川名ますみ句集

花冠同人川名ますみのブログ句集

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第2部(平成19年~平成20年)

2008-11-23 11:20:18 | Weblog
●平成19年(70句)

元日の都心八方がらんどう
少し泣き十年日記九年目に
アイラインかるく跳ねさせ初鏡
弾初に表紙の朱き楽譜選る
寒蜆からからと鳴る椀の底
厨より父の牡蠣剥く音静か
一曲を弾いて悴みやまぬ指
下萌へ影際やかに列車行く
草萌の遠目の岸辺ひろがりぬ
木の芽風なれば愉しき向かい風

賜りし人を想うて雛飾る
春空へ爪先立ちに絵馬重ぬ
春雷にそつと指組む胸の上
青き茎まつすぐ立たせ花菜風
試歩の日が青き踏む日となりにけり
春天のぐるり仰げば樹々ばかり
父母と息深うしぬ松の芯
風も陽も透ける薄さに初蝶来
高きより降りくる黄蝶ときに浮き
小手毬に幾通りある風の向き

燕来ぬ白衣寝衣の此処にまた
懐かしき人と飛燕の話から
つばくろの声に患者ら空仰ぐ
新緑に見え隠れする飛行船
ヴィオロンと青葉と古き公園に
紫陽花のまず葉の色に咲き初めぬ
針涼し濃き花柄の生地を裁つ
通夜の場へ辿り着けずに雷の下
光りつつ樹を離れむと桜の実
卯波より揚がる伊佐木の黒光り

雲の峯追うて何かを見逃せり
高梯子担ぐ庭師の日灼顔
枕辺に涼しき色の花籠を
夏至明けの寝静まる窓水色に
山峡の一家の植田陽を返す
きちきちを追うて着きたる祖父の墓
ヴェネツィアングラスの藍に鬼灯を
療苑を貫き越えぬ黒揚羽
門仰ぎ旅の終りの泰山木
その下に海あることを遠花火

公園の門を渡れる七夕竹
花火の間長くて次の大きなる
秋日傘ほどよく褪めし花模様
恥じろうて蝉見せし児の夕日中
どの窓も声溢れさす揚花火
母の掌の薄きにどさり黒葡萄
秋嶺や影あたらしき甲斐盆地
満月へ両手を広げ照らされむ
幾たびも窓へ野分の枝迫る
コスモスの花びら芯に陽を集む

稲田風果てに群峰連なれり
秋の雲ほどけしときの山近き
あきかぜに槐からから実を鳴らす
秋雲を流しゆるがぬ水平線
土の香を甦らせて零余子炒る
十三夜湯をはや済まし静かなり
後の月明かに街は子の多し
 転居の友へ
渡り鳥背の太陽の変りなき
五線紙に写譜ペン太く寒燈下
手袋に鴉のくれた実の紅さ

水鳥の斜めに森へ入る葉音
空碧く落葉跳ねたる石畳
冬晴の母子像に掛く千羽鶴
文学館どの窓からも冬紅葉
海のぞむ柵の意匠の冷たさに
甲斐駒の空に眩しく冬耕す
冬嶺へ白き撞木のまつすぐに
朱く照る枯山仰ぎ甲斐を発つ
窓越しの牡蠣割る音に眠りたり
母の拭く其処より明かる年用意


●平成20年(45句)

箸置に独楽を選んで祝箸
窓越しに手を振るナースお元日
はつ雪よ真下の屋根を見てごらん
凩に富士きらきらと近づきぬ
雨晴るる梅の蕾の触れ合いて
春雪に染まり初めたる真夜の庭
淡雪の燈に近づいて耀やかに
雫みな枝に光れる春みぞれ
運びつつ香をきく母の鉢の梅
扇より柳眉のぞかす古雛

永き日や窓に絶えざる靴の音
竹林をさらさら越ゆる春夕陽
下萌の川原ひろびろ橋渡す
雲の来て藍を濃くする春の川
芽柳を高く吹き上げ光とす
便りには雲の白さと初桜
卒業に旗の大きく両の門
梅東風を浴びて御礼の絵馬掛けし
敷石の小雨しらしら梅の苑
道ひろく春山絶えず正面に

