川名ますみ句集

花冠同人川名ますみのブログ句集

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第1部(平成17年~平成18年)

2008-11-23 21:00:18 | Weblog
●平成17年(41句)

初日の出窓辺に並ぶ車椅子
病室の嗽のコップに梅を挿す
静謐にピアノ弾きたし春の雪
春月のごとき音色のチェロを抱く
囀や木立の揺れている辺り
初蝶を見しはいつかと佳き声す
母の背に雨の匂いの桜花
紫木蓮小児病舎の窓ふさぐ
この橋を渡ればわが家春の川
銀漢を連れてギリシャへ友嫁ぐ

弾かずとも秋光満たすピアノかな
露草の瑠璃色溶けし空へ大樹
花鋏かたき音立て露を剪る
どの窓も澄める月夜を賜れり
防音の窓に光りぬ花芒
灯の親しスタッカートをひかえめに
高層階とんぼの領分超えいたり
病院を出るなり木犀の香を浴びる
露散らす横須賀線の単純な銀
手に軽くやわらかな本小春日に

夜霧濃し窓の日記に記しおく
画材店裏はがらりと蔦紅葉
銀色の列車あまねく霧に濡れ
黒鍵に触るる小指の秋気かな
天と話すやうなピアノを秋うらら
チェロケース抱き寄せて行く露の路
小鳥来てわが目の高さそこに置く
渡り鳥硝子のビルの中階を
パキラの葉一枚拭くも冬用意
俎板も鍋も厨は秋の音

集められ落葉の袋紅重し
秋燈下マスカラの影ほほに揺る
渡り鳥向き変えむとき白瞬く
蔦紅葉の薄きところに空の青
牡蠣殻のシンクに白く甘き香を
少しずつ父はカトレア咲かせおり
首都真昼銀杏黄葉の集む光り
冬晴れを地下道抜けてビルの間に
冬晴れて登ることなき山のぞむ
湯を吸いし柚子の重さを掌に

年の瀬の病院大き荷物行く


●平成18年(77句)

星冴えざえ夜にも蒼天あることを
雪礫空に返したくて放る
児ら帰る袋に雪をいっぱい詰め
笑顔らし母も抱っこの子もマスク
冬満月チェロの弛みし弦巻かむ
リーフパイ冬陽さくりと散らしけり
春コート裏地光らせ少女駈く
カトレアもパキラも外へ浅き春
春の風口中に湧く歌きよら
春光に縁取られつつ白衣過ぐ

春昼のビルあざやかにビル映す
春光も水も弾きて鳥発ちぬ
芽木一樹ゆっさり枝を伸ばしたり
雛祭こんなところに幼稚園
出勤のナース茜の春ショール
花満たし枝々濠へ傾れけり
残る鴨みずから生みし輪の芯に
傘立てにすらり金の柄春の雨
ひとつ咲き春光そこに集まれり
生きること許され今日の初桜

糸ざくら花なす前のほの紅き
一筒の注射入るまで春語る
ものすべて光らせ来たる木の芽風
庭息吹くその真ん中の欅の芽
中庭を来て髪梳けば草芳し
春雷のやみてややありチャイム鳴る
葉桜のさざめく濠の水みどり
医学部のメタセコイアの若葉濃き
買物籠にひときわ長き菖蒲の葉
病窓に向きあう丘の新樹燃ゆ

母の日の母の背中を掴み立つ
夕涼や母に拭かるる背と腋と
賜りし薔薇に添い来ぬ庭の匂い
病臥の眼に青きを映し五月行く
星涼し新刊本を軋ませ読み
吾と同じ月を見て立つ立葵
ラムネ飲むきれいに響くところまで
サルビアの咲き初め空の青間近
知らぬ名の真夏の島に父発てり
アガパンサス溢るる石の路涼し

筆談の字に汗にじむ静けさよ
夕焼が視界に入りて黙しけり
花桐に空き地の四方満たされし
夏料理ピンクペッパー散るマリネ
プールから花のタオルの中に入る
歯ブラシを朝涼の明るきへ立て
藍軽く歩き始めた児の甚平
空蝉が手にしがみつき離れない
空見よと扉を叩く母秋立つ日
白桃を滴らせたる銀フォーク

病室を廻る荷車柿積みき
爽かに湖に浸れる山の影
バイタルを映す画面の傍の桃
祭笛帰りし母の肩越しに
松手入空がどんどん広くなる
風の来て馳走となりぬ夜食粥
もう風は爽やかだから出ておいで
えのころの芯にぎっしり実の青き
秋の燈に張り替えし椅子の傷と艶
刷かれきてここより鰯雲となる

吾が窓に富士近づきぬ秋の朝
摘み来たる露けき草の匂い濃き
銀杏黄葉果てなき空に湧きあがる
新しきランプの白し秋の宵
秋冷を久しくふれぬ鍵盤に
秋水を呑めば胸元ことこと鳴る
鮪釣大声のまま父戻る
少女像石の額に冬日満つ
脱稿をこの日と決めし一葉忌
月に顔照らされ恥づることのなき

雲の切れ明るき冬の来ておりぬ
真っ白なショールの届き誕生日
焼藷屋やさしき節を晴れし夜に
カーテンに石鹸の香の小晦日
枯蔦に顕となれる煉瓦塀
今宵こそ散りたき黄葉一枚に
大枯野ひろびろ雲を映したる
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