-82-2233 FAX: 0466-82-2223 URL: http://www.jaguar-shonan.com へどうぞ。敏腕セールスマンM氏をご指名なされば、M氏があなたのもとへ駆けつけますぞ!
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照度@鎌倉七里ガ浜+八ヶ岳西麓(2) 乾正雄先生「完全曇天空」

2009-03-01 09:39:30 | 内装・インテリア
鎌倉の自宅を建築中の2006年のことだ。当時出版されたばかりの祥伝社新書「ロウソクと蛍光灯」を読んで、私は感心した。著者は乾正雄東京工業大学名誉教授という人なのだが、欧州のあちこちを歩き周り、そこで照明や採光がどのように用いられているかを実地に調べておられたからだ。学術的な研究でこうしたものを、私はあまり見たことがなかったのだ。乾先生が言うには彼が知る限りにおいて、「照明をテーマに取り上げた唯一の新書」だそうである。



目次に挙げられている、私のとって興味深い項目を拾うと以下のとおりである:
●畳と相性のいい行灯
●和風建築の採光は大がかりな間接照明
●産業革命が冷温帯で起きたことの照明への影響
●つかのまだった日本のオイルランプ時代
●「明るさこそ文化」と思い込んだ遣欧使節団
●戦後の急速な蛍光灯の普及
●照明は本質的にスロー/交通機関はスピーディー/快適性はスピードとは無関係
●明るさは文明の発達指標か
●明るさ好きはスピード好き
●暗さの価値
●照明の後戻り

わずかの項目を読んだだけで、乾先生の言いたいことはわかる。一緒にするなと叱られそうだが、おおよそ私も同じように日々感じている。



もうひとつ、この乾先生の著書で私が初めて知ったものに「完全曇天空」という概念がある。以下は上記新書からの引用である:
太陽の位置がまったくわからない、空全部がムラなく一様な濃さに見える曇り空を「完全曇天空」というが、近代以後イギリスの照明学では、太陽光を基準とする代わりに、この完全曇天空を基準と見なすようになった。こんな曇り空なら、光は発するが熱は出さないと考えてよい。自然の空が人間に恵む照明専用の灯りなのである。そしてイギリスでは、完全曇天空下の地上での照度を5000ルクスときめて、室内の明るさを算出する際の基準にしている。<引用終わり>

空全部がムラなく曇天、という状態を明るさの基準にしようとするあたりがいかにも英国らしいので笑ってしまう。上の画像は本日の鎌倉山の住宅街を撮ったものだ。ちょうどこの空が完全曇天空だろうか。これを撮影した後、今朝の鎌倉は雨天になってしまった。この新書を読むと、日本の照明や建築がいかに安易にただ明るいということだけを目指してしまったか、ということがわかる気がした。



乾先生の新書が面白かったので、朝日選書も買ってみた。「夜は暗くてはいけないか(暗さの文化論)」である。ブリューゲルの風景画についてその空の色遣いから議論を始める。新書同様に目次から気になる項目を拾うと以下のとおりだ:
●完全曇天空の性状
●暗さを理解しなかった日本の文明開化
●日本座敷の光の流れ
●明るくなった日本
●寒暑の文化と光の文化
●室内側から見た窓
●住宅の歴史の連続性
●日欧の照明文化の比較
●夜のベルン
●不均一照明のすすめ
●明暗の共存の必要性

これもまた、項目を見ただけで先生の主張の概要は理解できる。欧州で発明された照明を日本も利用したが、その利用の仕方は「とにかく全部を明るく」であったし、建築における採光も同様であったらしい。戦後日本の変化はあまりにも急で、他国に例を見ないようだ。
コメント (4)
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