タクシー人生

東京のタクシー人生について語ります。よくある話です。

085

2017-01-29 11:57:31 | 日記
空車の時と実車の時は走り方、運転が違ってくる。

空車の時は一番歩道側の車線、第一走行車線を走る。ゆっくり走る。
第一走行車線をゆっくり走るのは実はむずかしい。第一走行車線には
大抵駐車車両が停まっている。駐車車両を避けて、第二走行車線に
車線変更しまた戻る、ことが面倒だ。ずらりと駐車車両が並んでいて
まともに走れないことも多くある。また、交差点付近では左折車両で
詰まっていたり、左折専用車線になっていたりする。

しかし第二走行車線を走っていて、お客を発見して第一走行車線に
急に車線変更して停車するのは危険だ。できるだけ第一走行車線で
走りたい。だが、ついつい走りやすさから第二走行車線を走ってしまう。
と、後ろから来た空車が第一走行車線を走ってきて、内側から抜かれて
(私はゆっくり走っているので)前でお客を取られてしまうことが
よくある。

ゆっくり発進なので、外側から他の空車タクシーにお客を取られて
しまうこともよくある。だが、まあいいかと思っている。

実は営収、売り上げよりも、無事故無違反で一日でも長く続けていく
ことが重要であると考えている。売り上げが良くても、休憩をあまり
取らないとか、違法スレスレの着け待ちをしているとか、危険な運転を
するとか、規定時間をオーバーして営業するとか、上手に「乗車拒否」を
するとか、そのようなことをして売り上げを上げることにはまったく
興味がない。

私が尊敬する乗務員は長い間続けてこられた多くの方々だ。

安全で無理をしない運転をすれば、違反、事故の発生率は低くなる。

だが、違反も事故も起きる時には起きる。
30年間無事故無違反で表彰される優良乗務員でも、乱暴な運転をする
乗務員でも、事故が起きるか起きないかは2分の1の確率だ。

一瞬の見落とし、ちょっとした操作ミス、体調の不具合で事故(違反)
は起きる。どんな長期間無事故無違反できた人でも「俺はこの先、絶対 
違反も事故もしない」とは言い切れない。

それを肝に銘じて、日々乗務している。



084

2017-01-24 17:00:08 | 日記
「接客」は「明るく丁寧に」が基本だ。余計な事は聞かない、言わない、
必要でない限りこちらから話しかけない。も重要ポイント。

乗車申し込みがあり、車を停めて、前後左右確認してドアを開ける。

そこで、明るく「お待たせいたしました」と言う。お客が長い間待っていたのか
道に出てすぐにタクシーが来たのか、そんなことはわからないが、とにかく
「お待たせしました」だ。

お客様乗車で「ドアをお閉めします。よろしいですか」と振り返って、身体が
前部車内に入っているか、目視確認。で、ドアを閉める。

「どちらにまいりましょうか」と私は聞き、お客が答える。しっかり行き先を
言う場合と、「まっすぐ行け」とか、「次の角を左に曲がれ」としか言われない
場合がある。本音を言えば、行き先がわからないまま出発するのは避けたいが、
「目的地がわかりませんと、出発できません」とも言えず、そのまま出発。
(実は、目的地が不明な場合『お客が酩酊していて言えなかったり、伝える
意思がない時など』は乗車を断ってもいいとなってはいる)

目的地がはっきりしている場合は「道のご指定はございますか」と聞く。
「ご指定」と「ございますか」で「ご」が2度も出てきて、変だがこの聞き方に
なってしまった。

このような「経路の確認」はとても重要だ。中にはしっかり曲がる交差点や
通る道路名などを伝えてくれる場合もあるが、大抵は「おまかせ」である。
「おまかせで最短で可能な限り早く」などとよく言われる。

実はこの「おまかせ」がクセモノで、毎日のように利用していて、乗務員の
レベルを確かめようとする人が多くいる。「おまかせ」と言っているのに、
「いつもと違うコースだ、時間も金額も多くかかった」などとクレームに
発展する場合もある。なので、「おまかせ」と言われたら、大体のルートは
伝えた方が無難だ。「〇〇を通って、〇〇通りで進んでよろしいでしょうか」
などと伝える。

経路の確認ができたところで、出発となるわけだが、中には経路の確認を
するだけで、怒り出したり、「そんなことはいいから、早く出せ」と言われる
こともある。すべてに「絶対」はない。