春の田の傍に積まれしもの多し
段畑の最上段は桃の花
影もたず白蝶光のみを撒く
蒲公英の陽の色を挿す枕許
どの路へ入るも躑躅の朱烈し
蒲公英の絮よ此処から先は空
夏に入る酸素の音の逞しき
青葉雨けさより赤き車椅子
枕辺に摘み来し花の香の涼し
この道をまさらな若葉風と行く

スープにも粥にも紫蘇の香の蒼し
星涼し父の土産の匂袋
深々と杜ひらき割る那智の滝
羊歯青し飛沫絶えざる滝の下
紺青の傘をすらりと五月雨に
ランドセル背負う車椅子枇杷は黄に
紫陽花の碧き珠けさ大きなり
噴水の天辺のさき空青き
秋雲を映し硝子のビル碧し
まだ濡れて青空を指す曼珠沙華

水のいろ火のいろ街に秋燈
映画より帰りし父と十三夜
来し空を向いてゆりかもめの白し
水の香の土より立ちて野分雲
すらすらと風入る麻のワンピース
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9 コメント

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句集を拝読して (臼井愛代)
2008-11-26 14:56:35
川名ますみさんの御句には、透明で静謐な光に満ちているような清らかさがあります。
それは、澄んだ眼差しでものごとをまっすぐに捉えられる作者の姿勢が揺るぎないものであるからでしょう。
そして、そのような姿勢に、音楽家としての感性、情熱、また、療養中の御身からの思いも加わって、
生きる喜びや感動に満ちた、ますみさん独自の俳句の世界を創っておられることを感じます。
私は、ますみさんの御句に、何か、とても強いものを感じずにはいられません。
その、強いものとは、どこから来るのでしょうか。
信之先生の序文に、「ますみさんの句の新鮮さは、もの珍しさにあるのではなく、日常のどこにでもあって、
誰もが見ているものに作者自身の発見があることで、作者自身の驚きが新鮮なのである。」とありますが、
俳句に向かうときの正しい姿勢、正しいものの見方を、ますみさんは既に得ておられ、
それを大切な一日一日において、自然に実践しておられる凄さが、迫力となって私の心に訴えてくるのではないかと考えます。
俳句に向かうときの正しい姿勢、正しいものの見方が、私にはまだ身についておりません。
そういった意味でも、ますみさんの句集は、私にとって、貴重な勉強をさせていただいたものとなりました。
ありがとうございました。

<好きな句>
春光に縁取られつつ白衣過ぐ
夜霧濃し窓の日記に記しおく
雪礫空に返したくて放る
ものすべて光らせ来たる木の芽風
ラムネ飲むきれいに響くところまで
夕焼が視界に入りて黙しけり
脱稿をこの日と決めし一葉忌
少し泣き十年日記九年目に
雲の峯追うて何かを見逃せり
影もたず白蝶光のみを撒く
ブログ句集を拝読して (高橋正子)
2008-11-30 13:48:00
ブログ句集の出版、おめでとうございます。
ますみさんの俳句は、長く病気と闘っておられ、時にその辛さが垣間見れる句もありますが、表された句の多くは、それを感じさせない、若い人の、明るく西洋的な上品さがあります。また、繊細な感覚が、本質を突いていて内面性があり、話ことばの俳句も、アンデルセンの童話のような世界を広げています。旧来の俳句に囚われず、いいチャレンジをされていて、音楽で培った多くのことが、俳句にも表現されつつあることは、私たちにとって、いい刺激になっています。以下に好きな句をあげます。お大事にお過ごしください。

プールから花のタオルの中に入る
秋燈下マスカラの影ほほに揺る
中庭を来て髪梳けば草芳し
ラムネ飲むきれいに響くところまで
空見よと扉を叩く母秋立つ日
はつ雪よ真下の屋根を見てごらん
もう風は爽やかだから出ておいで
すらすらと風入る麻のワンピース
歯ブラシを朝涼の明るきへ立て
雪礫空に返したくて放る
脱稿をこの日と決めし一葉忌
水のいろ火のいろ街に秋燈
道ひろく春山絶えず正面に
小鳥来てわが目の高さそこに置く
雲の峯追うて何かを見逃せり
えのころの芯にぎっしり実の青き
ものすべて光らせ来たる木の芽風
ブログ句集拝読しました (藤田荘二)
2008-11-30 19:27:05
信之先生が序に「誰もが見ているものに作者自身の発見があることで、作者自身の驚きが新鮮なのである。療養生活の限られた中にあっても、心は自由で、閉ざされたところがない」と書いておられます。
ますみ様の俳句を通読して、信之先生のことばどおりに、私の心がひとつひとつの俳句の世界に溶け込んでいくように思いました。
ごく身近な自然を題材にして、ピアノの音のように、気持ちがとてもひろく闊達に飛び回っている感じがします。
近代文学館でお見かけしたときも、ひとつひとつの動作にこのようなますみ様の自由な心が反映しているように感じたことを思い出しました。
私も大学のオーケストラでバイオリンを弾いていましたが、こんなにおおらかには奏でることはできませんでした。ゆったりとして空間に静に響くピアノの音が俳句の背後から聞こえてくるようです。
私の経験からも、入院生活は閉ざされた世界にこもりがちになってしまいます。しかしこんな素敵な俳句ができるんですね。

