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「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」の公表について

「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」の公表について

金融庁の「誤解」シリーズの第2弾(?)として「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」という文書が、2010年4月23日に公表されました(第1弾はJ-SOX)。

「IFRSに関して、誤解を招く情報が流布されているとの指摘があることから、IFRSに関して誤解があると思われる事例を集めたもの」とされています。

全般的事項11項目、個別的事項6項目の「誤解」とそれに対応する「実際」が書かれ、簡単な箇条書きの説明がなされています。

ただし、「正確性よりも分かりやすさに重点を置いて作成した」、「異なる前提条件が存在する場合等には、考え方が異なることもある」という断り書きも付いており注意が必要です。

具体的に「誤解」として挙がっているのは以下の項目です。

全般的事項

1. 上場企業は直ちにIFRSが適用される
2. 非上場の会社(中小企業など)にもIFRSは適用されるのか
3. 全面的なITシステムの見直しが必要か
4. 社内の人材のみではIFRSに対応できないのではないか
5. 監査人の対応が厳しくなるのではないか
8. 監査は国際監査基準で行う必要があるのか
6. 英語版IFRSを参照する必要があるのか
7. 財務諸表は英語でも作成する必要があるのか
9. 監査は大手監査法人でないとできない
10. これまでとは全く異なる内部統制を新たに整備しなければならないのか
11. 業績管理や内部管理の資料もIFRSになるのか

個別的事項

1.IFRSは徹底した時価主義なのではないか
2.持ち合い株式の時価評価により業績(当期純利益)が悪化するのではないか
3.IFRSでは、利益の表示が当期純利益から包括利益のみに変わるのではないか
4.企業年金の会計処理方法の変更により、企業の業績が悪化し、年金財政も悪化・崩壊するのではないか
5.売上の計上にあたり、IFRSを導入すると出荷基準が使えなくなり、期末はすべての着荷や検収の確認をしなければならないのか。また工事進行基準は認められなくなるのか。
6.減価償却の償却方法は定率法が全く使えなくなるのではないか

また、(参考)として、IFRS適用の実務上の問題については、ASBJを窓口として、IASBに相談・照会できるとしています。

全体として、IFRSと日本基準の差異は大きくない、企業の負担(システム、人材、監査対応、英語、内部統制など)も言われているほどではないと主張しているようです。

といっても、J-SOXの場合は完全に日本のローカル基準であり、金融庁がコントロールできるルールだったのに対し、IFRSは金融庁の影響力がほとんど及ばないところで作られているものですから、金融庁のいうことを信じていいのかどうかはわかりません(ざっと読んだ限りではだいたいあっていると思いますが)。

いずれにしても、ごく簡単な文書なので、一読をお勧めします。

このように金融庁は(企業を安心させようとして?)IFRSになってもあまり変わらないと予想しているわけですが、その一方で(少なくとも宣伝文句では)IFRSになると思考方法から抜本的に変わるのだと言っている書籍もあります。

知らないではすまされない マネジメントのためのIFRS知らないではすまされない マネジメントのためのIFRS

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宣伝文句によると「IFRSは経営管理のための会計ではなく、「デューデリ発想(投資価値算定)会計」」であり、この本では「従来の会計の発想とは異なるIFRSの本質を解説」しているのだそうです。大手監査法人のパートナーが書いているのでたぶんおかしな本ではないのでしょう。

金融庁、IFRSに関する17の「誤解」を公表(@ITより)

「既存システムの全面的な見直しは不要」、金融庁がIFRSに関する17の誤解に回答(ITProより)

(補足)

「誤解」では、最近話題になっている非上場会社の会計についての項目で、「非上場の会社(中小企業など)に対するIFRSの強制適用は、将来的にも全く想定されていない」と言い切っています。これに関しては2つの点で疑問があります。

まず、同じ金商法適用会社でも上場と非上場という区分で適用される基準を変えるのかという点です。四半期報告や内部統制報告制度では、すでにそうなっているわけですが、年度の会計基準までそうするのでしょうか。

2つ目は、金商法が適用されない大多数の非上場会社は、会社法で「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従う」とされているだけですので、適用すべき会計基準を強制する権限はそもそも金融庁にはないという点です。それなのになぜ断言できるのでしょうか。(この点はむしろ金融庁に中小企業を含めた会社全般の会計基準に関する権限を与えるべきという考え方もあるでしょう。)
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