4社などで、経路の確認前後に「この度はご利用ありがとうございます。〇〇交通の
〇〇です。安全のためシートベルトをお締めください」と言わせるところもある。

私はこれは言わない。(無線グループの営業マニュアルには自己紹介が必須と
なってはいるが)シートベルトについては、自動音声で案内されるので、これも
助かった。「シートベルトを締めてくれ」と言えば、何割かで怒り出す人も
いるように思う。

車内では何もなければ、目的地が近づき、停車場所を確認するまで、基本は無言。
(車内温度の確認は適宜する)だが、お客様から話しかけられれば、穏やかにあたり
さわりのないことを話すようにしている。大抵はそのお客様が気に入るように
対応する。「おっしゃるとおりですね」と言う。乗っている時間はその人が気持ち
よければいいのだ。自分の主義主張(も、あまりないが)と違っていても、
明らかに間違ったことを言われても、文句を言われても、愚痴を言われても
その場だけ平穏に過ごせればいい。「へーそうなんですか、すごいですね」とか
「わかります、わかります、本当にそうですね」などと言う。理不尽な怒りにも
「申し訳ございません」と頭を下げる。「お客は殿様」だからだ。

実は本音を言えば、お客とはあまり活発に話をしたくない、と思っている。
それは「話に気を取られて、運転に向ける注意が疎かになる危険」を感じるからだ。

実際にお客と話が盛り上がっていたら、曲がるところを間違えたことがある。

運転中はとにかく安全に快適に最適なルートとスピードで運行したいといつも思っている。

083

2017-01-22 11:59:52 | 日記
車内外の美化と共に、乗務員の「美化」も必要だと考えている。

美しくなる必要はないが、不潔感を与えないようにしたい。私の会社には
長髪や金髪や髭のある人はいないが、他の会社にはそのような人もいる。
また制服の着用もかなりしっかりしている方だとは思うが、他の会社では
ラフだったり、個人に至っては私服同然の人もいる。ワイシャツにはアイロン
をかけ、制服も定期的にクリーニングに出している。シートベルトで上着が
テカテカにならないように、シートベルトカバーを使用している。散髪は
定期的にして、みっともない髪型にならないようにしている。フケだらけの
人もわりといるが、そのようにならないようにしている。

車内での飲食はしない、と前に書いたが、食事についてもニンニクを使った
「スタミナ料理」系はなるべく避ける。食事の後には歯磨きをする。
ミンティアのドライハードを常備して眠気ざましと口臭予防に使用している。

このようにしてなるべく不潔感を与えないように努力している。

また、お客様が降車した後、車内の換気は頻繁に行い、なるべく前客の痕跡を
残さないようにしている。シートベルトやシートの乱れも、チェックする。

車内の温度もなるべく一定になるように、心がけている。これを書いているのは
真冬で、頻繁な換気は車内の温度を下げてしまうが、エアコン調節で対応する。

車内の温度については、基本的に女性客の場合、確認することにしている。
大抵は「このままでよい」との答えになる。温度設定を要求する人は
はじめから、自分で言うケースも多い。

夏場に「エアコンを切ってくれ」という女性客も多い。逆に「最強にしてくれ」
と言われることもある。

このように、なるべく「車内で快適に過ごしていただく」ことを目指している。

082

2017-01-12 17:49:53 | 日記
四社でも黒でもない中小のタクシー会社で、しかも私のような運転センスもなく
地理も不十分な人間がほかにできることと言えば、「車内美化」と「接客」で
ある。

私の会社は稼働率が高い方で、新人の内はなかなか専用の車を与えられない。
新人は「その日空いている車」に割り振られて、乗務する。車種はクラウンの
スーパーデラックスGパッケージだけだが、色々な車に乗ると、専用で使って
いる人の個性が車に出る。私は運転音痴なので、よくわからないが、車に詳しい人
だと、エンジンの調子とかブレーキやハンドルといったいろいろな点で違うそうだ。

車内外の美化も各社さまざまだ。私の会社は比較的「車をきれいにしている会社」
だと思う。少しの傷でもすぐに修理する。ホイールなどもきれいだ。都内を走って
いるタクシーで、ボロイなあ汚いなあと思うタクシーは多い。しかし、個人差は
どうしても出る。自分で洗車する人、社内の洗車スタッフに依頼する人、外部の
洗車屋に依頼する人、豆にワックスをかける人、車内に掃除機をよくかける人、
シートカバーを頻繁に交換する人、など様々で、それはそれなりに違ってくる。