どれも素敵な俳句ですが、

静謐にピアノ弾きたし春の雪
春月のごとき音色のチェロを抱く
花鋏かたき音立て露を剪る
小鳥来てわが目の高さそこに置く
どの窓も澄める月夜を賜れり
春光に縁取られつつ白衣過ぐ
残る鴨みずから生みし輪の芯に
ものすべて光らせ来たる木の芽風
ラムネ飲むきれいに響くところまで
雲の切れ明るき冬の来ておりぬ
風も陽も透ける薄さに初蝶来
雲の峯追うて何かを見逃せり
光りつつ樹を離れむと桜の実
満月へ両手を広げ照らされむ
甲斐駒の空に眩しく冬耕す
雲の来て藍を濃くする春の川
影もたず白蝶光のみを撒く
どの路へ入るも躑躅の朱烈し
蒲公英の絮よ此処から先は空

の句を選ばせていただきました。
このように明るい句をつくり続けておられるますみ様に心から敬意を表したいと思います。


句集を拝読して (高橋秀之)
2008-12-02 22:48:43
川名ますみさま、ブログ句集公開、おめでとうございます。

川名ますみさまとは、一昨年の水煙フェスティバルの席でお目にかからせていただきましたが、そのときのことが、つい昨日のように思い出されます。
高橋信之先生が「序」でも触れられておられますが、川名ますみさまの俳句には、何気ない日常であるのに、新鮮さ、観察の深さを感じさせてくれるとともに、ご両親への暖かい思いも感じさせてくれます。
この度のブログ句集で改めてこれまでの俳句を鑑賞させていただき、その思いをより一層強く感じさせていただきました。

特に好きな句として
真っ白なショールの届き誕生日

好きな句として
静謐にピアノ弾きたし春の雪
冬晴れて登ることなき山のぞむ
笑顔らし母も抱っこの子もマスク
ひとつ咲き春光そこに集まれり
病窓に向きあう丘の新樹燃ゆ
空見よと扉を叩く母秋立つ日どの窓も声溢れさす揚花火
甲斐駒の空に眩しく冬耕す
雫みな枝に光れる春みぞれ
枕辺に摘み来し花の香の涼し
水のいろ火のいろ街に秋燈

の12句をあげさせていただきます。

お礼 (川名 ますみ)
2008-12-04 18:21:29
この度は、信之先生、正子先生のお力によりましてブログ句集を作成、皆さまにご覧頂く運びとなりましたこと、大変有難く感謝いたします。この秋、また症状が強まり、未だ作句のままならない中、両先生から賜りましたブログ句集と、其処へ頂く句座の皆さまのお声は、この上ない励みでございます。
正子先生、愛代さま、荘二さま、秀之さま、早々にコメントを頂戴し、お好きな句をお選び下さいまして、ありがとうございました。あたたかいお言葉を支えに、療養に勉強につとめてまいります。今後とも、どうぞよろしくお導き下さいませ。
川名ますみ様へ (藤田洋子)
2008-12-09 21:24:05
川名ますみ様、ブログ句集を読ませていただきありがとうございました。境遇の如何にかかわらず、一女性の豊かな感受性あふれる視点の、何と新鮮でみずみずしいことかと感じ入っています。芸術家として養われた素養、繊細な感性や内に秘められた意志の強さで、日常から詩を見出され、それらの作品は、お会いした折の印象のままに清楚な気品を湛えられていて、明るい透明感に満ちています。そして、長い療養生活にもめげず、果敢に作品を生み出され、その純粋なひたむきなお心に、何より心打たれるものがあります。これからも、ご自身の心の調べを俳句という言葉で、素敵に奏でていただけることを心から願っております。どうぞ、くれぐれもお体大切にお過ごしくださいますように。

