2月28日(3句)
★充実といえるひと月二月尽/多田有花
一月の落ち着かなさが過ぎ厳寒の二月が「充実の月」と言うのは、十分に共感できる。充実の月が過ぎ、うきうきとした春が来る。(高橋正子)
★鯉こくや浅間南面雪のひま/小口泰與
花冠の水煙時代の大会を小諸で開いたことがあったが、その時に、佐久の鯉こくを頂いた。若草の萌える季節を思いつつ雪の残る中でいただく鯉こくは何よりの馳走であろう。(高橋正子)
★東風の瀬戸高速船の波しぶき/谷口博望 (満天星)
東風の瀬戸内海の光景が今も懐かしく思い浮かぶ。まさにこの通りの風景だ。波にもまれながらも、飛沫をあげて突き進む高速船が、小気味よい。(高橋正子)
2月27日(2句)
★三月の足音近し髪を切る/多田有花
下五の「髪を切る」は、女性の行為であろうが、生活に即したリアルな表現である。一句をしっかりと言い終えた。(高橋信之)
★田楽や辛口の酒酌み交わす/廣田洋一
「田楽」には、懐かしい思い出がある。幼いころは、旧満州の寒い地方で育った。大連である。緯度は北海道の札幌と同じであった。雪はあまり降らなかったが、冷たい風が吹き荒れた。旧制中学3年の春に引き上げて帰った。私はまだ、未成年だったので、「酒酌み」交わすことはなかったが、父が酒好きだったので、「酒酌み交わす」風景が日常生活にあった。「田楽」は春の季語で、「木の芽田楽」等とよく使う。春先の田楽の味噌は甘め。酒は辛口で、きりっとしめたいものだ。高橋信之)
2月26日(3句)
★喉通る鶯餅と茶の香/谷口博望 (満天星)
「鶯餅」と「茶の香」との取り合わせは、特に目新しいものではないが、日本人の誰もが思い出せば、嬉しくなる。上五の「喉通る」は、実にリアルであり、俳句ならではの写実を感じさせ、いい俳句だ。作者の日頃の精進を嬉しく思う。(高橋信之)
★梅が枝のつくるトンネル歩きけり/多田有花
この句は軽い句である。そして、いい句だ。秀句であると、言ってよい。(高橋信之)
★注文の球根届き春めきぬ/廣田洋一
読み手も嬉しくなる句。下五の「春めきぬ」が嬉しいのだ。私の好きな句。(高橋信之)
2月25日(2名)
★山めぐり靴より落とす春の泥/多田有花
山めぐりでよく見かけるが、印象深い風景だ。作者の体験があって、リアルだ。これが俳句なのだ。(高橋信之)
★うららかや詰所の看護師透る声/河野啓一
「うららか」である。療養中の身には嬉しい看護師の「透る声」だ。(高橋信之)
2月24日(2名)
★拭きあげし窓より春めく光入る/多田有花
いい生活句だ。私の好きな句。(高橋信之)
★菫咲く雨の雫を光らせて/廣田洋一
「菫咲く」雨の菫の存在は軽いものではない。下五に置いた「光らせて」が軽いものではないのだ。(高橋信之)
2月23日(3名)
★順々に咲く梅日ごと愛で歩く/多田有花
梅の開花は一度でなく、暖かくなる日ごとの温みにあわせたように、日々花を咲かせてくれる。歩けば、今日さいている梅の花に出会う。(高橋正子)
★芽柳や床体操の女学生/小口泰與
芽柳のしなやかさ、床体操をするしなやかな女学生。みずみずしい、やわらかな若さが通じ合う。(高橋正子)
★曲りたる被爆九輪は春の色/谷口博望 (満天星)
被爆した九輪が春の色として目に映る。春めいた空に緑青色の九輪がゆがんだままに聳えている。祈られるべき九輪。(高橋正子)
2月22日(2句)
★たんぽぽや妻の思ひ出湧き出づる/廣田洋一
妻との思い出が具体的にはわからないが、たんぽぽが散らばり咲いている、野の風景が、さらさらとした光の中に浮かんでくる。(高橋正子)
★びょうびょうと風が耳過ぎ揚げ雲雀/桑本栄太郎)
風がびょうびょうと耳元を過ぎてゆく寒さながら、雲雀が空高く揚がっている。高らかな雲雀の歌声に一点の春が見つかる。イタリアでは、早春のことをかわいい春、小さい春とも言うと昨夜ラジオ深夜便のイタリアだよりで聞いた。(高橋正子)
2月21日(2句)
★青空を背景に紅梅を写す/多田有花
素直な句だ。その「素直な」写生がいい。「青空」と「紅梅」の唯それだけで、風格を感じさせる句だ。(高橋信之)
★風光る初めてできた逆上がり/廣田洋一
写生句であろうか。それとも思い出の句であろうか。いずれにしてもいい句だ。上五に置いた季題の「風光る」は、まさに「季」であり、「題」である。そして、それに続く「初めて」がいい言葉だ。作者の想いを載せた「いい言葉」なのだ。(高橋信之)