車はきれいなことに越した事はない。営業途中で洗車する人もいる。

毎回違う車に乗ってばかりいると、よほど気になる状態でない限り、美化作業は
しなくなってしまう。美化作業も疲れる。

私は1年を過ぎた頃に専用の車になった。そこで美化作業を以下のように決めた。

ワックスは最低月1回、シートカバー交換も最低月1回、洗車は原則自分で行い、
車内の掃除機は毎回、タイヤワックスも毎回である。

ワックスとシートカバー交換はもっと短期間でおこなうべきかな、とも思っている。
会社によっては毎週行うことを義務付けていたりする。また、私の会社でも
「毎回シートカバーを交換する人」もいる。

また、車内に私物は置かない。トランクの底板の下のわずかなスペース(底板で
隠れる)に入るだけの荷物を入れ、車内には日報と地図だけにする。飲み物も
置かない。当然助手席には何も置かない。

トランクも同様に、まったくのからっぽ。洗車用の雑巾をトランク蓋の裏に「干して
いる」車をよく見かけるが、そのようなこともしない。

また、研修時指示されたように、休憩中も車内で飲食はしない。臭いが残ったり
食べカスが落ちるからだ。

081

2017-01-10 17:49:28 | 日記
地理を覚えるには個人の資質もあるが、一にも二にも努力、ということになる。

多くの乗務員がやっていることだが、私も乗務が終ると日報(自動日報と
私の会社では「手書き日報」も記入するので両方)をコピーして、明け番に
走ったルートはどうだったか、正しいルートだったか、他のルートはなかったか
などと確認する。この復習のようなことを私は「振り返り」とよんでいる。

地図は東京タクシーセンター発行の「都内交通案内地図」を利用している。
毎年発行され、必ずしも最新版を使わなくてもいいのだが、(規定では発行から
2年以内のもの、となっている)2014年度版を初めて購入して以来、毎年購入
している。都内はどんどん変化するので、新しい方がいいと思うからだ。

地図については、2008年度に発行された「タクシー虎の巻マップ」というもの
があって、タクシーがよく使う抜け道がかなり細かく載っている。この仕事を
やる前から存在は知っていたが、当然にして絶版であり、その後発行はされて
いない。私の会社でも何冊か見かけたが、大抵は個人所有のもので、利用は
できなかった。全ページをコピーするか、とも考えたが、ひょんなことから
一冊出てきて、会社のご配慮で「専用で使ってよい」ということで入手できた。

2008年と現在ではかなり道も変っているが、それでも素晴らしい内容だ。

私の尊敬する先輩乗務員の方は2冊持っているが、一冊は読みすぎてボロボロ
になってしまい、もう一冊を大事に使っている、と言っていた。

この2冊でルートの「振り返り」を行っている。

もっとも現在は社内でコピーを取るのが簡単に出来なくなり、(コピー機の
ある場所に乗務員は入室できないようになった)いちいち内勤者にコピーを
頼まなければならず、それがいやでコピーは取らなくなった。近くのコンビニ
に行くのもかったるいので。

そんなわけで、あまり振り返りが出来なくなってきている。

地理の習得が疎かになっている。


080

2017-01-03 16:59:04 | 日記
速度については、前にも書いたが、一般道では60Km/hを上限として
制限速度+10Km/hを目安としている。これならば、スピード違反で捕まる
ことはまずない。(絶対とは言い切れないが)高速道路は100Km/hが上限と
している。四社の厳しい会社だと、80Km/hが上限というところもある。

アクセルとブレーキについては、乗務員に成り立ての頃、おそらく「無賃乗車の
常連者」だったとは思うが、「お前のはガックンブレーキだ。加速のアクセルも
悪い」と言われたことがある。「成り立て」とはいっても、それまでに多くの
営業をしていて、そのように言われた事はなかったので、びっくりした。

「ガックンブレーキ」とは、車に詳しい人なら誰でも知っていることだが、
ブレーキを踏んで、停止までそのまま踏み続けると、車は停まる瞬間で「ガックン」
と衝撃が来る。そうならないためには、停まる瞬間の直前でブレーキをちょっと
緩めるのだが、それまではそのような意識を持ってブレーキをかけていなかった。
そのお客(無賃乗車だからお客でもないのだが)が、「ちょっと停まってみろ」
と言われた、ブレーキを踏むと、「ほら、ガックンとなるだろう」と言われた。