(好きな句)
小鳥来てわが目の高さそこに置く
少しずつ父はカトレア咲かせおり
ラムネ飲むきれいに響くところまで
プールから花のタオルの中に入る
えのころの芯にぎっしり実の青き
雪礫空に返したくて放る
リーフパイ冬陽さくりと散らしけり
残る鴨みずから生みし輪の芯に
ものすべて光らせ来たる木の芽風
秋冷を久しくふれぬ鍵盤に
真っ白なショールの届き誕生日
秋嶺や影あたらしき甲斐盆地
満月へ両手を広げ照らされむ
冬晴の母子像に掛く千羽鶴
青き茎まっすぐ立たせ花菜風
つばくろの声に患者ら空仰ぐ
きちきちを追うて着きたる祖父の墓
雫みな枝に光れる春みぞれ
道ひろく春山絶えず正面に
水のいろ火のいろ街に秋燈

お礼 (川名 ますみ)
2008-12-23 14:54:18
洋子さま、ブログ句集をご覧頂き、身に余るようなすてきなコメントを頂戴しまして、ありがとうございます。お言葉のひと言ひと言、お挙げ下さった拙句それぞれを、懐かしい想いとともに嬉しく拝見しました。殊に「心の調べを俳句という言葉で奏でていく」の一節は心に響き、これからの指針としたく留めおきました。感謝いたします。
ブログ句集を拝読して (志賀泰次)
2008-12-24 19:22:14
川名ますみ様、この度はブログ句集のご発刊お目出度うございます。最初の頃、デーリイ句会の投句を拝読していて療養の身ながら、自然の事象を受とめる素直さ、物事への繊細な観察、感性の新鮮さと文才の素晴らしさに何時も脱帽していました。後日ご自身音楽家であり、ご自分の俳句の世界を築きつつ詠んで多くの読者の共感を呼んでいることを知り納得しました。信之・正子両先生が代表句として挙げられた"ものすべて光らせ来たる木の芽風"の句、最近詠まれた"水のいろ火のいろ街に秋燈"などはまさに豊な感性から生まれた句そのものだと思います。そして、療養中でありながら、自分の為にこんなに素敵な自分の俳句を詠む事を"ますみさんの句"に学ばせて戴きましたし、その句に読み手の共感を得た時の喜びの大きさも味わさせて戴いた気がします。 有難うございました。
私もこの度、信之・正子両先生のお力で、ブログ句集を作って戴きました。今春の病告知を受けた一時は俳句に対する自失の時期もありましたが、今は確りと心の支えになりました。皆さんの俳句のパワ-を受止めて療養の糧にしょうと思っています。ますみさんに於かれましても、体調の障りのない範囲で、また読まさせて戴く事を楽しみにして居ります。今手元の句集句を読み返してみて素晴らしさに心を動かされて居ります。その中から印象に残る句を挙げさせて戴きました。
【好きな句】
小鳥来てわが目の高さそこに置く
雪礫空に返したくて放る
ものすべて光らせ来たる木の芽風
ラムネ飲むきれいに響くところまで
プールから花のタオルの中に入る
歯ブラシを朝涼の明るきへ立て
もう風は爽やかだから出ておいで
脱稿をこの日と決めし一葉忌
雲の峰追うて何かを見逃せり
療苑を貫き越えぬ黒揚羽
満月へ両手を広げ照らされむ
水鳥の斜めに森へ入る葉音
道ひろく春山絶えず正面に
段畑の最上段は桃の花
影もたず白蝶光のみを撒く
水のいろ火のいろ街に秋燈
お礼 (川名ますみ)
2009-06-23 18:29:43
泰次さま、お加減のすぐれぬときと存じますのに、ブログ句集へお目通し頂き、あたたかいお言葉をお掛け下さいまして、ありがとうございます。
泰次さまには、入会当初から、各句会で、拙い一句一句にお優しいコメントを頂戴し、この上ないお励ましを頂いてまいりました。この度、信之先生、正子先生のご尽力を賜り、ブログ句集を発表できましたのも、初心の投句より変わらずお励まし下さいました、泰次さまのおかげと感謝しております。
どうか泰次さまにも、お体おいとい下さいますように。私も、少しでも快復し、いつかお目に掛かれます日を、願っております。

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