会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

西川廣人さんに日産社長の資格はない――グレッグ・ケリー前代表取締役世界初告白(文春オンラインより)

西川廣人さんに日産社長の資格はない――グレッグ・ケリー前代表取締役世界初告白

「文藝春秋」7月号に掲載されたグレッグ・ケリー前代表取締役へのインタビュー記事の全文です。24時間限定公開となっています。期間終了後は文藝春秋をご覧ください。

現在問題になっている西川社長の不正報酬についても詳しくふれていますが、ここでは、ゴーン氏の報酬に関する部分を中心にピックアップしました。

まず、ケリー氏の経歴、ゴーン氏との関係、逮捕された時の様子などを話しています。(日本でのミーティングに出席するよう指示され、12月に米国で手術を受ける予定だったので、ビデオ会議での参加を申し入れたところ、会社のチャーター機を出すから11月19日に日本に着いてほしいといわれ、日本に着いた直後に逮捕されたそうです。通常は民間のエアラインを利用しており、会社が用意した飛行機に乗るのは初めてのことだったそうです。つまり、会社におびき出されたということになります。)

ゴーン氏の報酬虚偽記載関連。

「ケリー 私は役員の総報酬額とゴーン氏以外の役員の報酬はだいたい知っていましたから、ゴーン氏の報酬額を類推することはできました。あくまで推測と断っておきますが、開示義務が施行される前は20億円くらいだったと思います。

...

実は、報酬を大きくカットした後、ゴーン氏から「法の範囲内で報酬を得る方法を模索して欲しい」と依頼を受けたことがあります。私は信頼できる弁護士に調査を頼みました。その時は、子会社から報酬を受け取る方法などを検討しましたが、いずれも法的に難しいことがわかり、その話は無理だという結論に至りました。」

「――それで退職後に支払うことになったのですか。

ケリー いいえ、ゴーン氏の退職後の報酬の話が持ち上がったのは、こういったことがあった後、2011年の夏から秋頃です。人事担当である私の仕事は、いい人材をリクルーティングして、いい人材にいい教育を与え、そして、いい人材の流出を防ぐことでした。ゴーン氏は当時、57歳で自動車業界のCEOとしては2番目に若く、かつまた2番目に長いキャリアを積んでいました。そしてその当時は、60歳になる2014年には退社すると見られていました。ゴーン氏がライバル会社に引き抜かれたら大変なことになります。これは現実的な危機感として、西川さんはじめ日産の経営陣が共有していたことでした。

...仮に(ルノーCEOを兼務していた)ゴーン氏がいなくなったら、日産の独立性をどうやって担保できるのか。役員たちの頭を悩ませる非常に大きな懸念事項だったのです。

2011年6月に代表取締役に昇格した西川さんも、ゴーン氏の報酬が高いことは意味のあることだと考えていました。彼はルノーの役員(2006年~)でもありましたから、ゴーン氏が退社した場合のリスクを肌身に感じ、誰よりも日産が置かれた状況を深刻に捉えていたのです。

西川さんと私は経営と人事のトップとして、ゴーン氏が退社するリスクをいかに最小限に抑えるか議論を重ねました。その一つの案として2011年夏過ぎに西川さんと私の2人で考えたのが、ゴーン氏と退職後に「アグリーメント(EMPLOYMENT AGREEMENT=雇用契約)」を結ぶ方法でした。」

「――アグリーメント? それは何ですか。

ケリー 退職した後もゴーン氏が日産にとって、とても重要であり、かけがえのない存在であることを伝えるための書類です。西川さんから「たたき台となるような案を作って欲しい」と依頼され、私がA4の紙2枚の書類を作成しました。

この雇用契約のたたき台では、まずゴーン氏に対して、最高顧問兼名誉会長への就任を提案しています。彼はさまざまな政府と交渉することができますし、独自のネットワークで優秀な人材を雇うこともできる。もちろん、ビジネスのアイデアもある。最高顧問として、広い意味で日産のためのコンサルティングを求めたのです。