その後そのお客は「お前の運転だと、気持ちが悪くなる。もう乗っていられない。
ここで降ろせ」と言い、料金を払わないで降りてしまった。初めから「無賃乗車」を
するためにそのようなクレームを言ったのかもしれないが、それ以来、ガックン
ブレーキを気を付けている。同様に加速も「急」でなく、「ゆっくり」過ぎず、
調度よいタイミングの加速を心がけるようにしている。

079

2016-12-30 14:16:05 | 日記
タクシーとは「サービス業」と言われる。そのサービスの本質は言うまでもなく
「移動サービス」だ。タクシーに乗車することが第一目的で乗車する客は、
まずいない。あくまで「移動のための手段」としてタクシーがある。

で、あるならば、「移動」が最適な状態であることが、もっとも重要なポイントだ。

「最適な移動」とは、「安全且つ快適に最少時間で間違いなく目的地に到着する事」
となる。「最少時間で間違いなく目的地に到着する」ためには、地理を覚えなくてはいけない。

東京は覚えきれないほどの建物と道がある。23区武蔵野市三鷹市のあらゆる場所に
精通している、というような乗務員はまずいない。日々覚え、身につけていくしかない。
建物と道だけを知っていればいい、というものでもない。どの走行帯を走るか、どの
ルートを選択するか、時間帯でどのように変化するか、などまで優秀な乗務員は
スキルを持っている。

「安全且つ快適」も、ゆっくり走ればいい、と言うものでもない。「急」が付く
動作はすべてダメだが、(急発進、急ブレーキ、急ハンドル、などなど)あまりの
ゆっくり動作もお客は不満に感じる。速度違反にならない速度で、「急」動作が
なくて、「ゆっくりすぎる」と感じられない動作で、運転を行う。

この運転に関する「最適状況」が、サービスの大部分を占める。

オンボロのタクシーで車内も乗務員も不潔そうで、無愛想だが、「運転は最適状況」で到着した
場合と、綺麗なタクシーで乗務員の接客マナーも最高だが、道がわからない、運転が雑、
時間もかかった、という場合は、お客は前者を選ぶだろう。

私は何度も書いているように、運転のセンスはない方だと思う。道も覚えられない。
日に何度も(このルートでよかったのか、このルートが最適か?)と思う。
交差点も黄色点灯で止まると、(突っ込んだ方がよかったか、お客は不満に思わないか)と
思ってしまう。


078

2016-12-13 17:40:50 | 日記
私は20年以上 ある製造メーカーの営業職として働いた。

営業には当然、競合相手がいる。取り扱う品目も「画期的な新製品」
などはない。他社もそうだが、同じような商品を「物が溢れて売れない
時代」に営業をかけるのだから大変だ。

「もう十分間に合っているから、要らないよ」という顧客に対して
「そこをなんとか」と売り込むのが営業であり、そういう業界にいた。

そもそも「あまり買う気がない客」を「買う気にさせる」のが大変で
「買う気にさせれば」後はそんなに大変ではなかった。

タクシーの場合はどうか。まずその会社、加盟グループが行っている
「営業」がある。冒頭でも書いたが、それは専用乗り場であり、専用チケット
であり、企業イメージを上げる活動であり、内部では乗務員のスキルを上げる
ための施策などが、それに当たる。加えて、各乗務員は個人個人でどこを
走れば、どこに着け待ちすれば、効率のよい乗車ができるかを日々考え、
行動している。これらが、「乗客にたどり着けるまでの営業努力」なのだが、
そんなことに関係なく、ただ流しているだけでも お客はいる。

ただ流しているだけでは「効率のよい乗務」にはならないし、実際の営収
に違いがでてくるのだが、繰り返すが、ただ流していてもお客はいる。

そのお客は手を上げて「乗りますよ」と言っている。

はじめから「買う気」がある「顧客」ということになる。

手を上げた時点で、商談はすでに成立しているようなものだ。

「買う気になっているお客と出会った時点で仕事が始まる」のだから、
これは簡単だ、と思った。


今まで私がしてきた「営業」を タクシー業界で表現するならば、
「バスに乗るため、バス停で待っている人になんとかタクシーに
乗ってくれ、と訴える」ようなものになる。

