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「源泉徴収はナチスの発明」というウソ 謬説はなぜ広まったのか?(現代ビジネスより)

「源泉徴収はナチスの発明」というウソ 謬説はなぜ広まったのか?

「源泉徴収はナチスが発明した」という説は間違いであるという記事。なぜそういう説が流布したのかについても述べています。

「ナチスの政策のなかにも「良いもの」はあった。ネット上を中心にしばしばそんな主張を見かける。

しかし実はそうした主張の多くは少なからぬ事実誤認を含んでいたり、政策の全体を見ずに一部だけを切り取っていたりする――そうした巷間の「ナチス擁護論」の杜撰さと危うさを指摘した『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(小野寺拓也・田野大輔)がベストセラーとなっている。

「ナチスは良いこともした」という主張の根拠の一つとしてしばしば持ち出されるのが、「源泉徴収はナチスが発明した」という説だ。同書の著者の一人である甲南大学教授の田野大輔氏が、この説の虚実、そして、なぜこの説が広まったのかを検証する(文中敬称略)。」

「一部の読者には驚きかもしれないが、実はこの「ナチスの発明」という俗説はまったくのデタラメである。所得税の源泉徴収イギリスではナポレオン戦争期の1803年に、アメリカでは南北戦争期の1862年に導入されており、ドイツでも第一次世界大戦直後の1920年に導入されている。ドイツ連邦財務省の公式HPには、次のような記述もある。「1920年の全国所得税法によって初めて全国統一的に、すべての労働所得に対して雇用主による税の徴収が導入された」(「所得税 Lohnsteuer」の項目)。

ドイツの源泉徴収制度はヒトラーが政権を握る13年前、ワイマール共和国のエルツベルガー財務相が1919年から翌年にかけて行った包括的な税制・財政改革の一環として導入したものである。第一次世界大戦の敗戦による深刻な財政危機に直面していた共和国政府が、大衆課税による増収と税務行政の効率化をはかる目的で行った改革だが、これによって今日につながるドイツの租税・財政制度の基盤が確立されたというのが、研究者の間で一致した見方となっている。このとき採用された源泉徴収を、ナチスはただ受け継いだにすぎない。」

源泉徴収はナチスが発明したひどい制度だという見方(「戦時期に導入された源泉徴収がいまだに給与所得者を縛り続けている」)と、逆にナチスもよいことをしていたという主張の両方から、間違った説が広まったそうです(最近は後者)。

この記事によると、結構有名な学者や評論家が、間違った説を広めたようです。日本の源泉徴収導入には「ナチス・ドイツの強い影響」があったという見方(これ自体は間違いではない)が、だんだん話が盛られて、ナチスが発明したというところまで行ってしまったようです。

国税出身の人が書いた源泉税の解説書によると、日本では、ナチスよりはるか前の明治32年に源泉徴収が初めて行われています。ただし、そのときは、利子所得が対象でした。記事でもふれているように、現在の給与所得にあたる勤労所得が源泉徴収の対象となったのは、昭和15年度で、これはナチスの時期とたしかに一致しています。年末調整は、第二次世界大戦後の昭和22年の改正で導入されたもので、ナチスとは関係なさそうです。

源泉徴収といえば、令和6年定額減税は、源泉徴収を使ってやることになっており、源泉徴収義務者の事務的負担が懸念されているようです。政府にとっては、便利な制度なのでしょうが、少し濫用気味です。

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