会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

日経社説 時価会計「凍結」の意味を考える(10/27)

NIKKEI NET(日経ネット):社説・春秋〓日本経済新聞の社説、1面コラムの春秋

10月27日日経朝刊の社説です。「理外の理で、・・・時価会計の一時停止もあり得る」などといっていますが、そもそも議論の前提が間違っているので問題外です。

「米欧各国は金融システムの防衛になりふり構わぬ対応を迫られ、銀行間取引の政府保証、公的資金の資本注入などと並び、時価会計の凍結でも足並みをそろえつつある。株安が続く日本も例外ではなくなった。」

先日の会計士協会の会長声明にもあったように、金融商品に関する現行の会計基準を凍結しようとしている(少なくともそうした動きが具体化している)国は世界中どこにもありません。

「欧州も対応に動いている。欧州連合(EU)が採用する会計基準の設定機関である国際会計基準審議会は金融商品の保有目的の変更を禁じたルールを緩め、米国並みに時価評価を適用するかどうかを選べる幅を広げ価格変動リスクを軽減した。」

「米国並み」というと、米国基準では保有目的の変更を簡単に認めているような印象を受けますが、週刊経営財務10月27日号のASBJレポート(12ページ)によれば、トレーディング分類からの再分類は極めてまれだということです。国際会計基準の改正内容を見ても、そうした再分類はまれだとし、乱用を禁ずる規定も設けるといっています。常識的に考えても、そうした振替を自由にしたら、含み益のあるものは売買目的のまま、含み損になりそうなものは満期目的に振り替えるといった操作が簡単にできてしまい、めちゃくちゃになってしまいます(振替を厳格に時価でやらせればある程度防止はできそうですが)。

また、「時と場合によっては」という条件つきではあるものの、日経が凍結を主張している「時価会計」とは具体的にどの規定を指すのでしょうか。

金融商品に関する現行の会計基準(金融商品会計基準)制定前にも、有価証券の強制評価減の規定は存在していました。優良企業の間では節税目的もあって有価証券に低価法を採用している例も多くありました。この低価法も銘柄別の低価法ですから、含み益の部分はまったく反映されないという非常に健全な処理です。その時代に戻せという主張なのでしょうか。ちなみに、現行基準では含み益と含み損がネットされた金額で自己資本に影響する(売買目的有価証券やその他有価証券の場合)ので、旧基準より、影響は緩和されています。

「時価会計は、価格変動が激しさを増す経済環境の変化を踏まえ、企業の経営者がリスクを正確に認識し、投資家に正確な情報を開示する目的で導入が進められてきた。しかし、予測と評価を大胆に採り入れた会計は、主観の介在で信頼を失うという本末転倒の結果を招いた面がある。会計は経営の実態を表現する道具であり、時価評価は重要な情報ではあっても、万能ではない。」

非常にもっともらしいことが書かれていますが、今問題となっているのは、大勢の市場参加者が証券取引所において活発に取り引きした結果成立した価格が暴落していることなのですから、金融機関がいい加減な価格を付けて店頭売買してきた証券化商品とはことなり「予測と評価」とか「主観の介在」はまったく関係ありません。完全に的はずれの議論といえます。

【金融危機】引き金は「メガバンクショック」 金融株への恨み節
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