タクシーセンターではそのようなお客の勧誘は禁止とされている。


077

2016-12-06 17:04:23 | 日記
076では実質的なデメリットを書いたが、精神的なデメリットは大きい。

冒頭でも書いたように、「世間の目」を冷たく感じる。「最底辺の仕事」
「最後の仕事」「まともな人はしない仕事」というような感覚。
そのように思われているのではないか、という自意識。それらが苦しい。

この仕事をするまで、私は個人的にはタクシー乗務員については、そのような
感覚は持ちはしなかった。「職業に貴賎はない」という信念を持って生きて
きた。だが、実際にこの仕事をしてみると、世間の目を感じてしまう。

それは、私自身がそう思ってしまうからで、具体的にそのような体験をした
ことはあまりない。だから、私がそのように思わなければいいだけのこと
なのだが、どうしてもそのように感じてしまう。

しかし、よく電話をしてきた知人が、この仕事をしてからまったく電話が
来なくなったことはある。また、私は住んでいる地域である趣味のサークル
活動をしているが、そのメンバーにも転職先について、しばらくは伝えることが
できなかった。タクシーと知ってしまったことで、活動に影響があるかも
しれないと思ったからだ。現在は「カミングアウト」しているが、気のせいか
メンバーからはその後、仕事についての会話がなくなった気がする。

「お仕事は何をしているのですか?」と聞かれて「普通の会社員です」と
答えてしまう。

車内で「前はどんなお仕事でしたか」とお客に聞かれ、「普通の会社員でした」
と答えると、ビックリされることも多い。その時、お客は「この人は何か不祥事
でも起こして辞めざるを得なかったのか」とか思っているのかもしれない。
会社が倒産したとか、会社を倒産させたとか、田舎から出稼ぎで来ているとか
そういう理由でないとタクシー運転手をしてはいけないのだろうか。

以前の会社の社員とは、まったく交際を絶っているが、それも軽蔑と哀れみを
受けるのがイヤだから、ということも理由のひとつだ。「うつ病で辞めた
〇〇さんて、今タクシーの運転手やってるんだって」という情報が以前の会社で
広まってほしくないと思っているからだ。(もう、バレているかもしれないが)

タクシーにまつわるニュースは多い。事故やトラブルや、このブログを
書いている2016年12月は11月末に「チャゲ&飛鳥」のASKA容疑者が2度目の
覚醒剤使用容疑で逮捕された日のタクシー車内映像が放送局に流出し、
「良識がない」と社会問題になった。

そういう時は決まって、「だからタクシーなんて、、」という話になる。

私は「優良な会社の仕事に耐えられなくなって、職場を放棄して、
逃げ出して、退職して、まともな会社に就職できず、どんな人でもなれる
タクシー運転手をしかたなくやっている」 のである。

常にこのような「苦界に身を沈めている」気持ちがある。

だが、そう思う反面、たまらない開放感があるのも、また事実なのだ。



076

2016-11-28 18:33:17 | 日記
「基本的条件を守って仕事をすれば、あとは自分の管理だけ」ということは
個人事業主に近い。法人乗務員であっても「組織に管理されている」意識は
低い。だから、手抜きもできるし、逆に「規定を超えて仕事をする」ことも
できる。

この世界には、「同じ仕事をグループで行う」ことはない。出発すれば、ひとり
である。まわりはすべてが「競合相手」だ。同じ会社でも「競合相手」である。

ひとりでする仕事だから、前の会社のように、「私の背中越し30センチ後ろに、
私の方を向いているデスクに座り、一日中私をいじめる事しかしない」上司はいない。
また、「出世と自己保身だけに囚われて、小ずるく立ち回る」同僚もいない。
また、「小学生のような世界観しか持ち得ない、愚かな」部下もいない。会社には
運行管理者はいるが、基本を守って仕事をしている限り何も言われない。

とにかく、ひとりである。出社し、始業点検をし、点呼を受けて出庫する。
帰庫し、洗車し、納金処理をして退社する。すべてひとりである。点呼を受ける前の
時間は同じ時間に出庫する人と軽い世間話や業界話をするが、深くは交わらない。
仕事終わりに飲みに行くということもない。(している人はもちろんいるが)