そして最も大事なことは、日産と競争関係にならないことを約束してもらうことでした。日産との競業禁止の契約があれば、日産にとって大きな価値があるというのが西川さんと私の考えでした。

――書類には、退社後の報酬についても書かれているのですか。

ケリー 金額も書いてあります。コンサルタント料などの報酬です。この書類には西川さんから承認のサインももらっています。」

「―その書類のことは検察から聞かれていますか。

ケリー ええ。ただ、ゴーン氏の退職後の報酬については、私はこの書類のことしか知りません。他に書類があるのかどうかわかりませんが、私は一切タッチしていないのです。もうひとつ言っておきたいのは、この書類が作成されたのが2011年の11月終わりだということです。検察は2011年6月までに共謀が成立したと言っているようですが、この書類は6月時点ではまだ作られていませんでした。」

「ケリー 西川さんがサインした後、ゴーンさんに書類を見せると、自ら修正を加えました。その時、30億円を4000万米ドルとペンで書き換えたのです。

ゴーン氏の修正を受けて書類を打ち直し、西川さんにゴーン氏の修正内容を確認してもらいました。西川さんはOKし、再度、承認のサインをして最終的な契約書案になりました。ですから2011年の書類について、西川さんは何度も確認した上でサインを2回しています。ゴーン氏がサインをしていませんから、契約内容は確定していません。西川氏は日産の代表として、ゴーン氏がこれだけのことをしてくれれば、これだけの報酬は支払うと誠意を見せたということです。

ゴーン氏の部屋を訪れた時は、私ひとりだったと記憶しています。ただ、西川さんはすべてを承知していました。

――法的な拘束力のある契約書にしなかったのはなぜですか。

ケリー 我々は、ゴーン氏が退社するまで法的に契約を結ぶ権限はありませんでした。そのとき西川さんと私が日産にいるかどうかもわかりません。ですから支払いを始める日付や、西川さんのサインの下にある日付の欄は空白のままなのです。」

「――検察は、退職後に支払われる「将来払い」の分を隠したとしてケリーさんを追及しています。正式な契約書にしなかったのは、将来払いの約束とみられることを避けるためではないのですか。

ケリー その将来払いの話ですが、検察はどうやって約90億円という金額を計算したのか、まだ理解に苦しんでいるところです。

将来払いという発想は、西川さんにも私にもありませんでした。そもそも私はゴーン氏が報酬をどれだけ減額したのか正確には知りませんし、この書面は、あくまでも退職後の仕事に対する対価を提示し、またゴーン氏に退職後も日産と関係を持たせる引き留め策として考え出されたものなのです。それにあくまでも退職後に結ばれる予定の契約ですから、ゴーン氏は退職後にサインすることになっている。ゴーン氏がサインして初めて報酬も確定するのです。

その後、この書類は折に触れて修正が加えられ、ゴーン氏によって一時金6000万ドルまで引き上げられました。2013年と2015年に修正された書類には、西川さんとともに私もサインをしています。」

「――有価証券報告書の虚偽記載について、元CEOオフィスのヘッドと元秘書室長は罪を認めて司法取引に応じています。ケリーさんは、無罪を主張しますか。

ケリー 私は完全に無罪だと申し上げます。独房に入れられている時は、「なぜ私は西川さんと同じ場所にいないのだろうか」と思いました。西川さんと私は全く同じ目的であの書類を作成していましたから。西川氏が逮捕されないのなら、私も逮捕されないはずです。」

ゴーン氏が減らされた報酬を何らかの方法で取り戻したいと画策していたことは、このインタビューからもわかりますが、取締役報酬としてではなく、退任後の顧問報酬・コンサルタント報酬・競業禁止の対価としてとして、受け取ろうとしていたようです。

ゴーン氏に株主総会で承認された限度内で役員報酬を配分する権限があったとしても、それはあくまで、役員報酬が対象ですから、退任後のコンサル報酬などの名目であれば、別途承認を受けるまでは会社としては支払い義務は生じないのではないでしょうか。また、退任後の業務の対価なわけですから、在任時の費用ではないでしょう。そのように考えると、費用計上は不要、役員報酬の開示対象でもないということになります。

