[2月29日]
★大輪の椿堂々冴え返る/河野啓一
大輪の椿は花を咲かせたけれど、また寒い日に戻る。けれど、いったん花を咲かせた椿は、寒さにひるむことなく、堂々と咲いている。その見事さ。厳しい寒さあっての堂々ぶりといえる。(高橋正子)
[2月28日]
★震災の地すべり跡に芝桜/多田有花
震災のときの地滑りは、非常に無残な様相であったが、今では、その地滑りの傷跡を覆い尽くして芝桜が何事もなかったように咲いている。芝桜は、地滑りした地も、それを見る人の気持ちも癒してくれているようである。句意がはっきりしているのがよい。(高橋正子)
[2月27日]
★敷き紙を替えてスケート靴納め/上島祥子
一冬活躍したスケート靴も納める季節となった。楽しく滑った思い出とともに、靴箱に敷く紙をあたらしく替えて、またの出番に備えて納める。(高橋正子)
[2月26日]
★沖待ちの船が点灯冴え返る/高橋秀之
沖待ちの船に灯がともされ、「冴え返る」を身に染みて感じさせられる。港ではなく、沖待ちの船の「遠い灯」が冷たい空気にくっきりと灯っている。(高橋正子)
★陽を透かし虎杖紅く土手に萌ゆ/佃 康水
なんでも、生き生きとしているものは、見ているものの気持を励ましてくれる。虎杖の新芽の紅色が土手の陽を透かしている。見ていて、春が来た。暖かい季節ももうすぐだと思わせてくれる。(高橋正子)
[2月25日]
★水鉢に椿数多を浮かばせる/祝 恵子
鉢に水を張って、玄関先などに椿の花を浮かせているのを、ときどき見かける。数輪の椿の場合もあるし、この句のように、たくさんの椿を浮かせている場合もある。生活のなかに風雅を楽しんでいるのがいい。(高橋正子)
[2月24日]
★節々に硬き蕾を白木蓮/河野啓一
もう少し経てば、白木蓮が一斉に咲きだすが、それまでは、枝の節々にうぶ毛に包まれた銀色の蕾が寒さに耐え、日に輝きながら咲く日を待っている。「節々」「硬き蕾」に、花の生命力が象徴され、開花した時の美しさをも想像させている。写生が効いている。(高橋正子)
[2月23日]
★風光る藍染のれん真あたらし/小口泰與
真あたらしい藍染のれんに風が光る。真あたらしい藍染のれんの清潔さが風光る季節に特に鮮明目に入る。(高橋正子)
[2月22日]
★二ン月や小川の水の躍り居り/桑本栄太郎
まだまだ寒さが厳しい二月。けれども小川を流れる水は、水量も増えて、小躍りしているかのように、光りながら流れている。こんな様子を見るとたしかに春が来ている。(高橋正子)
[2月21日]
★ひな人形今日始まれる壇飾り/河野啓一
ひな人形を飾るのは、節分を過ぎてから、その家庭でまちまちであるが、啓一さんの家には、「今日」から飾られた。壇飾りのゆかしい雛が飾られると、一度に華やかな雛の間となる。「今日始まれる」が新鮮。(高橋正子)
★春の風梢の高みを通るらし/古田敬二
春の風がそよそよと高い梢を揺らして通り過ぎる。春の風は一番に梢を吹くようである。詩情のある句だ。(高橋正子)