どこで、休憩し、食事をし、仕事するのも自由である。この開放感は前の会社では
なかった。

また、1日乗務すれば、翌日は明け番、「休み」だ。労働基準法的には「休み」では
なく、1回(1日)の乗務で2日分の労働となるので、明け番は「休み」ではない。
だから、ひと月12回の乗務で24日分働いていることになるのだが、どうしても明け番は
「休み」と感じてしまう。「明け番」が2回来ると、本当の「公休」が来る。
休んでばかりである。実際、膨大な自由な時間ができた。ひと月12日を働いて、
18日が休みだからである。明け番に趣味のスポーツをしたり、映画を観たり、図書館に
行ったり、有意義に過ごすことができる。

アルコール摂取については、出番の日はもちろんまったく飲まないし、その前日も
早い時間に軽く飲む程度なので、全体の量は減った。以前は365日飲んでいたが、
月に12日間は「完全休肝日」があるということになる。

アルコール摂取が減ったことと、スポーツの時間が増えたためか、体重も減ってきた。
前の会社の頃に比べ5kgは減量できている。

まったく、いいことばかりである。

良いことばかり書いては、いかがかと思い、デメリットも書いておく。

第一はもちろん、収入の減少だ。前の会社に比べて、約三分の二になった。
収入減少と休日の増加で、妻の「私に対する態度」は悪化した。彼女にすれば
「家にいないで、給料をたくさんもらえる夫」の方が、「家にいて、給料を
あまりもらえない夫」よりも良いのだろう。最近は小言ばかり言われる。
どうして小言が多いのか、とある時聞いたら、「前から言いたかったが、我慢
していた」そうだ。では、ストレスなく小言を言える現在の方が彼女にとっても
良いのではないかとも思うのだが。

第二に、会社の保障がないこと、が揚げられる。事故を起こす、または事故に会う、
違反で免許停止になる、免許取り消しになる、病気で入院する、そのような事由で
仕事ができなくなった時、会社のフォローはゼロだ。なにもない。傷病手当など、
国が定めた保障しかない。このような事態になったら、路頭に迷ってしまう。
前の会社は会社が定めた休業保障があった。前にも述べたが、1年以上休職したとしても、
給料は支給された。私は2013年の年末から休職し、一度も復職することなく、
2014年の3月31日で退社したが、その間の給料は100%支給され、すばらしいことに
上期の賞与まで支給された。

この辺がデメリット。


075

2016-11-28 17:28:46 | 日記
普通自動車の免許があれば、基本的にどんな人でもタクシー乗務員になれる。
そして「普通に仕事をすれば」給与所得は国内全体の平均よりも、大抵の人は
多くの給料を得ることができる(東京の場合)。

タクシー乗務員の平均給与が全体平均よりも低いのは「普通に仕事をしていない人」の
割合が多いからだと、私は思う。規定時間よりも短い労働時間であったり、
休憩や仮眠が多かったり、効率が悪くても楽な「着け待ち」ばかりしていたり、
欠勤が多い、という人が平均を下げている。

営収がいい人は、個人のセンスや技術、経験もあるが、すべての人が真面目に
手抜きなく乗務している。手抜きをして且つ営収がよい人はいない。

しかし、手抜きをしても仕事が続けられるのがこの業界である。
完全歩合だから、「営収に応じて給料は決まる」のである。

客としてタクシーに乗った時、「借金のある人は一生懸命働くけど、借金が
ない人はあんまり仕事しないね」と聞いたことがある。

給料の締め日は会社によって違うが、15日、20日あたり。給料の支給日の後、
締め日の後は欠勤者が増え、走るタクシーの台数は減る。

タクシー乗務員は大きく分けて、個人と法人とがある。

個人は「個人事業主」だから、営収のすべてが自分の収入となる。その代わり、
経費もすべて自分で賄わなくてはならない。営業車、燃料、保険、車検、
経年劣化の対応、修理費用、すべてが自己負担。一方法人乗務員は、それらの
経費は会社持ち、の代わりに歩合で会社に「天引き」されるわけである。

仕事内容は変らない。運転してお客様を乗せるだけ。法人はレンタカーを借りて
営業し、個人は自分の車で営業するみたいなものだ。

はじめから個人タクシーの乗務員にはなれないが、「経費はすべて会社持ち」
というのは ある意味気楽でいいと思った。



074

2016-11-18 18:07:33 | 日記
会社にふたりしかいない課長(乗務員の取りまとめ、営業管理業務、運行管理者)の
ひとりは私にこう言った。(乗務員の経験を経て、管理者になった)