(それとも、会社法の解釈として、株主総会で承認された枠の余った分は、配分権限者が、どんな名目でも、また、どんな時期にでも(例えば退任後でも)支払いできるのでしょうか。)

特別背任容疑の中東ルートについては、ケリー氏はまったく関わりがないそうです。

住宅購入について。

「ケリー たしか2011年にゴーン氏が私のところに来まして、「今後、ブラジルと中東で、ビジネスのためにより多くの時間を過ごしたい。拠点となる家や滞在できる場所を日産が用意することはできるか」と尋ねてきたのです。2つともゴーン氏と縁のある地域ですが、そのときブラジルでは、新工場を建設する予定(2014年稼働)でしたし、日産の戦略として両地域の利益率やシェアの向上を重要と考えていた時期でもありました。

私が会社規定を良く知る秘書室の責任者に相談したところ、「ビジネスで頻繁に長期滞在しているのであれば、会社のお金で購入することも問題ない」という答えが返ってきました。過去にも経営陣からのリクエストで、スイスにビジネス用に家を確保した例があり、ゴーン氏が初めてのケースではありませんでした。そこで私は専門家に依頼して社外秘で購入を進めることにしました。特に治安とか安全性を気にする場合は、それが重要だからです。

これは、もちろん西川さんも承知のことでした。2011年にゴーン氏CEO退職後の雇用契約書案を作ったときも、パリやブラジル、レバノンの不動産を明記して、私からきちんと説明しましたし、その場で承諾してもらっています。

ただし不動産の契約にあたっては、私からゴーン氏に対して会社に損が出ないようにすべきだと助言しました。このときゴーン氏はまだ2014年に退社する可能性がありましたので、その場合は、その時の市場価格、もしくは会社が支出した総費用のどちらか高い方でゴーン氏が購入するとしたのです。ゴーン氏はこれを承諾しました。」

「――維持費や管理費なども日産に負担させていたと批判されています。これについてはどう思いますか。

ケリー ブラジルでの月々のコストは、ホテルに宿泊するのと同じくらいだったと記憶しています。メンテナンス費は会社持ちでしたが、例えば部屋数を増やしたりすれば、そのぶん不動産価格は上がりますから、最終的にゴーンさんが買い取る約束があれば、会社に損害を与えることは一切ありません。」

このあと、西川氏から日産に新しい家を購入してほしいという要求があったことを話しています。

西川社長の株価連動型役員報酬の行使日操作について。

「――日産の負担は増えますが、行使日の変更は認められることなのですか。

ケリー 変更を担当したのは秘書室です。私が知っているのは5月14日に一度行使したのに、その後に日付だけを変更して「再行使」し、当初の行使のときよりもずいぶん大きな金を儲けたということです。具体的にどのような手続きが行われたのかはわかりません。」

先日の会社の発表では、すべてケリー氏が主導して不正な操作をやったようにいっていましたが、ケリー氏の方は秘書室が手続きしたといっています。ケリー氏はまがりなりにも取締役ですから、わざわざ自分で事務手続をやったりはしないでしょう。また、会社の主張によれば、ケリー氏はゴーン氏とぐるだとされているのに、なぜ西川氏の不正の手伝いをしないといけないのでしょう。3氏がつるんでいたというのならわかりますが...。

事件全体について。

「――ケリーさんは、今回の事件を「政治的な問題」と思われているのですか。

ケリー もしゴーン氏の退職後の雇用契約について何らかの疑問があるのであれば、社内で処理、解決できたはずです。なぜ私、もしくはゴーン氏に「説明して欲しい」という話が一切ないまま、議論も会議もなく、突然の逮捕にいたったのか。この検討に関与していたのが私たち2人だけでないことを考えれば、本件での突然の逮捕は普通ではありえませんし異常です。」

これはもっともな意見です。ゴーン氏らに公私混同の行為や不透明取引の疑いがあったのなら、弁明の機会を与えた上で、取締役会でクビにすればいいだけの話です。いきなり、人質司法の特捜部を巻き込んで、追い出す必要はないでしょう。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「不正経理」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事