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国際監査基準570(改訂)「継続企業」の公開草案の翻訳の公表について(日本公認会計士協会)

国際監査基準570(改訂)「継続企業」の公開草案の翻訳の公表について

国際監査・保証基準審議会(IAASB)が、国際監査基準(ISA)570「継続企業」の改訂案を、2023年4月に公表しました(当サイトの関連記事)。

その日本語訳が、日本公認会計士協会ウェブサイトで公開されました。

(原文はこちらから→PROPOSED INTERNATIONAL STANDARD ON AUDITING 570 (REVISED 202X) GOING CONCERN AND PROPOSED CONFORMING AND CONSEQUENTIAL AMENDMENTS TO OTHER ISAS

文書全体では170ページほどありますが、改訂部分の説明や他の基準の適合修正も含んでおり、改訂案自体は60ページほどです。

改訂に関する説明文書の中で、フローチャートが掲載されています(翻訳版48ページ)。

また、付録1では、主な変更点が、項目ごとに箇条書きでまとめられています。そのうち「要求事項」の改訂部分。

第11項から第15項
要求事項
以下を目的として、要求事項を強化又は新たに追加した。
• 監査人による、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況の適時な識別に対し、適切な根拠を裏付ける監査証拠を提供するリスク評価手続を実施するための、より頑健なアプローチを可能にすること。
• 企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムを理解するために、ISA 315(2019年改訂)の基本的要求事項を踏まえ、継続企業の前提の問題に関連するリスク評価手続を実施すること。

第20項から第23項及び第28項
要求事項
• 監査人の評価の根拠として使用される経営者による12か月の評価期間の開始日を期末日から財務諸表の承認日に変更する。
• 監査報告書日の翌日から財務諸表の発行日までの間に入手可能となる情報の検討を監査人に要求することにより、要求事項及びISA 560との連携を強化した。
経営者が評価を実施しない又は評価期間を延長しない場合の要求事項を強化した。

第26項から第27項
要求事項
• 経営者による継続企業の前提に関する評価を裏付けるために企業のオーナー経営者を含む第三者又は関連当事者による財務的支援が必要である場合に、このような関係者の意思と能力を評価するための、監査人に対する新たな要求事項。

第16項から第17項、第19項及び第24項から第25項
要求事項
以下を目的として、要求事項を強化又は新たに追加した。
• 監査手続を実施し、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が識別されたかどうかにかかわらず、経営者による継続企業の前提に関する評価を評価する。
• ISA 540(改訂)の概念を活用し、継続企業の前提に関する評価を実施するために経営者が使用する見積手法、仮定及びデータを評価するための監査手続を実施する。
• 経営者がこれまで識別又は監査人に開示したことのない継続企業の前提に疑義を生じさせるような事象又は状況を監査人が識別した場合には、経営者に対してその評価の更新を明確に求め、また監査人に対して必要に応じて更新された評価に対する監査手続の実施を明確に求める新しい要求事項。

第17項及び第29項
要求事項
• 裏付けとなる監査証拠の入手、又は矛盾する監査証拠の排除のいずれにも偏向しない方法で、経営者による評価を検討する際の、職業的専門家としての懐疑心の重要性を強調するための新しい要求事項。
• 継続企業の前提に関する評価において経営者が行った判断及び決定は、それらが個別には合理的な場合であっても、経営者による潜在的な偏向の兆候がないか否かを評価するための新しい要求事項。

第12項(f)及び第39項
要求事項
• 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が識別されたときに、監査全体を通して、透明性を向上し、適時な双方向のコミュニケーションを奨励するために、ガバナンスに責任を有する者とのコミュニケーションに関する要求事項を強化。
• リスク評価手続とこれに関連する活動の一環として、ガバナンスに責任を有する者がどのように経営者による継続企業の前提に関する評価を監督しているかを理解できるようにするための新しい要求事項。

第40項 要求事項
• 監査人に対する新たな要求事項で、継続企業の前提に関する重要な不確実性が監査報告書に記載されている場合、又は除外事項付意見が発行される場合において、適切な規制当局への報告を法令等が要求しているか、又はその責任を法令等が定めているかどうかの検討を要求している。

第33項から第37項
要求事項
以下を目的として、要求事項を新たに追加した。
• 継続企業を前提として財務諸表を作成することが適切で、重要な不確実性が認められない場合、継続企業の前提に関する明示的な記述を監査報告書の独立した区分に行う
• 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が識別された場合、又は「継続企業の前提に関する重要な不確実性」の区分が設けられる場合、上場企業の監査報告書に、監査人はどのように経営者による継続企業の前提に関する評価を検討したかを記述する。

現行の日本基準の表現に合わせる意図があるのだと思いますが、訳語には問題があると思います。

具体的には、the entity’s ability to continue as a going concern(直訳すれば「継続企業として存続する能力」でしょう)を、「継続企業の前提」と訳している点です。

例えば、9項の原文と日本語訳を比べると...

Objectives
9. The objectives of the auditor are:
(a) To obtain sufficient appropriate audit evidence regarding, and conclude on, the appropriateness of management’s use of the going concern basis of accounting in the preparation of the financial statements;
(b) To conclude, based on the audit evidence obtained, whether a material uncertainty exists related to events or conditions that may cast significant doubt on the entity’s ability to continue as a going concern; and
(c) To report in accordance with this ISA.

「目的
9. 本ISAにおける監査人の目的は、以下のとおりである。
(a) 経営者が継続企業を前提として財務諸表を作成することの適切性について十分かつ適切な監査証拠を入手し結論付けること。
(b) 入手した監査証拠に基づき、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況に関する重要な不確実性が認められるか否かについて結論付けること。
(c) 本ISAに従って報告すること。」

use of the going concern basis of accountingを、「継続企業を前提として財務諸表を作成すること」と訳すのは理解できるのですが、(b)のsignificant doubt on the entity’s ability to continue as a going concernには、「前提」という言葉は入っていません。ここは、継続企業として存続する能力に重要な疑義があるかどうかが重要なポイントですから、それを曖昧にしてはいけないでしょう。

ただし、監査報告書の文例(文例3)では、「会社が継続企業として存続できる能力に重要な疑義」という文言になっており、原文どおりに訳しているようです(原文どおりのため、9項の文言とは差異が生じている)。

「継続企業の前提に関する重要な不確実性
監査人は、経営者が継続企業を前提として財務諸表を作成することが適切であると判断している。ただし、財務諸表の注記Xに注意を喚起する。注記Xによれば、20X1年12月31日に終了した会計年度において、会社はZZZの純損失を計上し、同日現在、会社の流動負債は総資産をYYYだけ上回っている。注記Xに記載されているとおり、これらの事象又は状況は、注記Xに記載されているその他の事項とともに、会社が継続企業として存続できる能力に重要な疑義を生じさせるような重要な不確実性が認められることを示している。
当該事項は、監査人の意見に影響を及ぼすものではない。」

なお、6月にASBJと会計士協会から公表された「日本公認会計士協会が公表した実務指針等の移管に関する意見の募集」では、継続企業が検討課題のひとつ(もう一つは後発事象)となっています。

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