「私はこの仕事をして、本当によかったと思った。お客様に道を教えてもらって
それでお金をいただく。お礼にこちらから支払いたい位なのに、お金をもらえる。
こんな仕事はほかにはないですよ」

たしかに、タクシー乗務員にはトレーニング期間、試用期間などはない。(研修が
長い会社はあるが) 出庫すれば、新人も30年のベテランも同じ土俵で仕事を
することになる。大手四社には車のサイドに「新人マーク」をつけて、「研修中」と
腕章をつけるところもあるが、たとえそういう場合でも「新人だから料金は割引」
もなければ、「新人だから道を知らなくて当然」との甘えも許されない。「新人
だから交通違反は大目に見てやる」もなければ「新人で運転が下手だから、事故を
起こしても責任は軽くしてやる」もない。

それでも毎日多くの「ど新人タクシー」は街を走っている。そして「ど新人」の
多くは「道がよくわからないので、教えてください」と言い、「道を教えてもらって
お金をいただく」ことをしている。

この仕事は、ある点から見れば「最底辺の仕事」だが、「一日に何回も
お客様からお礼を言われる仕事」でもある。中には「道を教えてもらったのに
お礼を言われ、お金をもらう」事だってあるわけだ。

一日に何度も「ありがとうございました」と言われ、お金をもらう。

飛行機のパイロット、新幹線の運転手、高度な技能と、難関を突破した者だけが
なれる職種ではあるが、この人たちに利用客は「ありがとう」と言えるだろうか。


デビューからしばらくして、この仕事は「私に合っている」と思うようになった。




073

2016-11-16 18:03:09 | 日記
長時間の運転に耐えられるか、居眠り運転をしてしまわないか、という不安は
数回乗務したら払拭できた。

時間は今でも、「あっという間に帰庫時間」になってしまう。1~2時間など瞬間に
過ぎていく。

眠気については、眠くはなる。だが、電車に乗っている時の様に「寝落ち」
することはない。「眠いなー」と感じてくる。この状態で運転することはとても
危険である。一度信号待ちで一瞬寝てしまって、後ろの車から大クラクションを
鳴らされたことがあった。それ以来 眠気を感じたら、安全なところに車を停めて
10分~15分の仮眠を取るようにしている。

「車内で寝てはいけない」と所長のレクチャーで教わったが、緊急避難という意味で
いいだろうと自分では納得している。

乗務して数ヶ月経った頃、腰がとても痛くなった。車はもうGパッケージになって
いたが、乗務中は痛くなくても、翌日明け番で痛くなる。立っていられないくらい
痛くなってしまったので、通販で腰痛パッドを購入した。腰痛パッドもいろいろな
タイプがあり、自分の身体に合う合わないがあると思ったが、幸いにも購入した
パッドは私に合っていて、腰痛は改善された。

072

2016-10-27 11:36:34 | 日記
乗務してみて驚いたことは、こんなにも多くのお客様がいる、ということだ。
東京都内のタクシーはざっくり日々30000台以上の台数が走っている。都会は
空車のタクシーだらけだ。何台も連なって空車が来ることがある。

そんなに多くのタクシーが走っていて、その中には四社があり、黒タクがある。

私のような中小無線グループの色つきタクシーなど、誰も乗らないのではないか
と思っていた。だが、実際はこれでもか、というくらいに手が挙がる。不思議だ。

それだけ、都内には人が多くいるのである。タクシーという、距離当たりの運賃で
考えれば、日本で最もコスパが悪い乗り物にも乗ろうと思う人はいて、あえて
四社や個人や黒タクに拘らずに「一番初めに来たタクシーに乗ろう」と
手を挙げる人がいる。

一日目 32回、二日目 31回。これが私が「営業した」回数だ。GW前のどん底に
厳しい時期で、前も後ろも左も右もわからない「ド新人」なのに、これだけの
回数ができている。


日報を見た課長から「しっかり走れている。特に一日目のラストの川崎のように
ラストでロングが引けるのが理想的。これからも無理をしないで頑張って」と
褒められた。

私が幸運だったのは、ある程度ではあるが、都内の地理がわかっていたことだと
思う。大学時代は中野区に住んで、原付自転車で都内を走っていた。中野区に
隣接する新宿区、練馬区、杉並区、渋谷区もなんとなくはわかっていた。

また、就職して営業職になり、限られた場所ではあったが、車での営業で都内を
走った。違う営業部に異動してからは、一年間大田区品川区を、さらにもう一年は
世田谷区のエリア担当となり、この二年間はその区内を細かく走った。現在は
江東区に住んでいる。

上記が「比較的わかるエリア」でこの地域は初めからある程度はわかっていた
ので、それほど不安はなかった。(逆に言えば、この地域以外はまったく
わかっていなかったのだが)

タクシーに転職してくる人で前述のAさんのように、まったく道がわからないまま
短期間で辞めてしまうケースが多い。これが、前職が運送業や営業職などで、都内を
走っていた人は初めから好成績を上げるケースが多い。



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2016-10-23 13:11:32 | 日記
出庫午前6時、帰庫午前3時、21時間は長いとは感じなかった。あっという間に感じた。

「はじめはコンフォート」と言われた通り、1ヶ月位はコンフォートが多かった。
硬いコンフォートの運転席に長い時間座っていると、あちこちが痛くなった。
運転席というより、「操縦席」といった方がイメージが合うように思った。

洗車も自分でやった。1時間くらいかかってしまった。今でも原則、自分で洗車する。
それでもやはり45分くらいはかかる。どうしてもそれくらいの時間はかかってしまう。
洗車は次に乗る運転者のためでもあり、自分のためでもあり、「車に対するお礼」の
ような意味があると思っている。愛馬をいたわるカウボーイのように、「こんな運転
下手の新米運転手のためによく働いてくれた」と感謝を込めて洗車している。

しかし、21時間の乗務を終えてからの洗車は体力的にキツイ。極寒の冬場、蒸し暑い
夏場は特に辛い。

2回目の乗務4月26日は31回、42710円。

給料締めは21日~翌月20日で、乗務は4月23日~5月18日だったが、思えばこの時期は
ゴールデンウィークがあり、1年で一番「売り上げが厳しい月」だった。
最高額は58210円、最低は39130円だった。最低の日は無謀にも羽田に並んでみようと
思い、乗車まで2時間30分もかかってしまった。羽田で並ばずに普通に流していたら
4万は行ったのではないかな、と思っている。

タクシーセンターでいっしょになった沖縄出身のAさんと再会する。地理試験は4回目で
やっと受かったそうだ。元気がなかった。

新人で道がわからないというと半分くらいのお客が「じゃ、乗らない」と言って断る、
そうだ。売り上げも出来ず、つらいと言っていた。

前にも書いたかもしれないが、私は「道がわからない」と言って乗車を断られた事は
2回位しかない。一度目は西麻布で酔客、「赤羽橋に行け」と言われ、どの道で行くのか
と確認すると、道もわからないのか、と言って降りていった。

二度目は恵比寿から駒沢通りを進行中、六本木ヒルズへのカップル。六本木通りから
ヒルズを右に曲がって、ケヤキ坂の上から左折して映画館の前で停めろと言われた。
六本木通り、六本木6丁目の信号は普通に右折すると319号線に入る側道か、ヒルズの
森タワー内に入る道のどちらかしかなく、グランドハイアットの車寄せ方向の道には
行けない。

そちらに行くためには六本木6丁目を左折して、すぐにUターン路に入るのだが、
その時はその曲がり方がわからず、「わかりません」と言うと、映画の時間が
迫っているので、わからないならば乗らない、と断られた。

今にして思えば、お客の思うコースで進行ももちろんできるが、この左折、Uターン、
六本木通りの信号待ち、ケヤキ坂上の信号待ち、などを考えると普通に森タワー内
センターループに入って、ショップ車寄せAで停めた方が、圧倒的に早い気がする。
車寄せAから映画館は歩いてすぐだ。ケヤキ坂で停めてもあまり距離は変らない。

と、多少愚痴っぽくなってしまったが、「道がわからない、じゃ、やめる」と言われた
ケースはこの2回位しかない。今でも不慣れな地域では「道がわからない」と言っているが
同じである。大抵は道を教えてくれる。

Aさんの言う「半数に断られた」は、おそらくはAさんにも問題があるのかと思う。
おどおどして、「新人なのでまったくわかりません」と不安気な運転手には乗りたく
ないだろう。

Aさんは数乗務した後、会社を辞めていった。

Aさんは沖縄出身だから都内の道は本当にまったくわからない。わたしは東京暮らしが長いから、
ある程度は道がわかる。わたしがまったく知らない土地でタクシー乗務員ができるか、
と言われれば自信はない。